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巨人族の子供


 夜が更けると地震かと思えるほど空気が震えた。


「ワ~~。ワ~~」


「何の声だ!」


「分からないわ」

 物悲しい声がいつまでも続いた。


「サスケ、フェニック、何の声だか分かるか?」


『人間の泣き声のように聞こえますが』


「たしかに聞こえなくもないが、人間にこんな大きな声が出せる筈がないからな」

 一晩中続いた鳴き声の正体は分からなかった。


「何がいるのか調べに行ってきます」

 村長さんに挨拶した僕達は、夜の間に目星をつけた方向に向かう事にした。


「あの山までですと、歩いて二日はかかります。道案内をおつけしましょうか?」

 村の広場には朝早くから、やつれた顔の村人が集まっていた。


「ありがとうございます。でも、僕達だけの方が早く行けますので大丈夫です」


「そうですか、お気を付けて」

 村長さんの申し出を断って歩き出した僕達を、村人は怪訝な顔で見ている。


「サスケ君に乗って行くの?」

 アマリアさんがゾンビ騒動の時を思い出しているのか、頬を強張らせている。


「今日は人数が多いから、フェニックに乗って行くよ」


「フェニック!」

 僕の肩に目をやったアマリアさんが、さらに表情を強張らせている。


 数回経験しているフレッド君とジュリアナさんも、あまり良い顔はしていない。遊園地の絶叫マシンが苦手な僕も歩いて行きたかったが、森で魔物に襲われるよりは安全なのだ。


「フェニック、頼むぞ」

 村はずれまで来ると、フェニックを肩から下ろした。


『任せておいて下さい』


「キャー!」

 フェニックが本来の大きさに戻ると、広場から村人の悲鳴が聞こえた。


「驚かせてごめんなさい」

 広場に向かって頭を下げた僕達が背中に乗り込むと、フェニックはゆっくりと翼を動かして飛び上がった。


「静かに飛んでよ」

 フェニックの背中にある小さな突起物にしがみつくアマリアさんの声が震えている。


 頷くように首を振ったフェニックは、滑るように目指す山に向かった。


「この辺りだと思うんだがな」

 一瞬で山裾に辿り着いた。


「あそこで何か光ったわ」

 ジュリアナさんが指差したのは、山と山の間に出来た空間だった。


 フェニックがゆっくりと降下していくと、山肌と見分けがつかない色の巨大な建物が建っていた。


 伐り開かれた広場にフェニックが降りても、建物からは何の反応もなかった。


「前衛は私とサスケ君が務めるから、着いて来て」

 フェニックから降りたとたん元気になったアマリアさんが、先頭に立って仕切り始めた。




「誰が住んでいるんだ?」

 フレッツ王国の王宮と変わらない大きな建物は静まり返っていた。夜な夜なここから声が出ているとは思えない静けさだ。


「誰かいませんか!」

 門の前で全員が大声を出したが返事はなかった。


「入ってみる?」

 アマリアさんが大きな門扉を押すと、見た目の重厚さと違いスムーズに開いた。


「誰かいませんか!」

 敷地に無断で入るのは気が引けたが、玄関まで行くと再び叫んでみた。

 庭も綺麗に手入れされているので空き家ではなさそうだ。


「誰も居ないみたいね」

 魔物が出そうな感じではないので、皆の気が緩んできている。


「場所は確認できたし、夜に出直してくるか」

 さすがに無断で家の中に入るのは躊躇われた。


 全員の意見が一致したので引き上げようとした時、玄関の扉が開いて身長五メートルほどの巨人が顔を覗かせた。


「誰?」


「と、突然すみません」

 はるか上を見上げたまま、驚きで言葉が続かなかった。


「人間?」

 巨人も驚いている様子だが、敵意は感じられないので安堵した。


「突然お邪魔してすみません。夜な夜な聞こえる泣き声を調べるためにこの辺りを飛んでいたら、お宅が見えたのでお話しを聞かせて頂こうとお邪魔しました」

 言葉は通じそうなので丁寧に聞いてみた。


「この家は人間の目には見えないとお父さんが言っていたのに、どうして見えたのかな?」

