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サカガミ村へ


 ゾンビ駆除を終えて八日振りにダーダー王国の王都に戻ると、国は早くも復興に向けて動き出していた。


 国民の六割近くが亡くなり、リッチに占拠されていた王宮の被害は甚大で王族も貴族も生き残っている人はいなかった。


 アルバインさんが指揮を執り、近隣の国と協議会を開く事が決まった。

 協議会は隣国四ヶ国の代表とダーダー王国の代表ハンスさんとで開かれた。

 何処の国も自国の利益が優先事項だったが、ダーダー王国が魔物に占拠される事になれば、被害が自国にも及ぶので支援を拒む事はなかった。

 揉め事を纏めるために各国の代表は、アルバインさんを一代限りの国王に選び、国名をダーダー連合国と変更した。

 アルバインさんは頑なに拒んだが、各国が最大限のバックアップを約束して締結となった。


 ダーダー連合国は復興のために移民を受け入れ、他国は移民に対して援助金を出す事で住民を増やしていく事が決まった。

 ハンスさんは宮廷騎士団の隊長になり、生き残った生徒達は騎士団や魔術師団に席を置く事も決まったが、あまりにも絶対数が足りなかった。




 ゾンビ騒動から一ヶ月。

 冒険者養成学校を退学しカーソル邸を出た僕は、ダーダー連合国で冒険者になっていた。

 アルバインさんに傍にいて仕事を手伝って欲しいと言われたが、魔人ゴーストを探し続けるフレッド君とジュリアナさんと行動を共にする事にしたのだ。


 ダーダー連合国の王都には、いの一番に冒険者ギルドが開設されて、治安の維持に冒険者が雇われるようになった。

 僕たち三人はギルドの掲示板の前で仕事を探していた。ゾンビ退治の報酬は十分に貰っているが、魔人ゴーストの情報集めのためにもギルドでの仕事は欠かせないのだ。


「魔物討伐の依頼が増えているね」

 掲示板に貼られた沢山の依頼書に、フレッド君は顔をしかめている。戦う術の少ない僕達には不向きな仕事ではあるが、まだまだ冒険者の少ないこの国では請け負わなければならない時もあった。


「この村の人達、困っているみたいよ」

 ジュリアナさんが一枚の依頼書を指差した。


「魔物の鳴き声に家畜が怯えて、人間も恐怖を感じているかぁ。何の魔物なんだろうな?」

 サカガミ村の依頼書には具体性がなかったが、ジュリアナさんの直感が僕達を動かした。報酬は安いが国の補助があるので、冒険者にとっては働きやすい国になっている。


 荷馬車を用意した僕達は、片道三日の旅に出る事にした。サスケやフェニックを使わずにゆっくりと行くのは、街道に出る盗賊や魔物を倒すようにアルバインさんに頼まれているからだ。


「【名もなきジョブ】の皆さんお出掛けですか?」


「お久し振りです、アマリアさん。依頼を受けてサカガミ村に行ってきます」

 聞き覚えのある声の主は、軽鎧を着たアマリアさんだった。鉄鎧の時と違ってふくよかな胸元やくびれた腰が目を引き、引き締まった体が強靭さを表している。


「私も連れて行って貰えませんか?」


「何か御用があるのですか」


「いいえ、ご一緒したいだけです」

 僕は仲間と顔を見合わせた。二人とも首を傾げている。


「宮廷騎士団のお仕事はどうされたのですか?」


「ハンス隊長にお願いして、長期休暇を頂いてきました。詳しいお話は道中でさせて頂きます」


「そうですか、分かりました。乗って下さい」

 何か話し辛そうにしているのが気になったが、お世話になったアマリアさんの願いを断れずに馬車に乗って貰った。




「みなさんはお元気でしたか。私は念願の宮廷騎士団に入団して、国のために働こうと剣術などの訓練に励んできました。このご時世ですから、仕事は山積みで遣り甲斐はあるのですが……」

 サスケに馬の指示を任せている僕は荷台の話し声に耳を傾けていたが、一方的に喋っていたアマリアさんが急に黙ってしまった。


「何かありましたか?」

 フレッド君が心配そうに聞いている。


「剣術の訓練をしていても、身が入らないの」

 アマリアさんの声のトーンが落ちた。


「どうしてですか?」


「ゾンビと戦っていた時のような、緊張感とか満足感のようなものがないのよね。不謹慎かしら?」

 アマリアさんは満たされない自分に悩んでいるようだ。


「僕達は何度も死を間近に体験していますので、アマリアさんのように強くなりたいといつも思っていますよ」


「私も魔物と戦える力があればと思っています」


「二人とも何を言っているの、二人とも私には想像もつかない力を持っているじゃないの」


「僕達が生きているのは、運が良かっただけですよ」

 フレッド君がふさぎ込んでしまった。


「運も実力のうちと父が良く言っていたわ」

 それってあまり励ましになっていませんよ、と思いながら荷台の話を背中で聞いていた。


「アマリアさんは何がしたいのですか?」

 ジュリアナさんがボソッと聞いた。


「それは、その~~。皆さんの仲間に入れて貰えないかと思いまして」


「ええっ!」

 僕は思わず振り返ってしまった。宮廷騎士団に勤めるような人が、なぜ弱小パーティーに入りたいのか理解が出来なかった。


「ダメでしょうか?」


「ダメもなにも、【名もなきジョブ】はアルバインさんが作ったもので、アルバインさんがいたからリッチを倒し、ゾンビを駆除する事が出来たんですよ。アルバインさんが抜けた【名もなきジョブ】は、最弱のパーティーですからね」


