表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

第2章 幸せの崩れる音がした

リップの件から数日。

私たちは休日にもかかわらず別行動をしていた。

君は友人とショッピングモールに外出。私は家で資格試験の勉強。

・・・の、はずだった。

私は今、駅前ロータリーに居るし、君は水族館行きのバスを待っている。

横目で2台のスマホを操作する。1台は君から連絡が来る自分用。もう1台は君のスマホ操作を覗く用。

『勉強頑張ってね。』

シンプルなメッセージを送ったかと思うと、君はそのまま慣れた手つきで別のアカウントを開いた。見たくない。そう思いつつも私の感情は何も言えないままその操作を眺めていた。

『もうすぐバス乗るよ。デート楽しみだな。』

『楽しみにしてます♡』

ハートの絵文字が嫌でもそういう関係なのだと認めざるを得なくなっている。

確実な証拠が欲しい。君が私を愛していないという確実な証拠が。

同じバスに乗り込む。隠している女装をしてしまえばよっぽどの親友でもない限り見抜くことはできない。君も例外ではないようで私に気付くことなく、スマホ越しの彼女に夢中になっていた。



「わぁ、素敵。」

「ここは相模湾の大水槽と言ってニュースでも取り上げられるくらい有名なんだ。円形の水槽にはおよそ・・・。」

彼のYシャツに仕込ませた盗聴器を聞きながら録音も怠らない。後ろのカップルに隠れて2人の証拠である写真も欠かさず撮影する。ストーカーかもななんて思いながら、会話の続きを聞く。そのうち、水槽内でショーが始まり2人はキラキラした目でそれを眺めていた。

「今日は君に頼んでしまったけれど、本来なら・・・。」

「・・・ですよね。応援しています。」

ジジと嫌な音を立てて、盗聴器にノイズが走る。今何か大切な会話を聞き逃した気がするが、構わずに盗聴を続ける。2人は大水槽から移動してペンギンの水槽のほうへ向かいながら、手を繋いだ。頭に血が上る。ダメだ、ここでキレて出て行っても何にもならない。決定的な証拠を、もっと決定的な証拠を!


「彼女も好きなんだ、ペンギン。夫婦間についてたとえに出したりしてね。その時の楽しそうな顔、いつ見てもいい。」

「素敵な彼女さんですね。」

片手を口元に当て彼女が微笑む。その反対の手が握りこぶしを作っているのを見逃さない。シャッターに収めながら、後をつける。

なんだろう、この虚無感。分かってしまえば最後なのに分かりたくないその気持ちが先に出てしまう。

ペンギンを手で追いかけながら彼女が彼に微笑む。

その姿に自分を重ねてしまって。

幸せだったはずなのに。その場所は・・・。 

「ね、キスしませんか。」

「ん、あぁ。」

その場所は私の場所だったのに。

カメラを持つ手が震える。だけど、写真はきれいに二人のキスシーンを収めていた。



帰り道、彼女の家まで送った彼がなんの気無しにアパートの扉を開けた。あとから入りコンビニに行っていた体を装う。

「お買い物楽しかった?」

「あぁ、楽しかったよ。」

彼に手を伸ばせば優しく掴んでくれた。もう離さないでほしいのに私はその手を振りほどきたくなった。


もう、私達の間に普通の幸せは訪れない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] めちゃくちゃ続きが気になる展開ですね。恋愛ものがとても素敵で、こころがキュンとしました。 主人公の心情の変化とか、すごくわかりやすくて。心理描写がとても上手いんだなぁとおもいました。
2022/05/13 16:04 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