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魔人ゴーストの最後


 アルバインさんが居ないので、リッチと対峙した時とは比較にならない恐怖が襲ってきた。


『皆が元気になる曲を吹いて下さい』

 震えている僕の頭の中に、サスケの思念が飛んできた。


「ユリナ、僕に魔力を流してくれないか」


「分かったわ!」


「二人は私が守ってみせるわ!」

 ユリナさんが上着を脱いだ僕の肩に手を掛け、アマリアさんが僕の前で剣を構えた。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 応援しか出来ない僕はユリナさんから魔力供給を受けながら、スケルトンナイトと対峙するポセイドンのために[海の声]を奏でた。

 動きが早くなったポセイドンは、スケルトンナイトの頭蓋骨をかち割り、サスケはスケルトンナイトに体当たりすると、角で胸の魔石を弾き飛ばして動きを止めていった。


 魔人ゴーストは倒れたスケルトンナイトを復活させようと杖を翳しているが、フレッド君とジュリアナさんの能力がそれを許さなかった。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 上空で苦戦しているフェニックのために[火の鳥]を奏でると、大きく羽ばたいたフェニックが炎に包まれ、スケルトンワイバーンにぶつかっていった。

 大きな骨格が音を立てて崩れると、塵と消えていった。


「勇者に力さえ封じられていなかったら、人間に負ける筈などないのに。しかし、これほど強いテイマーが存在するとはな」

 ぎこちない笑みを浮かべる魔人ゴーストが、呪うように僕を睨んでいる。


 サスケ達が敵を全て倒した時、僕の肩に手を乗せていたユリナさんが魔力切れで倒れてアマリアさんに支えられていた。


「リーダー、魔人ゴーストに止めを!」

 フレッド君とジュリアナさんも限界に近づいているのか、足元がふら付いている。


「止めと言ってもなぁ」

 ハーモニカを吹く事しか出来ない僕は途方にくれた。


『主よ、ゴーストを消す曲はありませんか?』

 犬の大きさに戻ったサスケが躰を擦り付けてきた。


「ゴーストを消す曲か?」


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 自信はなかったが物は試しと、映画[ゴーストバスターズ]のテーマを奏でてみた。


「何? 何をする!」

 フレッド君の呪縛から抜け出せない魔人ゴーストが苦しみ始めた。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


「くそ、力が抜けていく……」


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 さらにハーモニカを吹き続けると、魔人ゴーストの姿が薄くなっていった。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


「勇者にも完全敗北はしなかったのに、私の存在が消えるのか」

 魔人ゴーストが必死で逃げようとしているが、フレッド君が人形を強く握ってそれを許さなかった。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 ハーモニカの澄んだ音色がセキハラ草原の空に鳴り響いた。


