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生きていくために


 【名もなきジョブ】の仲間と別れて北の大地の気候変動を鎮めようとした僕は、巨大エネルギーを前にして進退極まっていた。

 このまま何の成果も残さずに帰っても友達はついてくるだろうが、今逃げて帰れば虐めにあっていた頃に逆戻りしてしまう気がしていた。


「サスケ、行ける所まで下りてくれないか」

 奈落の底を見詰めていた僕は、サバイバルナイフを取り出して合体を促した。


『主は大丈夫ですか?』


「ハーモニカが鳴りやんだら、すぐに戻ってくれ」

 穴を下りて行くのは怖かったが、何時までも逃げてはいられないと決断したのだ。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 サスケの背に跨ると、北の大地を復活させたいと念じながら[情熱大陸]を吹いた。


 角が生え、銀色に輝くサスケは、螺旋を描くようにゆっくりと下りて行った。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 地上から見ていた光に近づいても、何の影響もなく底に辿り着いた。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 眩しさも熱も感じない光は、直径一メートル、長さ一メートルほどの透明な円柱の中に入っている魔石から出ていた。

 数百個の拳大の魔石が円柱の中でぶつかり合って、オーロラのような光を放っているのだ。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


(これが気候変動の原因か)

 ハーモニカの力のお陰なのだろう、近付いても何も起こらなかった。


『主、大丈夫ですか?』


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 [情熱大陸]を吹き続けている僕は小さく頷いた。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


(どうしたものだろか?)

 見ている分には何ともなかったが、七色の光を放っている物体に触れる勇気は出てこなかった。


『僕が触れてみましょうか?』

 サスケの言葉に首を横に振った。巨大な魔力を放出している装置に、アルバインさんも恐れるサスケの魔力が加わった、何が起きるか分かったものじゃない。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 左手だけでハーモニカを持ち、右手をゆっくり伸ばしていった。この光が消えれば北の大地は元に戻る筈だ。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 恐怖で右手の震えが止まらなかった。熱さは感じないので火傷の心配はないが、非常に危険な物に触れようとしているのは分かっている。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


(ディフラントシン様、死を望んでいる訳では決してありません。分かって下さいますよね)

 心の中で言い訳をして目を閉じると、恐る恐る透明な円柱に触れた。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 瞼を硬く閉ざしているのに、七色の光に包まれていくのがはっきりと分かった。

 苦痛も息苦しさも何もないのだが、意識だけが薄らいでいった。




『主、大丈夫ですか?』

 サスケの思念が頭に届いているが、目の前は真っ暗だった。


「主様、大丈夫ですか?」


「ご主人様!」

 フェニック達の声も聞こえているが、目も見えないし、体も自由に動かせなかった。不思議な光りに包まれた後の事が思い出せないでいる。


『エイアイ、僕はどうなっているんだ?』


「ご主人様、聖なる衣の形態を変えてください」


『聖なる衣とはなんだ?』

 エイアイの声は聞こえるが、自由に声も出せないので思念で会話を続けた。


「ご主人様を包んでいる衣です」


『どうすればいいんだ?』

「お好きな服装を思い描きながら、魔力を流せばいいのです」


(好きな服装? エイアイは呪いの革鎧の事を言っているのか?)

 思い当たる節はあるがハーモニカも吹けないし、サスケからの魔力供給を受けられるかどうかも分からなかった。


『サスケ、魔力を頼む』


『主、お一人で大丈夫です。遣ってみてください』

 周りは見えないし、サスケが言っている意味は分からないし、遣ってみるしかなかった。


 黒のロングコートをイメージしながら、[風よ光よ]の譜面を脳裏に浮かべると、魔力供給を受けたときのような感じが湧き上がってきた。

 一瞬で目の前が明るくなり、拘束感から解放された。


「いったい、何があったんだ?」

 友達と地龍が心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。


「魔石融合装置がご主人様の体内に入ったので、魔力が暴走しないように聖なる衣が防護カプセルになって事態を収束させたのです」


「ちょっと待て。魔石融合装置が僕の体内に入ったとは、どう言うことだ!」

 あまりのショックでエイアイに食って掛かった。


「言葉のとおりです。魔石融合装置がご主人様の体に吸収されたのです」


「あんな大きな物が体内に入る筈がないだろ」


「大きさとは物理的なものであって、エネルギーは目に見える大きさではなく、許容できるか、できないかです。ご主人様の体が無限の魔力を許容できたので、魔石融合装置を吸収したのです」


