セキハラ草原
北の大地は前が見えないほど吹雪いていて、フェニックでは飛び続けられなかった。
「このままじゃ、凍えてしまうわ」
友達たちは寒さに抵抗出来たが、【名もなきジョブ】のメンバーは準備しておいた防寒着を着こんでも耐えられない寒さだった。
「リーダーは寒くないの?」
「僕は大丈夫だよ」
サスケの魔力を使って呪いの革鎧を、全身を包める毛皮のコートに変えているので寒さを防ぐ事ができた。
「一人だけ暖かそうなのを着て。どこに隠していたのよ」
アマリアさんが怖い顔をしている。
「いつも着ている上着だよ」
「また、訳の分からないことを。引き返さないと凍死してしまうわ」
誰も僕の言う事を信じなかった。
「これを使ってダメだったら、引き返そう」
道具屋で見付けた暖房器具を出して、手持ちの一番大きな魔石を装着した。
ランプのような器具の上部が赤くなると、馬車の中が少しずつ暖かくなっていった。
「防寒着が要らないほど暖かいわ」
「確かに。これなら行けるわね」
皆が着込んだ服を脱いだ。
「ダメよ。今の魔石でどれ位持つの?」
魔力に詳しいユリナさんが皆の意見を否定した。
「五、六時間かな」
「私の魔力が完全に回復しても魔石に注入出来るのは、一日二回が限界よ。後はどうするの?」
「ユリナの魔力は戦いのために温存しておかないと駄目だから、魔石の管理は僕に任せておいてくれたらいいよ」
「魔力が全くないのに、何を言っているのよ」
「こんな風にサスケの魔力を引き出せるから、大丈夫だよ」
♪~~~♪~~~♪‼。
[風よ光りよ]を奏でると、毛皮のコートがブレザーに変わった。
「何なの、それ!」
全員が呆気に取られている。
「サスケの魔力って、どれ位あるの?」
「アルバインさんの話だと、200000MPはあるそうだよ」
「それだけあれば心配はないわね」
ユリナさんが呆れながらも納得したので、ギリギリまで捜索を続ける事にした。
天候が荒れている間は狭い馬車の中で休み、吹雪の止み間を見てはセキハラ草原を目指した。毛皮のコートを着た僕はサスケに乗り、馬車はフェニックに運ばせた。
食料を十日分しか用意してこなかったので、進行の限度としていた六日目に辛うじてセキハラ草原に到着した。
そこは何もない見渡す限りの雪原だった。
サスケの嗅覚にも何も引っ掛からず、フェニックによる上空からの偵察でも何も発見できなかった。
「何もなかったわね」
「まだ分からないさ」
♪~~~♪~~~♪‼。
フレッド君の占いを信じている僕は、ハーモニカを取り出すと[傾いた道しるべ]を吹いてみた。
真っ白い雪原に伸びた黒い道は、三十メートルほど進んで止まった。
♪~~~♪~~~♪‼。
何度か場所を変えて試みても、同じ所まで伸びて止まった。
「この下に何かあるかも知れないわ」
アマリアさんが一番に雪を掘り始めた。
数十センチの雪の下には、ユリナさんのファイアボールでも壊れない硬い氷があるだけだった。
「僕の占いが間違っていたのかも知れないから、出直そう」
疲れた表情のフレッド君が肩を落としている。
確かに次の吹雪が来る前に戻った方が良いのだが、諦め切れない僕は再びハーモニカを吹き始めた。
♪~~~♪~~~♪‼。
サスケから魔力供給を受けながら、真夏の太陽を思い描いて[真っ赤な太陽]を全力で奏でた。
♪~~~♪~~~♪‼。
厚い雲が切れて太陽が覗くと、セキハラ草原の雪が急速に溶けて光輝く氷の表面から蒸気が昇っていく。
♪~~~♪~~~♪‼。
防寒着を脱いだ仲間の額に、玉の汗が流れるほどの強い日差しだ。
♪~~~♪~~~♪‼。
「何てバカげた力なの。ファイアボールで穴も開かなかった氷が溶けていくなんて」
ユリナさんが呆れ返っている。
♪~~~♪~~~♪‼。
「フェンリルやドラゴンが言う事を聞く筈だわ」
アマリアさんの感嘆の声に皆が頷いている。
♪~~~♪~~~♪‼。
二曲目の[太陽がいっぱい]を吹いていると、草原が青く輝き始めた。
そして、分厚い氷の下には地下への入り口が隠されていた。
「フレッドの占いは間違っていなかったようだね」
「そ、そうだね」
自信を無くしかけていたフレッド君の表情が明るくなった。
「お出迎えが来たわよ」
ぽっかり空いた穴から、スケルトンがゾクゾクと出てきた。
「今度は私たちの番ね、ファイアボール!」
ユリナさんがステッキを翳すと、数体のスケルトンが弾け飛んで壊れた。
「あまり魔力を無駄遣いしないようにね」
抜刀したアマリアさんがスケルトンに向かっていった。
「私も行きますよ」
青く輝く刃の剣を持ったポセイドンが走り出した。
