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幕間8リーダー代行のアマリア


 北の大地から戻ってきて早一ヶ月が過ぎているが、リーダーがいまだに帰って来ていない。


 フレッド君とジュリアナさんとユリナさんに頼まれて【名もなきジョブ】のリーダー代行をしているが、変わったジョブの仲間を纏めて仕事を続けて行くのはきつかった。


 転移魔法陣を使って北の大地の様子を見に行きたいが、瓦礫に埋もれていたら転移した瞬間に圧死してしまう。


「リーダー、これなんかどうですか? 護衛任務なら何事もなければ戦わなくても済みますよ」


「リーダー、こっちの魔物討伐にしましょうよ」


「今回は護衛任務にしましょう」

 フレッド君とジュリアナさんは戦闘が苦手だし、ユリナさんは派手な魔法を使いたがるのだ。


 いつもの議論に私は、ギルドの掲示板の前で頭を抱えていた。


「【名もなきジョブ】の諸君、少し良いかな?」

 声を掛けてきたのは、ダーダー連合国で今一番名前が売れている冒険者【熱血の刃】のリーダー、デズモンドさんだった。


「何でしょうか?」


「ジージーの街の近くで、ミノタウロスが目撃されているのは知っているだろ」


「聞いています」


「我々は情報の真偽を確かめ、事実なら討伐する仕事を依頼されたのだが、力を貸して貰えないだろうか?」

 私達よりは年上で格上の冒険者だが、高慢な所がなく好感が持てた。


「私達は【名もなきジョブ】よ、声を掛ける相手を間違っているんじゃないですか?」


「間違ってなどいませんよ。宮廷騎士団に席を置いた事のあるアマリアさん。それに大魔導師のお孫さんのユリナさんですよね」

 デズモンドさんは私達に軽く頭を下げてきた。フレッド君とジュリアナさんを無視している所を見ると、【名もなきジョブ】の本当の力は知らないようだ。


「私はリーダー代行ですので、仲間を危険に晒すような仕事はちょっと困るのですよ」


「それでは、リーダーは何処に?」


「今は遠くにいて連絡が取れないんですよ」

 仲間を纏めるだけでも頭が痛いのに、さらなる厄介事で眩暈がしそうになった。ジュンイチさんは皆をほったらかして、何処で何をしているのやら。


「でしたら代行の権限で力を貸して下さいよ。皆さんにはミノタウロスが現れたら、倒すのだけを手伝って頂ければ良いのでお願いします」

 【熱血の刃】の全員に頭を下げられて困ってしまった。


「ジージーの街の人のためにも、力を貸して上げたらどうですか」

 ジュリアナさんが小さな声で呟いた。


「リーダーなら手を貸すと思いますよ」

 フレッド君も賛成のようだ。


「分かりました。あまりお役に立てないとは思いますが、同行させて頂きます」

 ユリナさんには意見を求めなくても、ミノタウロスの討伐と聞いて目が輝いている。


「ありがとう、よろしく頼むよ。君達のリーダーとは面識はないが、かなり出来た人物のようだね」


「【名もなきジョブ】のリーダーですから、変わってはいると思いますよ」

 私は笑顔で胡麻化した。フェンリルやドラゴンを連れて歩いているなって、言える筈がなかった。


「準備が整いしだい出立したいんだが、良いだろうか?」


「私達はいつでも良いわよ」


「馬車の準備とか出来ているのですか?」

 デズモンドさんがキョトンとした顔をしている。


「あはは。お昼過ぎの出立で良いかしら?」

 作り笑いで慌てて胡麻化した。ダーダー連合国の地理には詳しい筈なのにジージーの街と言えば、サスケ君に乗って一時間も掛からなかった記憶しか残っていなかったのだ。

 ジュンイチさんと出会ってから、自分の中の常識が壊れて行っている事に苦笑いした。


「それでいい。では正門前に集合と言う事で」

 【熱血の刃】の四人はギルドを出て行った。


「ミノタウロスですか、久し振りの強敵ですね」

 ユリナさんが嬉しそうな顔をしているのが怖かったが、私も血が騒ぐのを抑えられなかった。





「この辺りで目撃されているんだがなぁ」

 馬車で二日走った草原で、デズモンドさんが地図を広げた。


「魔物が出そうな場所ではないな」

 アサシンのガマリエルさんが、探索能力を使って周辺を調べている。


「占って見るから、暫く独りにしてくれるかな。…………」

 荷台に座ったフレッド君が、印を結んで意味の分からい言葉を呟いている。


 今では私も彼の力には、一目も二目も置いている。


「この森の奥に洞窟があり、その中に魔物がいるそうですよ」

 私は調査を切り上げようとしている【熱血の刃】に、フレッド君の言葉を伝えた。


「どうしてそんな事が分かるんです?」


「仲間が占ったからよ」


「占い? それで、魔物はミノタウロスなのかい?」