「この世界を支配しようとしているのは、私だけではないぞ。いずれ魔人の真の恐ろしさを知る事になるだろうな」

 僕を睨みながら薄笑いを浮かべる魔人ゴーストが完全に消えると、拳より少し大きい魔石が転がった。


「皆、ありがとう。仇を討つ事が出来たよ」

 膝を衝いたフレッド君とジュリアナさんが、疲労を隠せない顔に笑顔を浮かべている。


「二人の執念が魔人ゴーストを追い詰めたんだよ」

 辛うじての勝利にため息を漏らした。


「リーダーが僕達を仲間に誘ってくれたこと、本当に感謝しているよ」


「いや……あれは……」

 頭を下げている二人には、アルバインさんに言われて誘ったとは言い出せなかった。


「しかし、魔人ゴーストの最後の言葉が気になるわね」


「そうね」

 勝利を分かち合っている僕達三人の横で、アマリアさんに支えられているユリナさんが深刻な表情をしている。


「あまり先の事を考えても仕方ないし、まずは墳墓と思われる地下を調べてみようか?」


「そうしましょうか」

 僕達はアマリアさんを先頭に、地下への階段を下りていった。


 地下一階は、スケルトンの駐屯所になっていたようで空っぽだった。


 地下二階には鉄格子の嵌った部屋が幾つかあったが、魔人ゴーストと共に消えてしまったのか牢番はいなかった。

 牢には獣だけではなく、人間も閉じ込められていた。


「助けが来てくれるとは思っていなかったよ。ありがとう」

 牢に入れられていたのはソフト帝国と言う国の騎士で、遠征途中にスケルトンに襲われて連れて来られてらしく、五十人の隊が今は六人しか生き残っていなかった。


「お父さん、お母さん」


「僕ちゃん? どうしてここに?」

 一番奥の部屋に閉じ込められていた普通の人間と変わらない身長の二人は、すっかり変わっている息子さんを見て驚いている。


「ご主人様に名前を付けて頂いて、お父さんとお母さんを助けに来たんだよ」

 エイアイは牢から出た二人に、今日までの事を説明している。


「貴方がジュンイチ様ですか、私達は古代の歴史の守り人です。今回は古代の歴史を守って頂き、ありがとうございました」


「僕は何もしていません。ご子息と一緒に旅をして来ただけです」

 白衣を着た学者のような二人に頭を下げられて、恐縮してしまった。


「私どもがもっとしっかりしていなければならなかったのですが、長い年月を経て油断をしていました。我々の主である神に代わって感謝申し上げます」

 二人は戸惑っている僕を無視して頭を下げ続けている。


「やはりご子息は古代の歴史そのものであり、神様が所有されていたのですね」

 エイアイがスーパーコンピューターだと考えたのは間違いではなかったようだ。


「貴方はいったい?」


「僕はただの人間です。お屋敷に帰る方法とかは分かりますか?」

 フレッド君達が怪訝な表情をしているので、慌てて話しを変えた。


「この施設の最下層に転移魔法陣が存在するようです」


「それを使えばダーダー連合国に帰れるんですね」


「僕ちゃん、転移魔法陣の使い方は分かるな?」


「何の事かな?」

 父の質問にエイアイは首を傾げた。


「もしかして僕ちゃんは、登録暗証か何かですか? でしたら勝手に変更してしまいました」

 ご子息に名前を付けた事を両親に謝った。


「リーダーは、さっきから何を話しているんだ」

 アマリアさんが耐え切れないと言った表情で口を挟んできた。


「吹雪の中を帰るのは大変だから、何か方法がないか学者さんに聞いていたんだよ」

 皆に見詰められているので口ごもってしまった。僕が神様と知り合いだとは口が裂けても言えなかった。


 ディフラントの古代文明は、現代の地球より進んでいたのではないかと思えた。

 そしてエイアイの頭脳には過去のすべてが記録されているが、扱えるのは神様だけではないだろうかと推測した。


「それで何か分かったの?」


「ああ。ここにも転移魔法陣があるから、それを使えば帰れそうなんだ」


「だったら、早く帰りましょう」

 全員の意見が一致したので、最下層へ下りて行った。




 最下層にあったのは、ダンジョンにある転移魔法陣の五倍はある大きな魔法陣で、転移先を思い描き魔力を注ぎ込むだけで移動が可能のようだ。


 囚われていた騎士はソフト帝国に送る事が出来たが、獣の処置には困った。サスケに住んでいた場所を聞かせたが、明快な返事は得られなかった。

 仕方なく人間に危害を加えないと約束させ、エイアイの屋敷の近くの山に住まわせる事になり、後をご両親に任せた。


「私はご主人様に着いて行くよ」


「そうか、それも良いだろ。人間の一生は我々には一瞬の時間だが、新たな経験をするのも勉強だからな」

 エイアイは両親と一緒に帰るのを拒んだ。


 大事な頭脳をそんな簡単に手放して良いのですかと口に出掛けたが、仲間の目があって言い出せなかった。


「貴方になら息子を預けられます。よろしくお願いします」

 サスケ達を見ていたお父さんは、握手を求めてきた。


「分かりました」

 多分、僕がこの世界から居なくならない限り、名前と言う登録暗証が変更出来ないのではないだろうか。一時的に死亡した両親の復活前に巨人の子供に出会った事が、良かったのか悪かったのか今は分からなかった。


 エイアイの両親は囚われていた獣達を連れて、屋敷に帰って行った。


「僕はこの施設を使えないように壊してから、フェニックに乗って帰るから皆は先に帰ってくれないか?」

 最後に残った【名もなきジョブ】の仲間に別れを告げた。


 フレッド君とジュリアナさんの念願も叶ったので、【名もなきジョブ】の存在も必要なくなったのだ。


「ダーダー連合国の王都で待っていますよ」


「出来るだけ早く帰るよ。それとこの転移魔法陣は瓦礫の下敷きになるから、間違っても使わないように」


「分かった」


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 四人が手を振ったので、[旅立ちの歌]を奏でて魔法陣に魔力を流すと、中央に立っていた仲間の姿が消えた。


 この世界に来て半年、やっと争い事から解放された気分になった。


「エイアイ、北の大地を元に戻す方法はないのか?」


「膨大な魔力のぶつかり合いで生まれた負のエネルギーを消すには、それ以上のエネルギーが必要でしょう」


「そうか」

 北の大地は原発事故の後に似た状況になっているのだ。


(北の大地を元に戻せないものだろうか)

 サスケ達を見渡した僕は、暫く北の大地に留まるのも良いかもしれなと考えていた。


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