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吟遊詩人とのコラボ


「何なんだろうな?」

 焼肉屋さんに借りていた代金を払って広場を歩いていると、人だかりが出来ていた。


 覗いて見るとゴザの上に座った中年男性が、琵琶のような楽器を弾きながら謳うように語っていた。

 暫く聞いているとリズムが分かって、何時しか爪先で音を出していた。


「楽しんで頂けたかな? 次は誰かワシと一緒に演奏してくれる人は居ないかな?」

 と言って、男性は小太鼓のような楽器を取り出した。


「僕、やりたい」

 母親と一緒に演奏を聞いていた十歳位の男の子が手を上げた。


「よし、こっちへ来てくれ。これはポンポコと言う楽器で、これで叩くと音が出るんだ」

 男性は子供に楽器とバチを渡すと鳴らし方を教えた。


「ポンポコポン、ポンポコポン」

 男の子は楽しそうにポンポコ《小太鼓》を叩いている。


「次はこのカタカタを誰か鳴らしてくれないか?」

(何とも陳腐な名称だな)

 男性がカスタネットのような楽器を取り出したのを見て吹き出しそうになった。


『僕の名前を付けるのに苦労していた主が笑うのは失礼ですよ』

 隣に座っているサスケが思念で注意をしてきた。


『そうだな』

 真剣に演奏者を探している男性に小さく頭を下げた。


「私がやりたい」

 今度は十歳位の女の子が手を上げた。


「頼もしいね、宜しく頼むよ」

 男性は子供二人をゴザの上に上げると、僕に視線を向けてきた。


「白い犬を連れたそこの兄さん。ワシの演奏に会わせてリズムを刻んでいたが、何か楽器を遣っているのか? 良かったら一緒に楽しまないか」


「僕は……」

 声を掛けられた事で周囲の視線が向くと、急に恥ずかしくなって一歩下がってしまった。


『子供でもあんなに積極的になっているのですよ、今のままではこの世界に来た意味がないじゃないですか』

 サスケが残念そうに見上げてきた。


「遣らせてください」

 従兄弟から隠れるように俯いていた記憶が蘇った僕は、顔を上げて大きな声を出した。


「遣るか。それで楽器は何が出来るんだね?」


 ♪・・・♪・・・♪。


「これです」

 ハーモニカを取り出すと軽く吹いてみた。


「見慣れない楽器だが、それは?」


「ハーモニカです」


「ハーモニカか。それじゃ、少し練習をしてみようか。ポンポコとカタカタは、おじさんが合図したら二回音を出してくれ。兄さんはワシに合わせられるだろ?」


「分かりました」

 観客の期待に満ちた視線に気恥ずかしくなった。


 男性は子供達に頷くような合図を送りながら先ほどの楽曲を奏で始めた。


 ♪・・・♪・・・♪。


 僕は男性のメロディに伴奏を付けるようにハーモニカを吹いた。


「いい感じだ。では、本番といこうか。皆さん、今度は少し賑やかな〔勇者の進撃〕で聞いてください」

 男性は観客に一礼すると先ほどと同じ楽曲を奏で始めた。


 ♪・・・♪・・・♪。


(やっぱり、音楽は素晴らしいもんだな)


 ♪・・・♪・・・♪。


 魔物が現れて人が簡単に死んでいくこの世界だが、音楽を楽しんでいる人達がこの瞬間だけでも安堵した表情を浮かべているの見て、自分も頑張れる気がした。


 ♪・・・♪・・・♪。


 演奏が終わると拍手共に、男性の前に置かれたザルに硬貨が投げ込まれた。


「出演ありがとう、お礼だよ」

 男性は二人の子供にお菓子を渡した。


「「楽しかった、ありがとう」」

 子供達は嬉しそうに保護者の下に帰っていった。


「兄さん、一人で何か演奏してみないか?」

 男性の言葉に回りに集まっている人から拍手が沸き起こった。


「ほら、皆もハーモニカの演奏を聞きたがっているぞ」


「それじゃ少しだけ、子供達が楽しくなるように〔村祭り〕を吹きます」


 ♪・・・♪・・・♪。


 子供達が身体を揺らしながら聞いてくれているのを見ていると、自分にも勇気が湧いてきて父から受け継いだハーモニカの力に感謝した。


 ♪・・・♪・・・♪。


 二曲目の童謡〔春の小川〕を吹き終えると、


「大人のための曲もあるなら聞かせてくれないか」

 と、観客の中から声が飛んできた。


「そうですね。それじゃ〔古城の月〕を聞いてください」


 ♪・・・♪・・・♪。


 父が好きだった曲をしんみりと奏でた。


「今日は楽しかったぜ。これは兄さんにだからな」

 冒険者風の男性がザルに硬貨を投げ入れると、吟遊詩人の男性のときより沢山のお金が投げ込まれた。


「また聞かせてくれよ」

 人だかりがなくなったのでホットと胸を撫で下ろした。


「兄さん、ワシと一緒に興行しごとをしないか?」


「ありがたいお誘いなんですが、今はやらなければならない事があるんです」

 吟遊詩人の男性の誘いで危険な冒険者にならなくてもこの世界で生きていける事が分かって嬉しかったが、お世話になっているアルバインさんの事を考えると色よい返事ができなかった。


「そうか。気が変わったら声を掛けてくれ、何時まででも待っているぞ」

 男性はザルの中から一掴みの硬貨を渡してきた。


「こんなに貰っては……」


「今日の稼ぎは殆ど兄さんの物だよ」

 男性は苦笑いしながら片付けを始めた。


「僕の方こそいい勉強をさせて頂きました」

 硬貨を半分ザルに返すと広場を後にした。


『主、楽しそうでしたね』


『そうか』


『この世界に来て初めてですよ、楽しそうにハーモニカを吹かれているのを見たのわ』


『確かに、こんなに晴れ晴れとした気分になったのは久し振りだよ』

 音楽の素晴らしさを再確認しながらカーソル邸に戻った。


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