幕間3大魔導士の孫娘ユリナ
私の名前はユリナ・カーソル。
大魔導士アルバイン・カーソルの孫娘です。
幼少期からおじいさまの英才教育を受けていた私は、王都の魔術師養成学校では習う事がなく、実践的な訓練を受けるために冒険者養成学校に入学を決めていた。
私を可愛がっていて下さったおじいさまの様子が変わったのは、バッハレドの近くで盗賊に襲われてからだった。
身なりのあまり良くない少年を自宅に連れてきたばかりか、私が通う冒険者養成学校に入学まで段取りされたのだ。
おじいさまが何を考えておられるのか分からなかった。夜な夜な少年を自室に呼んで遅くまでお話しをなさっていて、私との会話は殆どなくなってしまっている。
「お父様、ジュンイチを何時まで家に置いておかれのですか?」
「御爺様の意向だから仕方がないだろ」
お父様は宮廷魔術師団の上席の地位にありながら、おじいさまにはまったく頭が上がらないのだった。
魔力がまったくなく、学校ではいつもポッチだったジュンイチが、同じようにポッチだったフレッドとジュリアナの二人とパーティーを組んだのには驚いた。
私は貴族の五男のスタットが作ったパーティー【究極の戦士】に、豪商の三男のカジットと一緒に加わっていた。
すぐにでも宮廷魔術師団に入団出来る魔法使いの私がいるのだから、学園内では最強のパーティーと認識されていた。そお、あの日までは。
「特別教官のカーソル先生が一身上の都合で退職されました」
学校生活にも慣れたある日の朝礼で、校長先生が仰った一言だった。
同じ屋根の下で暮らしている私が、驚愕のあまり倒れそうになるほどの突然の報告だ。
「それと、編入生を紹介しよう。バイトルさんです」
驚きの朝礼は続いた。
壇上に上がってきたのは、白い派手なローブ姿のアイマスクを嵌めた若々しいご老人だった。
「今ご紹介頂きました、駆け出し冒険者のバイトルです。職業はマジシャンです、よろしく」
おじいさまよりは若く見えるが、駆け出しの冒険者と言う年齢でないのは確かだった。それにマジシャンって大道芸人ですか?
「マジシャンと魔法使いは何が違うんですか?」
誰かが声を掛けた。
「私のマジックは魔力を使う魔法ではなく、種も仕掛けもあるトリックなのです」
バイトルさんは右手を突き出すと掌の上に、バレーボールほどの火の玉を浮かべた。
魔法をバカにしないで欲しいは、ファイアボールは魔物を焼き尽くすんですからね、見せかけの火の玉に腹が立った。
「魔法が使える人なら簡単な事でしょう。しかし、私が使えるのは初級の治癒魔法だけなので、マジックで人を騙しているのです」
バイトルさんは、ゆっくりと浮かび上がって見せた。
空中浮遊! 私には出来なかった。おじいさまが使うのは見た事があるが、お父様にも真似の出来ない高等魔法だった。
どんなに目を凝らしてもトリックは見抜けなかった。
「凄いです。僕達のパーティーに入って頂けませんか?」
私の隣にいたスタットがバイトルさんに声を掛けた。
「誘ってくれてありがとう。だけど私は最強のパーティー【名もなきジョブ】に入るためにこの学校に来たので、申し訳ないが辞退させて貰うよ」
「聞いたかよ。【名もなきジョブ】が最強だってよ、最弱の間違いじゃないか」
スタットの指摘に私を含め、広場は爆笑の渦に巻き込まれた。
「そこまで笑われるなら、【名もなきジョブ】と試合をなさってみてはいかがですか? 貴方方が勝たれたら、パーティーに入れて頂きましょう」
バイトルさんが真顔で提案をしてきた。
「面白い。ジュンイチ、どっちが最強か決着をつけようじゃないか」
スタットがやる気満々になっている。
もちろん私も異論はなかった。おじいさまを奪った少年に制裁を加えたくて、機会を伺っていたのだから。
先生方が広場の中央に張られたドーム型のバリアの中で、三対三の試合が始まった。
負ける気はまったくしなかった。むしろケガをさせない魔法を選択するのに気を配った。
スタットが訓練用の刃を潰したショートソード抜き、カジットが革帯を巻いたままの大斧を構えて臨戦態勢に入った。
「風よ、重き空気を集め我が敵の」
私は攻撃魔法ではなく、ウェートアディションと言う重力を加えて敵を動けなくする特殊魔法を選んで詠唱を始めた。
試合は一瞬で終わった。私達が負ける筈はなかったのだ。
ジュンイチがハーモニカを取り出した所までははっきりしているが、その後何が起きたのかよく分からなかった。
♪~~~♪~~~♪‼。
不思議な音が聞こえて目の前が真っ暗になると、サスケの遠吠えが聞こえた。
動物の鳴き声ぐらいで集中力を欠く私ではなかったが、精神をかき乱すような鋭い吠え声に耳を覆って蹲ってしまった。
視界が戻ると、スタットとカジットが倒れているのが目にはいった。
何が起きたかは分からなかったが【究極の戦士】は【名もなきジョブ】に敗北して、誰もが認めていた最強の称号は地に落ちてしまったのだ。
「お父様、おじいさまが学校をお辞めになったのはご存知でしたか?」
その日の夜、おじいさまとジュンイチが自室に姿を消すと聞いてみた。
「いや、初耳だ」
お父様にも知らされていなかったようだ。
「今日、朝礼で校長先生から発表がありましたよ」
「何を考えておられるんだか、聞いてくる」
おじいさまの部屋に向かったお父様は、暫くすると真っ青な顔で戻って来られた。
「どうでしたか?」
「本当に学校はお辞めになったそうだ」
「理由は仰っていましたか?」
「御爺様もお歳だから自由にさせて上げなさい。お前達もこれ以上の詮索をしないように、分かったな」
怖い顔をしたお父様は、お母様と私達に釘を刺すと自室に戻っていかれた。
私は兄と顔を見合わせて驚いた。お父様のあんな怖い顔を見たのは初めてかもしれないのだ。




