幕間6奇術士ユリナ・カーソル
冒険者養成学校の校内で行われた【名もなきジョブ】との試合に負けた後、私は【究極の戦士】から離脱した。
負ける筈のない試合で、魔法を使う前にあっさりと敗れたのだ。天才魔法使いにとってこれ以上の屈辱はなかった。
オジイ様は冒険者養成学校の特別教官をお辞めになって、あまり家におられなくなった。
私は屈辱をバネに独り魔法の鍛錬に励んだ。突然現れて、私の輝かしい人生を踏みにじったジュンイチを見返すために。
学校でもゾンビの噂が広がり出した頃、【名もなきジョブ】の四人が休学届を出していなくなってしまった。
実践授業に耐えられなくて辞めたのだと思っていた。
それと同時にジュンイチは我が家からいなくなり、オジイ様も帰らない日が多くなった。
お父様に事情を聞いても教えて貰えず、独り修業を続けた私は念願の浮遊魔法を修得した。
自由に空を飛んで見せれば、ジュンイチが私を尊敬するだろうと考えていた。
ゾンビ騒動が本格化してきた時、お父様から聞いた言葉が信じられなかった。
【名もなきジョブ】が宮廷魔術師団を率いて、アシナダ村のゾンビ退治に出掛ける事になったと仰るのだ。
そしてさらに驚いたのは、バイトルさんはオジイ様の仮の姿だと言う事だ。
お父様もオジイ様から口止めされていて、すべてを話す許可が出てホッとされているようだった。
「ジュンイチが連れていた犬が、フェンリルって本当なのですか?」
「本当だ。私もサスケ君に触れた時は腰を抜かしてしまったよ」
その時を思い出しているのか、お父様が苦笑いを浮かべている。
「フェンリルをテイムしたジュンイチって、何者なのですか?」
「呼び捨てはよくないぞ。私にも分からないが、御父様は儂の師匠だと仰っていたよ」
「大魔導士と呼ばれたオジイ様が、ジュンイチ……君を師匠と……」
驚愕で言葉が出てこなかった。
「ユリナは【名もなきジョブ】のリーダーが誰か知っているかね?」
「バイトルさん、いいえ、オジイ様じゃないんですか?」
「ジュンイチ君がリーダーだそうだ。そして、今回のゾンビ騒動もジュンイチ君が解決してくれるだろうと、御父様が仰っていたよ」
お父様の言葉を自分なりに理解するのには時間が掛かった。ひ弱で頼りなさそうな少年と、お父様が話されるジュンイチとのイメージが重ならないのだ。
そして、オジイ様がダーダー連合国の初代国王になられたと知った時は、自分ももっと強い人間になりたいと思うようになっていた。
修行のために【名もなきジョブ】に入りたかったが、彼らに出会う事もままならずオジイ様に手紙を書いた。
手配をしてやるからバーニドアのギルドで待っていなさいと、返事を貰ったので毎日足を運んだ。
「ジュンイチじゃないの、珍しいわね」
待つこと六日、ギルドを訪れてきた【名もなきジョブ】に出会った。
「ユリナさん、お久し振りです」
気軽な感じで声を掛けてみたがジュンイチは凄く余所余所しく、相変わらずひ弱で頼りなさそうに見えた。
「新しいお仲間さん?」
彼には取り付く島もないので、傍にいた剣士風の女性に声を掛けてみた。
「はい。浪人のアマリアです」
「浪人? 変わったジョブね」
「【名もなきジョブ】の一員ですから」
「私も今は奇術士よ、変わったジョブでしょ」
【名もなきジョブ】に入りたい一心で、変わった職業を名乗り浮遊魔法を披露したが、ジュンイチは私と目を合わせないようにしている。
「ユリナさん。僕達、急ぎますので失礼します」
彼は何処までも冷たかった。
放置されそうになったが、ギルドマスターの口添えでダーダー連合国まで一緒に旅が出来るようになった。
ダーダー連合国までは十日以上は掛かるので、その間には何とか打ち解けなければと独り思い悩んでいた。
アマリアさんと親しくなれたので幸先がいいと思っていたら、バーニドアの街を離れると馬車は止まってしまった。
次々に起こる奇跡のような出来事に驚いていると、その日のうちにオジイ様のおられる王宮に着いてしまった。馬車で空を飛ぶなんて、浮遊魔法で喜んでいた自分が小さく見える。
これがオジイ様に師匠と呼ばれるジュンイチ、いいえジュンイチ君の力だったのだ。
私は何が何でも【名もなきジョブ】のメンバーになりたくなった。
「本当に冒険者になりたいのなら、自分でお願いするんだな」
オジイ様が最後のチャンスを作って下さった。
「私を【名もなきジョブ】のメンバーに入れて下さい」
「アルバインさんのお口添えですが、お断りさせて貰います」
ジュンイチ君の言葉は冷たく素っ気なかった。
「どうしてですか?」
「この後、生きて帰れないかも知れない相手と戦いに行くからです」
ひ弱そうな彼からは、信じられない発言だった。
【名もなきジョブ】は、全盛期のオジイ様でも手こずったスケルトンナイトと戦いに行くと言うのだ。
オジイ様とジュンイチ君との押し問答のすえ、私は【名もなきジョブ】の仮メンバーになって北の大地に向かう事になった。




