後日談 愛だったと言いきれない星で
彼女が自殺した。
それだけ彼女を追い込んでいたのだ。僕はそんなことにも気が付かずに。
いや、気付いていた。会社の後輩に好意を寄せられていると気付いた時から。
だからどっちの気持ちにもいい格好をしてどちらも傷つけた。
1人で彼女が飛び降りた屋上に足を運ぶ。
2人で暮らしていた家よりも何故だか心を惹かれた。
「痛かったよなぁ。」
床に血塗れの跡が残る。それを手でなぞってみても、もう手に着くこともない。
彼女はもう帰ってこない。それが明確で。
「あの時一緒に落ちればよかったな。」
あの時、彼女が屋上から落ちた時。僕は手を放した。
怖かったのだ、死ぬってことが。彼女を1人で殺すということよりも。だけど、彼女がいなくなって後輩に何か言われても全くときめかなくなった。
「先輩。こんなところで何してるんですか。」
「えっ。」
声を掛けられたのに驚いて振り向く。そこには喪服に身を包んだ後輩がいた。
「な、なんでここが・・・。」
「先輩の考えることくらいわかりますよ。」
後輩が嬉しそうに微笑んで、右手に持っていた花束を投げてきた。
白い鬱金香の花束。
「黄色は【望みのない恋】。赤は【真実の愛】。それから白は・・・。」
屋上の端まで後輩が唄いながら歩いていく。それを追って行けばあの日の彼女に重なって見えた。
強風に煽られて足元がぐらつく。『彼女』が笑う。
『「馬鹿で不器用な君が好きでした。」』
とんっと押されて身体が宙に浮く。不思議な浮遊感の中で僕は花言葉を思い出していた。
「白い鬱金香は・・・【失われた愛】。」
気付いてしまった現実に、近づいてくるアスファルトに、僕は声を上げて笑う。
「あぁ、なんて最高なんだ!」
手を伸ばした先には何にも染まらない悪意が満ち溢れていた。