「あんな剣、何処に隠し持っていたんだ?」
「海龍の姿になった時、手に握っていた珠ですよ。あの珠は魔力を秘めた宝玉で、思念の力で形を変える事が出来るのです」
「なるほど」
フェニックの説明に独り頷いた。
次々と出てくるスケルトンは、アマリアさんとポセイドンに殆どが破壊されていった。
たまに二人の間を抜けるスケルトンもいたが、サスケの一撃でバラバラになった。
「骸骨が相手では私の戦いようがないわ」
フレッド君と並んでいるジュリアナさんが、冴えない表情をしている。
「気にする事ないさ。ジュリアナにも頑張って貰わなければならない時が来るから」
そんな僕も縦横無尽に走り回り、剣を振り回すアマリアさんとポセイドンを見ている事しか出来なかった。
骨だけのスケルトンが途切れると、鎧を着て盾と大きな剣を持ったスケルトンが二体出てきた。
「エイアイ、あれは?」
「あれがスケルトンナイトです」
「確かに、今までのとは格が違うわね」
声が震えているユリナさんが、ステッキを翳して呪文を唱え始めた。
アマリアさんの剣が盾で受け止められ、攻撃が通らなくなっている。
「生前は名のある騎士だったのでしょうね」
アマリアさんが剣術で押され始めている。
「リーダー、不味いわ。あれだけ近いと魔法が撃てないわ」
支援が出来ないユリナさんが焦り出している。
「サスケ!」
『任せておいて大丈夫でしょう』
サバイバルナイフを出すとサスケが首を横に振った。
スケルトンナイトの剣を躱したアマリアさんが、一瞬消えたように見えた。
刹那、二メートル以上飛び上がったアマリアさんが、スケルトンナイトの頭蓋骨を叩き割って飛び退いた。
「炎よ、我が敵を破壊せよ。フレームボム!」
崩れ落ちるスケルトンナイトにユリナさんの魔法が炸裂して、古ぼけた鎧と共に骨だけの躰が砕け散った。
一方、スケルトンナイトの倍の速さで剣を振るっているポセイドンは危なげなかった。上段から振り下ろされた剣を弾き返し、返す剣でスケルトンナイトの胸の赤い玉を突き刺している。
「終わったわ」
アマリアさんが豆粒ほどの魔石を差し出した。
「こちらも終わりました」
ポセイドンも魔石を渡してきた。
「ご苦労様。これがスケルトンナイトを動かしていたのか」
「今以上の敵が無数存在しているとなると、地下の攻略は大変になるわね」
「そうね、心してかかりましょう」
何故だかユリナさんとアマリアさんが、握手をして頷き合っている。
「まだ出て来るわ!」
ジュリアナさんの叫びで出入口に目をやると、スケルトンナイト三体に守られるようにして魔人ゴーストが出てきた。
「他にも出て来るぞ!」
スケルトンナイトの十体の列に、全員が後退りした。
「私の研究を邪魔するのは、やはりあなた方ですか」
白衣を着た痩せた男は試練のダンジョウで会った男に外見は似ているが、醸し出しているオーラが桁外れに大きかった。
「ダーダー連合国から攫ってきた、巨人族の両親を返して貰おう」
「巨人族の両親ですか。あれは百年近く掛けて探し出した検体です、簡単には返せませんよ」
魔人ゴーストは余裕に満ちた笑みを浮かべている。
「力尽くでも返して貰うさ」
「ここは私の本拠地ですから、試練のダンジョウの時のようにはいきませんよ」
「やってみなければ分からないだろ」
強がってみたが声も足も震えている。
「ウオーーーッ!」
サスケがロングトーンで吠えると、サバイバルナイフが眩しい光をはなった。
「ガオーーー!」
サバイバルナイフと合体したサスケが地鳴りのような遠吠えを上げると、三倍になった躰が銀色に輝き額から三十センチほどの角が生えた。
「何なんだ、こいつら!」
今度は魔人ゴーストが後退りしている。
「主様、私も行きます!」
肩に乗っていたフェニックが飛び立つと、本来の大きさになった。
「ワイバーンだと、こしゃくな!」
怖い顔をした魔人ゴーストが宝石の輝く杖を翳して呪文を唱えると、倒した筈のスケルトンの骨が一箇所に集まって大きなかたまりになった。
「スケルトンワイバーン!」
恐竜博物館にある標本のような骨格を見て、エイアイが叫んだ。
「魔人ゴーストの動きは僕が抑えるよ」
フレッド君が木彫り人形を握り締めて突き出した。
「私も力を貸します」
ジュリアナさんの青い目が光ると、フレッド君が持っている人形が輝き出した。
「ご主人様、私も本気で行きます!」
ポセイドンが持っていた剣を一振りすると大剣になり、青い刃の輝きが増した。
「皆殺しだ!」
動きが緩慢になった魔人ゴーストが命令を発すると、スケルトンナイトとスケルトンワイバーンが攻撃を仕掛けてきた。