「時間がないから、そこまでは分からいそうよ」

 【熱血の刃】の四人が、薄笑いを浮かべているのが腹立たしかった。


「洞窟を調べに行きましょう」

 ユリナさんがフレッド君とジュリアナさんを引き連れて、森に向かっている。


「待って、置いて行かないでよ!」

 リーダー代行を押し付けておいて、言う事を聞かないのだから堪らなかった。

 【熱血の刃】は占いを疑いながらも、後を着いて来ている。


「待て! すまない。協力を頼んだのは我々だ、先陣は任せてくれないか」

 かなり大きい洞窟を前にして、デズモンドさんが頭を下げてきた。


「勿論、お願いするわ」

 目立つのが苦手なジュンイチさんなら「どうぞ、どうぞ」と言うだろうと、ふと思った。


 アサシンのガマリエルさんが一歩前を、その後ろを戦士のデズモンドさんが続き、その後ろを魔法使いのカーリンさんと僧侶のロッテさんが続いている。


 私達【名もなきジョブ】は、少し離れて最後尾を進んだ。


「何かいるぞ、気を付けろ」

 ガマリエルさんの言葉が終わらいうちに、人間の五倍ほどの巨大なムカデが襲ってきた。


 デズモンドさんが大剣のクレイモアを構えると、魔剣なのか刃が炎に包まれた。


「化け物が!」

 力のありそうなデズモンドさんが炎の刃で斬りつけても、ムカデにかすり傷を付けただけだった。


「氷よ、我が敵を貫き凍らせよ。アイスランス!」

 詠唱と共にカーリンさんの掲げる杖から、次々と氷の槍が飛び出してムカデに当たるが、致命的な攻撃にはなっていない。


「ダンジョンでもないのに、何故こんな化け物がいるのよ」

 退却を考えた時、


「後ろからも何か来たわ」

 ジュリアナさんの声に振り返ると、何処からともなく出てきた巨大ワームが出口に向かう道を塞いでいた。


「ユリナ、援護をお願い」

 抜刀した私は巨大ワームに向かって走った。逃げ道を確保しないと、ここで全滅してしまう。


 私の脇を追い抜いたフレームボムが、ワームに当たって爆発した。

 動きが鈍ったところを一気呵成に斬りつけるが、なかなか止めを刺す事が出来ない。


 背丈以上ある大口を開けてワームが迫ってきた。


「離れて!」

 ユリナさんの声でその場を飛び退くと、大き目のフレームボムがワームの口の中で爆発して煙を上げている。


「止めよ!」

 天井近くまで飛び上がった私は、ワームの頭を地面に串刺しにした。


「逃げるわよ!」

 ムカデに苦戦している【熱血の刃】に声を掛けた。


「ダメだ! 逃げ切れそうにない、先に行ってくれ!」

 デズモンドさんとガマリエルさんが、ムカデが吐いた毒を浴びてしまったようだ。


「リーダー、剣を抜いて」

 ジュリアナさんが両手をワームに向けて、青い目を輝かせている。


 止めをさした剣を抜くと、ワームが私達の横を通り抜けてムカデに襲い掛かって行った。


「皆も手を貸して!」

 化け物同士の戦いを横目に、デズモンドさんとガマリエルさんに肩を貸して外に逃げ出した。


 毒を掛けられた二人の足は火傷のように爛れていたが、毒消し薬とロッテさんの治癒魔法で歩けるまでには回復した。


「助かったよ、君達がいなかったら死んでいたよ」


「ミノタウロス以上の化け物がいるじゃないの!」

 仲間が危険に晒された事で、少し口調がきつくなってしまった。


「申し訳ない、調査不足だった事は認めるよ」

 デズモンドさんが申し訳なさそうに項垂れている。


「まあ、貴方達の所為ではないんだけど。それでこれからどうするの?」

 素直に謝られてしまうと怒りの矛先を失ってしまう。


「ジージーの街に注意勧告したら、急いで王都に戻ってギルドに報告だな」


「確かに、このままにはして置けないわよね」


「何か来るぞ!」

 洞窟から、ジュリアナさんが操っていたワームを蹴散らしたムカデが出てきた。


「外にまで追い掛けてくるなんて、何なのよ」

 私もテンパってしまって、どうして良いか分からなくなってしまった。


「外皮は硬いから、目と触角を狙って攻撃するんだ。それと、正面からだと毒が飛んでくるから注意して」


「分かった。私は右から、ユリナは左から攻撃して」

 フレッド君の忠告を受けた私達は、左右に分かれて走り出した。


「俺達が奴の気を引くよ」

 馬車から大盾を降ろしたデズモンドさんは、ムカデの正面で盾を構えた。


 大盾に隠れたカーリンさんが魔法を飛ばして、ムカデの注意を引き付けてくれた。


 ユリナさんとアイコンタクトを取った私は、触角を切り落とすために飛び上がった。

 ユリナさんの魔法が飛んでくるまでに離れなければ、巻き添えを食らうが、あまり早いと魔法攻撃が外れてしまうのでタイミングが難しい。


 触角を切り落としてムカデの頭を蹴った瞬間、左側で激しい爆発が起こり危なく地面に叩き付けられるところだった。