「本当にそうでしょうか? では何故ジュンイチさんがリーダーだったのですか?」


「それは、三人に無理やり押し付けられただけですよ」


「そうなのですか?」

 アマリアさんは疑いの目で、フレッド君とジュリアナさんの顔を交互に見詰めている。


「そうですよ」

 フレッド君が顔を伏せて答え、ジュリアナさんが小さく頷いている。


「そうですか、分かりました。では今回の任務だけ私を前衛に使って下さい、私の思い違いでしたら王都に帰ったら宮廷騎士団に戻りますから」

 アマリアさんは真顔で僕を睨んでいる。


「構いませんよ。今回の任務はサカガミ村を困らせている魔物の鳴き声が、何なのか調べるだけの簡単な仕事ですから」

 また何か厄介事が起きるような予感がして横を向くと、フェニックの怖い貌があってビビってしまった。

 サスケは僕の横に座ってじっと前を見ている。




 一日目は何事もなく終わり、焚き火を焚いて堅パンと干し肉の食事を済ませると、交代で見張りをしながら夜を過ごした。


 二日目は夜明けと共に朝食を済ませて出立した。

 アマリアさんが御者を変わろうと申し出てくれたが、サスケが必要ないと言ったので断った。ぎこちない雰囲気なのは感じるが、コミュニケーション能力がない僕にはどうする事も出来なかった。


 フェニックが時々上空に飛び上がって前方の安全を確認しているのだが、昼食後の飛行でオオカミの群れが街道の近くにいるのが分かった。


「厄介だな」


「どうかした?」


「オオカミが二十頭ほど林の中に隠れているようなんだ」


「オオカミとは厄介ね、馬が襲われたら立往生してしまうわよ」

 アマリアさんが止めた馬車から飛び降りた。


「どうするんですか?」


「私が追っ払ってくるわ」


「一人では無理ですよ」


「だったらサスケ君を貸して」


「無茶をしないで下さいよ」


「分かっているわ。行きましょう」

 アマリアさんはサスケの頭を撫でている。いつの間にあんなに仲良くなったんだか?


 念のため革袋から出した魔石を懐に入れると、アマリアさんとサスケを送り出した。


 上空に飛ばしたフェニックから、随時情報が送られてきている。


 オオカミはアマリアさんが二頭を倒し、サスケが威嚇の遠吠えを上げると尻尾を巻いて逃げて行ったようだ。


「アマリアさんは本当に強いですね」

 露出気味だと思える引き締まった体を見ているフレッド君が、何故か顔を赤くしている。


「私は自分の力を隠したくないだけよ」

 御者に専念している僕の背中に、アマリアさんの視線が痛かった。


 ハーモニカを吹く事しか出来ない僕を、周りがどんな風に見ているのか気になって仕方がなかった。




「あれがサカガミ村だわ」

 ゾンビ駆除の時のように、アマリアさんの案内に頼る事になっている。

 高台から見下ろす限り、木の柵で囲まれた小さな村は平穏そうに見えていた。


「何か感じるか?」


『特に変わった様子はないようです』

 サスケも異常は感じていないようだ。


「行ってみましょう」


「そうだな」

 馬車を引いて村に入ると、村長さんとオボしき人が数人の村人と共に姿を現した。


「冒険者ギルドから仕事の依頼を受けてやってきました、【名もなきジョブ】です」

 アルバインさんがいないので代表して挨拶した。


「お待ちしていました」

 村長さんをはじめ全員が頭を下げている。年配の人に丁重に扱われる事に慣れていないので、舞い上がってしまい次の言葉が出てこない。


「村の中をご案内させて頂きます」

 おたおたしていたら村長さんが歩き出した。


「あんな若造達で大丈夫なのか?」

 村人達が囁いているのが聞こえるが、反論する勇気がなかった。


「サカガミ村はゾンビの被害はなかったのですか?」

 一番後ろで馬車を引いているアマリアさんが声を張った。


「十三人がゾンビになりましたが、全員が突然倒れて騒動は終わりましたよ」


「そうですか。その時、国中のゾンビを倒したのがここに居るジュンイチさんなんですよ」

 恥ずかしくて小さくなっている僕に対して、アマリアさんはドヤ顔で胸を張っているように思えた。


「そうでしたか、その節はありがとうございました」

 村長さんは言葉だけの礼を述べ、村人は胡散臭そうに我々を見ている。


「ところで魔物の鳴き声とは、どのような物なのでしょうか?」

 いたたまれずに口を開いた。高校の教室でもそうだったが、人から憐れむような視線を向けられると押し潰されそうになるのだ。


「森の向こうの山から、夜な夜な人の泣き声のような不気味な声が聞こえてくるのです。我々は眠れずにいますし、家畜は怯えて鳥は卵を産まなくなりましたし、牛やヤギは痩せて乳を出さなくなったのです」

 村長さんは立ち止まると、遠くの山を指差した。

 たしかに日焼けした村人の目元には隈ができ、家畜は痩せて元気がなさそうに見える。


「あんな遠くから声が聞こえるなんて、どんな魔物なんだろ?」

 三人に意見を求めたが、この国に詳しいアマリアさんにも分からないようだ。


「今夜その声を聞いてみて、明日調べに行くか?」


「それしかないでしょうね」

 全員の意見が一致した。


「このような状況ですのでおもてなしは出来ません、空き家になっている家がありますのでそちらを使って下さい」

 村長さんは村人を解散させると、ゾンビ騒動で空き家になった家に僕達を案内して下さった。


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