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幕間2【グレイトソール】のヘルト


 俺達【グレイトソール】はギルドの掲示板に張られていた依頼書を受付嬢のセリカに渡した。


「最近魔物討伐の依頼増えていないか?」


「増えていますね。そう言えば、昨日【赤いソール】の皆さんもゴブリン討伐に向かわれましたよ」

 セリカは俺達が【赤いソール】と仲がいいのを知っていた。


「あいつらがゴブリン討伐だって」

 セリカの言葉に不安がよぎった。ユンケル達はD級になっているので弱くはないが、俺達から見ればまだまだ経験が浅かった。


「はい。コシナダ村に向かわれました」


「コシナダ村なら途中の村だから、様子が分かるわ。急ぎましょう」

 ミカサが心配そうな表情をしている。


「そうだな」

 俺達はイシナダ村に現れたコボルトの調査と討伐の依頼を請けると、コシナダ村に向かって馬車を走らせた。


 バッハレドからだとコシナダ村まで二日は掛かるが、馬に無理をさせて一日半で到着した。

 村長の話しでは、昨日の夕方に到着した【赤いソール】のメンバーは、村人が攫われていると聞いてその足で森に入っていって戻って来ていないそうだ。


(遅かったか)

 ゴブリンは決して強い魔物ではないが、数で攻めてくる厄介な相手なのだ。


「リーダー、急がないと」


「行くぞ、油断をするなよ」

 ブライに声を掛けられた俺は、仲間とゴブリンが住み着いていると思われる森に向かった。


 俺の仲間は戦士のブライに拳闘士のカシミア、それに魔法使いのミカサの三人だ。ちなみに俺は、自分では剣を極めたつもりでいる剣士なのだ。

 森に続く道には何かを引き摺った跡が複数残っていたが、血痕もなく何の跡だかは分からなかった。


「やけに静かね」

 探索能力があるカシミアが五感を研ぎ澄まして、周辺の警戒に当たっている。


「頭のいいゴブリンが居ると罠を仕掛けるから気を付けろ」


「ユンケル達は、大丈夫かしら」

 ミカサが暗い表情をしている。


「今は戦いに集中しろ!」

 仲間に注意を促してはみたが、俺達を慕ってくれていた後輩で友だった冒険者を想うと胸が締め付けられた。


「あそこだわ」

 薄暗い森を進んでいると、カシミアが指差した。


 少し開けた場所には木の枝を集めただけのような小屋が幾つもあったが、不気味なほど静まり返っていた。


「これだけの規模だと、少なくても五十匹はいる筈なのに、まったく気配がないな」

 俺はロングソードを抜き、ブライは盾と斧を構えた。


「ファイアボールで、あぶり出してみましょうか?」


「攫われた人がいるかもしれないから、抑えていけよ」

 俺が答えると、ミカサが一番手前の小屋に小さな火の玉を飛ばした。


 ボンと小さな破裂音がして枝の束が燃え上がったが、ゴブリンどころかネズミ一匹出てこなかった。


「変だな」

 さらに注意して進むと、木の陰にゴブリンの亡骸が幾つも転がっていた。

 調べてみるとどの骸も頚動脈が掻き切られるか、頸椎が折られていて即死状態だった。


「何があったんだ?」


「抵抗をした形跡が殆ど見られないから、これは人間技ではないわね。寝込みをオオカミの群れにでも襲われたんじゃないかしら」

 首の骨が折れたゴブリンを調べていたカシミアが、一撃で決まったであろう技に感心している。


「オオカミにしては足跡も残っていないし、肉を食った痕もないぞ」

 ブライとカシミアが意見を言い合っている。


 何に襲われてかは分からなかったが、ゴブリンの集団はほぼ一瞬で全滅させられたようだ。


「これは!」

 広場と思われる場所には人間の死体が転がっていて、ユンケル達も殺されていた。


「セレット!」

 ミカサが全裸に近い女性の遺体を抱き締めて号泣をした。


 セレットは腹部に魔法攻撃を受けた形跡があり、傍には黒焦げになったゴブリンの骸も転がっていた。

 【赤いソール】のメンバーも村人も男は惨たらしく撲殺されていて、全員の死に顔が恐怖に引き攣っていてリンチ的な虐殺の光景が思われて吐き気がした。


 冒険者をしている以上は常に死と隣り合わせだが、これほどまでに無残な現場を見たのは初めてだった。

 暫く黙祷を捧げた俺達は調査を再開した。


「これ、ゴブリンキングじゃないか?」

 ブライが一番奥まった小屋から。煌びやかな服を着たゴブリンを引きずり出してきた。


「ゴブリンキングにゴブリンメイジが居たとなるとユンケル達には厳しすぎたようだな」



 村人の女性達はゴブリンに凌辱を受けたようで、視線は定まらずに裸のまま茫然自失している。

 この先彼女達が生きていくのは地獄だろうと考えると、全員が暗いに気分になった。


「リーダー、どうするよ?」


「村に戻って報告をするしかないだろ」

 俺は友を失った悔しさに唇を噛んだ。


「ユンケル達は、どうするの?」

 カシミアとミカサは友を想って涙を流し続けている。


「俺達は別の仕事を請け負っているから、バッハレドには戻っていられないぞ」

 ブライの言葉は冷たいが、仕事を第一にしないと冒険者としてはやっていけないのが事実だった。


「コシナダ村にユンケル達と一緒に来た少年がいただろ、彼に頼んでみるしかないだろ」


「ユンケル達をバッハレドまで運んで貰えるといいわね」

 女性陣も他に選択肢は見いだせないようだった。


 ひ弱で頼りなさそう少年だったが快く引き受けてくれたので、魔物が出そうな場所や掛かる時間などバッハレドまでの道順を詳しく教えて別れた。


 彼が盗賊に襲われながらも友の遺体を運んでくれたのを知ったのは、別の仕事を終えてバッハレドのギルドに戻った七日後のことだった。

 礼を伝えるべく街中を探したが、王都へ出立した後だったので出会えなかった。


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