フェニックとの出会い
ワープした先の下層ダンジョンは通路ではなく、広いワンフロアになっていて地上のように草木が生えていた。
地下にジャングル地帯が広がっていることに驚いたが、魔法が存在する異世界では小さなことだった。
恐れていた敵はすぐに現れた。それも棍棒を持ったオーガが二体も同時に。
「いきなりオーガとは、ここからが本格的なダンジョンと言う訳なのね」
剣を抜いたアマリアさんが戸惑いもなくオーガに向かって走り出すと、サスケも並ぶように走り出している。
飛び上がったアマリアさんの剣がオーガの心臓に突き刺さり、サスケの前足パンチがもう一体の頭を割っている。
「鎧を着てジャンプが出来るなんて凄いですね」
アマリアさんのスバ抜けた身体能力に驚いた。サスケの高速飛行でも振り落とされなかったのも頷ける。
「この程度の事が出来ないようでは、宮廷騎士団には入れないわ」
アマリアさんは褒めるとすぐにドヤ顔になる。
「ここからはオーガを囮に使って進みましょう」
ジュリアナさんの青い目が光ると、オーガが起き上がった。
「何! 死んでいなかったの」
アマリアさんが驚いて剣を構えている。
「大丈夫です。あれはジュリアナが操っているのです」
「魔物を操るなんて、彼女の能力は?」
「ジュリアナはネクロマンサーなんです」
「ネクロマンサー。聞いた事があるは、確か死人使いなんでしょ」
「そうです、でも優しい人ですから毛嫌いしないで下さい。ついでにフレッドはシャーマンで、僕はテイマーです」
「変わった職業ばかりが集まっているのね」
「驚かれたと思いますが、地上に戻るまではお付き合い下さいよ」
「わ、分かっているわ」
アマリアさんは強がって見せているが、声が上擦っていた。
♪~~~♪~~~♪‼。
迷わないように[傾いた道しるべ]を奏でながら、オーガを囮に進んでいるとリザードマン五体が襲ってきた。
二足歩行するワニのような魔物のリザードマンは剣や槍の武器を持っていたが、いくら攻撃しても倒れないオーガに手こずっている所をアマリアさんとサスケの攻撃を受けて倒れた。
かなり傷付いたオーガとリザードマンの屍を囮にさらに進むと、上空から巨大な魔物が襲ってきた。
「ドラゴン!」
鋭い爪の生えた足でオーガを鷲掴みにして飛び上がる魔物の姿に、思わず叫んでしまった。
「違うわ。あれはワイバーンよ、でも逃げましょ! 勝てる相手ではないわ」
アマリアさんが血の気が引いた頬を引き攣らせている。
「は、はい」
皆が走り出そうとした方角にオーガが投げ落とされ、原形が分からないほど無残に潰れてしまった。
さらにワイバーンはリザードマン二体を掴み上げると、翼をゆっくりと動かしてホバリングしながら僕達を見ている。
逃げ出せばリザードマンを投げつける積りなのだろう。
『主よ、僕が奴の動きを封じますので、テイムして下さい』
「テイムなどした事ないのに無理を言うなよ」
『主の力を示せばいいのです』
「やってみるけど、ダメだったら何とかしてくれよ」
『ダメでしたら、逃げる時間を稼ぎます』
サスケと押し問答をしている僕を、仲間の三人が不思議そうな顔をして見ている。はた目には独り言を言っているようにしか見えないのだろう。
「ウオーーーッ!」
ロングトーンで吠えたサスケはサバイバルナイフと合体すると、銀色に輝いて空中でワイバーンと対峙した。
投げつけられたリザードマンを避けたサスケが体当たりを試みるが、空中戦では翼のあるワイバーンに勝機があった。
♪~~~♪~~~♪‼。
ブレザーを脱ぐと、革の袋から出した拳大の魔石を肌に触れるように懐に入れ、ハーモニカを吹き始めた。魔石にはサスケの魔力が満タンに注入してあるが、効果の持続時間は分からない。
奏でようとする[火の鳥]は難しい曲だが、ハーモニカに意識を集中すると頭の中にリズムと譜面が浮かんできている。
♪~~~♪~~~♪‼。
演奏を続けていると体が燃えるよに熱くなってきたが、我慢して吹き続けた。
♪~~~♪~~~♪‼。