 見た目は大きいが、喋り方からしてどうやら子供のようだ。


「お父さんにお会いできませんか?」

 巨人の目が赤く腫れているので、泣いていたのはこの子で間違いなさそうだ。


「お父さんもお母さんも、殺されて居なくなったよ」

 巨人の目から、まさに大粒の涙が零れ落ちた。


「殺されたって誰に?」


「襤褸を纏った骸骨が十体現れて、お父さんとお母さんを殺して連れて行ったんだ。ワ~~。ワ~~」

 巨人は膝を崩して、両手で顔を覆って泣き出した。


「クゥ!」

 全員が耳を押さえて蹲った。村に聞こえていたのはこの泣き声に間違いなかった。


 サスケは足元で蹲り、フェニックは上空に飛び立っていた。


(鼓膜が破れてしまう)


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 慌ててハーモニカを取り出すと、泣き声に負けないように必死で[竹田の子守歌]を吹いた。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 巨人は少しずつ落ち着きを取り戻して、耳を傾けるようになってきた。


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 巨人が泣き止んだ時には、仲間の三人が眠ってしまっていた。


「落ち着いたかい?」


「それは何?」


「ハーモニカだよ」


 ♪・・・♪・・・♪。


 巨人が興味を示しているので楽しくなるように[森のくまさん]を聞かせた。


 ♪・・・♪・・・♪。


 笑顔になった巨人が体を揺らしてリズムを取り始めたので、暫く演奏を続けた。


「お父さんとお母さんの事を、詳しく聞かせてくれないか?」


「いいよ。でも、みんなどうして寝ているの?」


「子守唄を吹いたから眠ってしまったんだ。今起こすよ」


 ♪~~~♪~~~♪‼。


 サスケから魔力供給を受けながら[新しい朝が来た]を奏でて仲間を起こした。


「一体、何が起きたの?」

 突然睡魔に襲われたアマリアさんは、フレッド君とジュリアナさんと共に首を傾げている。


「何があったかは後で話すよ」

 戻ってきたフェニックを肩に乗せると、邸内にお邪魔した。




「僕の名前はジュンイチ、君の名前は?」

 僕達は巨人の子供に案内されて応接間に来ていた。何もかもが大きくて見上げるばかりだった。


「僕ちゃんだよ」


「僕ちゃん? お父さんとお母さんの名前は?」


「変な事を聞くんだね。お父さんはお父さんで、お母さんはお母さんだよ」


「僕は十七歳だけど、君は幾つなんだい?」


「幾つ? 意味が分からない」

 物事を知らないようには見えなかったが、会話が上手く噛み合わなかった。


「君たち親子はここで何をしていたんだい?」


「古代の歴史を守っていると、お父さんが言っていたよ」


「このお屋敷に人間が訪ねてきたのは、僕達が初めてなのかい?」


「そうだよ。この家は人間にも魔物にも見えないように出来ているから、誰も訪ねて来ないと言っていたのに……骸骨の化け物が……」


「分かった、分かった」

 またまた巨人が泣き出しそうになったので慌てた。


「骸骨の化け物って、魔人ゴーストと関係があるのかな?」

 フレッド君に聞いてみた。


「分からないけど、無関係ではないだろうな」


「サカガミ村の災害がこの子が原因だとしたら、どうしたもんだろうね?」

 聞いてはみたが、誰も答を持たなかった。


「ねェ。さっきのハーモニカ、もう一度聞かせて」

 村を悩ませている鳴き声や骸骨の化け物の事で思案していると、巨人が無邪気に言ってきた。


「いいよ、僕がハーモニカを吹いている間、仲間が家の中を見せて貰ってもいいかな?」

 何か対策法を見つけないと村に帰れなかった。


「いいよ。でも、何もないよ」


「ありがとう。皆、色々と興味があるだろうからゆっくり見せて貰ってくれ」


「じゃ、拝見させて貰うよ」

 三人は僕の意図を察して、応接間を出て行った。


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