「エイアイは僕の理解出来ない事は、説明出来ないのではなかったか?」

 エイアイの言っている意味がまったく分からなかった。


「ご主人様の知らない事柄については説明出来ませんが、魔石融合装置はご主人様の持ち物になったのですから知らないとは言えません」

 表情がなくなっているエイアイは、機械的に僕の問いに答えている。


「そうか。聖なる衣についても教えてくれ。これは呪われた革鎧でななかったのか?」

 分からない事は詳しく聞いても分からないので、襟の広い革のロングコートに変わっている服のことを聞いた。


「人間の間では、そう呼ばれていたのですか。確かに装着者の魔力を吸い取るので、よほど大きな魔力を持っている者以外には扱えない物ですね」


「それは知っている。なぜこれが防護カプセルになったり、コートになったりしているんだ」


「防護カプセルは、ご主人様が自分を守るために無意識に思い描かれた形状かもしれませんが、コートはご主人様の思考を反映していると思いますが、違いますか」


「確かに僕の考えたロングコートに似ているが、そもそも僕には魔力がないんだぞ」

 アルバインさんが不思議がるほど魔力がなかったのだ。


「魔力がない。何を冗談言っているんだ?」

 僕とエイアイの話を聞いていた地龍が、呆気に取られた表情をしている。


「ご主人様には無限の魔力があります。今までは蓄積が出来なかったのですが、魔石融合装置を吸収したことでサスケ君の力がなくても魔法効果を生み出すことができます」


「そうなんだ」

 これ以上エイアイの説明を聞くのが怖くなったので、会話を切り上げた。


「主様、兄にも名前を与えて貰えませんか?」

 僕の肩に止まったフェニックが、怖い顔で見詰めてきている。


「地龍には北の大地を復活させ仕事があっただろ」

 これ以上友達が増えるのは勘弁して欲しかった。


「貴方のお陰で、北の大地はすでに復活してきている。後は自然に任せておけばいい。儂も弟達と一緒に傍に置いて貰えないだろうか?」

 地龍に深々と頭を下げられて困ってしまった。


「これからは、セキハラ草原で農業をして暮らしていこうと考えているんだ。フェニックにもポセイドンにも、何れは自分達の仕事に戻って貰うつもりでいるんだ」

 厄介事を回避しようと思考を巡らした。


「分かりました。しかし、龍の力が殆どありませんので、名前をつけて頂き、弟達のように少しでも覚醒に近づきたいと思います」

 地龍は頭を上げようとしなかった。


「分かったよ。ただし、農業が軌道に乗るまで手伝ってくれよ」

 フェニックにもポセイドンにも期待の眼差しを向けられているので、根負けしてしまった。


「全力で頑張ります」

 壮年の男性が嬉しそうな顔をしているので憎めなかった。


「名前ね。……ガイアはどうだ」

 命名も五度目になるとあまり迷わなくなっていた。


「ガイア。ガイア。儂はガイアだ」

 地龍が叫ぶと、逞しい肉体が一段と引き締まり筋骨隆々とした男性になった。


「ありがとうございます。兄の力が漲ってきています」

 フェニックもポセイドンも嬉しそうにしているので、厄介事を受け入れることにした。


「主、ありがとうございました。何なりとお申しつけください」


「そんなに改まらなくてもいい。僕達は友達なんだから気楽にやってくれ」


「はい、分かりました。ガイアだ、みんな、よろしく頼む」

 ガイアはサスケ達に一礼すると、仲間に溶け込んでいった。


 何が起きたのかよく分からなかったが、負のエネルギーが消えたようなのでセキハラ草原に戻った。




 ♪・・・♪・・・♪。


 初夏の気候に戻って来たセキハラ草原で、何曲もハーモニカを吹いた。


 ♪・・・♪・・・♪。


 この世界に来て初めて楽しむためにハーモニカを吹いている。


 ♪・・・♪・・・♪。


(音楽はいいなぁ)


 ♪・・・♪・・・♪。


 自然と笑みが零れてウキウキとした気分になった。


「決めた。ここで亡くなった多くの人の魂を弔うために教会を造るぞ」

 あと九年と数ヶ月でどこまで出来る分からないが、北の大地の復興に尽力することを決めた僕は、ハーモニカを聞いていた友達たちに心意気を宣言した。


『『『『『分かりました』』』』』

 全員が大きく頷きながら思念を送ってきた。


 ♪・・・♪・・・♪。


 力強くハーモニカを奏でていると少し強くなれたようで、この世界に来てよかったと思えた。


ご愛読ありがとうございました。

第一章完結いたしました。

第二章以降は準備が整いましたら

アップしていきたいと思っています。


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