上空ではサスケが五倍近い体格差があるワイバーンと、ぶつかり合いながら戦いを繰り広げている。
♪~~~♪~~ ♪‼。
魔石の魔力が底を尽いてきたのか息切れが始まった時、ワイバーンがゆっくりと地上に降りて翼を畳んだ。
『主、やりましたね』
サスケが傍に寄ってきた。
「何があったんだ?」
『僕には主から、巨大な火の鳥が飛び立つのが見えました』
サスケが僕を見上げて頷いている。
「それでワイバーンは戦意をなくしたと?」
『そうです。話し掛けてみて下さい』
サスケに付き添われ恐る恐る近づくと、項垂れたまま僕を見ているワイバーンの目が怯えているように見えた。
「僕の名前はジュンイチ。君の名前は?」
言葉は分からいだろうと思いながらも聞いてみた。
「クウッ……」
ワイバーンは人間を一呑みにしそうな大きな口を開けると、低い唸り声を洩らした。
『主よ、僕の時のように名前をつけられたらどうですか?』
「名前ねェ」
僕とサスケの会話が分かるのか、ワイバーンが少し頭を上げた。
「ワイバーンだから、ワイコとかバンバンはどうだ?」
自分でも命名の才能のなさに恥ずかしくなり、ワイバーンも首を横に振っているように見えた。これでは吟遊詩人のオッサンを笑えないなと深く反省した。
「そうだな。これから僕を守ってくれるのなら、火の鳥フェニックス。そうだフェニックはどうだ?」
「クゥーー!」
無い知恵を絞ってつけた名前が気に入ったのか、ワイバーンが顔を上げて大きくひと鳴きすると、その躰が急速に縮み、鳩ほどの大きさになった。
「ええェ!」
「「「ええェ!」」」
驚いたのは僕だけではなかった。じっと成り行きを見守っていた三人も声を出して驚いている。
『主様、名前をつけて頂きありがとうございます。訳があって魔人ゴーストの下僕になっていましたが、今からは主様にお仕えいたします』
ワイバーンの声が頭の中に響いてきた。
「主様か。誰にも聞こえていないようだから、好きに呼んでくれたら良いよ」
『肩に乗せて貰っても構わないでしょうか?』
フェニックは許可を出す前に、ひとつ羽ばたいて左肩に止まった。重たさは感じないが、違和感があり慣れるのには時間がかかりそうだ。
「凄いな、リーダー。主様ですか」
フレッド君がフェニックを見て目を輝かせている。
「僕達の会話が聞こえていたのかい?」
「いいえ。でもリーダーが独り言で言ったじゃないですか」
「そうだったかな」
とぼけて左肩を見て少し引いた。大きさは鳩ほどの可愛さだが、躰つきはマッチョだし、長い尻尾はあるし、貌は怖いし、小さい子供が見たら絶対に泣くやつだ。
「可愛いわね」
ジュリアナさんは僕に近寄ると、フェニックの頭を撫でている。
「ありえない。こんなの絶対にありえない」
アマリアさんは視線を逸らして、ブツブツと呟きながら現実逃避している。
広いワンフロアをさらに進むと、骸骨を寄せ集めて作ったような不気味で巨大な門扉の前に出た。
「行くわよ!」
前衛を務めるアマリアさんが扉を押すと、簡単に開いた。
「ここに生きた人間が入ってきたのは初めてだよ」
だだっ広い広間の奥に置かれた大きな椅子に、白衣の男が座っていた。
「ここは何なんだ? そしてお前は誰なんだ?」
アマリアさんが大声を出した。
「私は魔人ゴースト。そしてここは私の研究所だよ」
「研究所? 何もないじゃないか?」
「両側の壁に幾つものドアがあるのが見えないかね」
ゆっくりと立ち上がった男が、悠然と両腕を広げた。
「こんな所で何の研究をしているんだ?」
「スケルトンの有効活用の研究だよ。君達こそ何をしに来たんだ?」
「十年前に貴様に滅ぼされた村の皆と両親の仇を討ちに来た、シャーマンのフレッドだ」
「私はあんたに奪われた父の魂を返してもらいに来た、ネクロマンサーのジュリアナよ」
フレッド君とジュリアナさんが前に出で魔人ゴーストを睨んだ。
「シャーマンにネクロマンサーか、興味のある人間だが覚えがないね。二人もここで私と一緒に研究をしないかね、有意義な成果が得られると思うぞ」