 触角と片目を失ってのたうち回るムカデに駆け寄ると、右目に止めの剣を突き刺した。


「皆、離れて! 炎よ、我々の敵を焼き尽くせ。フレームストーム!」

 触角を失い丸まり始めたムカデにステッキを向けたユリナさんが、詠唱を唱えた。


 劫火が渦を巻き巨大ムカデを呑み込み、火柱が空高く伸びた。魔力の温存を考えないド派手な高等魔法だ。


「流石、大魔導師さんのお孫さん!」

 炭になったムカデを見た【熱血の刃】の全員が、感嘆の声を洩らしている。


 ワームがムカデに襲い掛かったのは異種間の争いだと思ったようで、ネクロマンサーの力には気づいていないようだ。


「ジージーの街に寄って、王都に戻りましょうか?」

 洞窟を離れると、やっと生き返った気分になった。





 王都に戻ると、何故かギルドマスターの職務室に【名もなきジョブ】も呼び出された。


「まず、今回の依頼で調査不足があった事をお詫びする」

 ギルドマスターのクレドンさんが、禿げ上がった頭を下げた。


「真偽を確かめるのも仕事の内でしたから、我々の注意不足です」

 デズモンドさんが頭を下げたので、【名もなきジョブ】全員が項垂れた。自分達が先走ってしまった事で、全員を危険に晒した責任を感じているのだ。


「無事で何よりだ。それでだが、新たにジージーの洞窟の調査を頼めないだろうか? 今回は国からの依頼なので報酬も多く出る」


「ミノタウロスは倒した経験があるので仕事を引き受けたのですが、今回出会った化け物には我々の力では歯が立ちませんでした。あの洞窟には他にどんな化け物が出るか分からないので、依頼を受ける訳にはいきません」

 デズモンドさん以外の【熱血の刃】のメンバーは黙ってしまっている。


 確かに巨大ムカデ以上の化け物が出てきたら、洞窟の中では手の打ちようがないだろう。


「【熱血の刃】の諸君でも手に負えないとなると、宮廷軍に任せるしかないだろうな。ゾンビ騒動から三月も経たない内に化け物騒動とは、この国は何かに呪われているのかもしれないな」

 深刻な表情のクレドンさんが頭を抱えている。


「【名もなきジョブ】の皆さんに依頼されたらどうですか?」


「急に何を言っているのですか」

 デズモンドさんの発言に慌てた。リーダー不在の今、これ以上の危険は絶対に避けなければならない。


「ユリナさんの魔法は凄かったわ。巨大ムカデを炭にしてしまいましたから」

 カーリンさんが憧れの眼差しをユリナさんに向けている。


「あれは魔法ではなくて奇術ですので、種がバレたら笑われてしまいますよ」

 ユリナさんは大袈裟に顔の前で手を振って、ド派手な魔法を否定している。


「奇術ですか?」


「フレームストームなんて高度な魔法を本当に使ったら、最弱冒険者【名もなきジョブ】を追放されてしまいます。巨大ムカデを炭にしたのは、あの一帯に大量の油を撒いておいてファイアボールで点火しただけなんですよ」

 ユリナさんは作り笑いを浮かべ、上級魔法使いである事を否定している。


「油を撒いた? その様な暇がありましたか?」

 ガマリエルさんが疑いの眼差しを向けている。


「奇術士は常に先を見越して、あらゆるトリックを仕込んでおくものなのですよ」

 ユリナさんの作り笑いがさらにぎこちなくなっている。


「私達は運だけで仕事をこなしている冒険者ですから、リーダーが返って来るまでは危険な仕事はしない事にしているんです」

 私の言葉に仲間全員が頷いている。


「君達のリーダーは、何処で何をしているのかね」

 クレドンさんが怪訝な表情をしている。


「リーダーとは北の大地で別れたきりなのですが、直ぐに帰ると言っていましたので、その内に帰って来るでしょう」

 自分の希望を兼ねて言ってみた。


「北の大地に行って来たのか?」

 【熱血の刃】の全員が蒼褪めている。


「それが何か?」

 デズモンドさん達の驚きように、こちらが驚いた。


「北の大地は戦争で人が住めなくなり、我々の先祖が捨てた大地なんだ」


「親からよく聞かされました。人間が故郷の大陸を壊してしまったと」

 カーリンさんが悲愴な表情をしている。


「そうだったのですか。私達は吹雪に阻まれて直ぐに戻ってきたのですが、リーダーはまだ戻らないのですよ」


「そうか、それは残念な事だな。戻る事があったら話しを聞かせて欲しいと伝えてくれないか?」

 デズモンドさんはリーダーが亡くなったと思っているようだ。


「分かりました、伝えます。そのような訳で、今回の仕事はお受け出来ませんので失礼します」

 私達は逃げ出すようにクレドンさんにイトマを告げると、冒険者ギルドを後にした。


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