「親の仇に屈するつもりはない!」
フレッド君が木の人形を握りしめた。
「それは残念だ。そっちの二人は何用かね?」
「僕達は助っ人だ!」
粋がってみたが声が震えていた。
「研究の邪魔をするのなら死んで貰おう。そして研究材料になって貰おうか」
笑う魔人ゴーストが手を上げると左右のドアが二つ開いて、剣を持ったスケルトンが十体ずつ現れた。
「厄介な敵ね」
アマリアさんが剣を構えたが、骨だけの敵に通用するとは思えなかった。
♪~~~♪~~~♪‼。
僕は[葬送行進曲]を吹いて見たが、ゾンビの時のような効果は表れなかった。
ジュリアナさんの青い目が光り冷たい空気が渦巻くと、わずかに残っていたオークとリザードマンの屍が扉から武器を振り回しながら入ってきた。
砕かれ踏み潰されてスケルトンが数を減らすと、別のドアが開き新たなスケルトンが出てきた。
「ここには三百体以上のスケルトンがいるんだ、どこまで戦えるか楽しみだよ」
ジュリアナさんの力にも魔人ゴーストはまったく臆していない。
「魔人ゴースト、シャーマンの呪術を受けてみろ。…………」
フレッド君が木の人形を突き出して呪文を唱え始めた。
「な、何! 何をした」
呪術に絡め捕られて動きが悪くなっていく魔人ゴーストは、少しずつ後ずさっていく。
「サスケ! 行け!」
僕に魔力を供給していたサスケが体当たりしようとすると、スケルトン数体がゴーストの前でバリケードを築いた。
「邪魔をしないで!」
ジュリアナさんが操るリザードマンが骨のバリケードを崩していった。
「サスケ! 合体だ!」
鞘から抜いたサバイバルナイフを投げた。
「ウオーーーッ!」
銀色に輝くサスケが額の角を光らせて、動きが鈍っている魔人に突っ込んでいった。
胸を一突きされた魔人ゴーストの姿が消えると、ピン球ほどの魔石が床に転がった。
「やったのか?」
呆気ない勝利に戸惑っていると、
「私の分身を倒すとは、ただの人間ではなさそうだな。次に会う機会がある事を願っているよ」
冷たい笑い声が部屋中に響き渡ると、外から入ってきた扉が閉まり、壁のドアがすべて開きスケルトンが溢れ出してきた。
「これでは限がないわ」
剣でスケルトンを壊しているアマリアさんが息を切らし、ジュリアナさんが操るオークとリザードマンの屍は動ける限界に来ていた。
「フェニック、力を貸してくれ!」
『お任せを、主様』
巨大化したフェニックとサスケが暴れ回りスケルトンを壊していくが、再生する個体もあり終わりが見えなかった。
魔石の魔力が尽きている僕は何も出来ずに、仲間と部屋の隅に後退るしかなかった。
「こんな時に魔法が使えたら何とかなるのになぁ」
迫ってくるスケルトンを剣で叩き壊しているアマリアさんが愚痴を零した。
(これまでかな)
諦めかけたときスケルトンが突然すべて崩れ落ちた。
「何があったんだ?」
「分からないけど、助かったようね」
僕達は座り込んで、暫く動く事が出来なかった。魔人が消えて時間が経ったので、スケルトンを動かしていた魔力の効果が切れたようだ。
「あれが分身だったとわ。仇が討てなくて残念だったね」
フレッド君とジュリアナさんの心中を思うと、命拾いしたのに気が沈んだ、
「そんな簡単に魔人が倒せるとは思っていなかったよ。呪術が魔人に効くと分かっただけで、前に進めるよ。ありがとう」
フレッド君の力強い言葉に、ジュリアナさんも頷いている。
「スケルトンと戦うには私のような剣術使いより、強力な魔法使いが仲間に必要のようね」
疲れ切った表情のアマリアさんが苦笑いしている。
「そんなことないよ、本当にありがとう」
フレッド君とジュリアナさんがアマリアさんに頭を下げた。
「アルバインさんがいてくれたら、勝てたかも知れないのにな」
僕はアマリアさんの言葉に、この世界における魔術師の存在を改めて認識させられた。
魔人ゴーストの部屋ではこれと言った情報も得られず、転送魔法陣の部屋に移動すると無事に地上に戻る事ができた。




