表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/105

遠隔会話の鏡(仮)

「御見逸れ致しました」


 ランスロットは自身の浅はかさを恥じ、頭を下げた。

 だが、当のシャルロットは不満顔で


「思ってもいない事を言わないの」


 そっと毒を吐いた。


「しかし困りましたね」


 ランスロットは神妙な表情でポツリと呟いた。


「なにが?」


 その言葉に、シャルロットは素早く反応した。

 だが、その声色からは興味が一切感じられないが。


「いえ。姫君にバレてしまった以上、彼女に試練を与えられなくなりました」


 シャルロットの疑問の声に、ランスロットは隠す事無く心情を語る。

 だが、この言葉に対するシャルロットの反応は思っても見ない物であった。


「なんで?」


 まるで、勝手にやれと言わんばかりのシャルロットの言葉。

 これには、何時もにこやかなランスロットでも表情を崩した。


「姫君よ、今、何でと仰いましたか?」


「ええ、おっしゃったわよ」


 別段気にする事も無く、シャルロットは自身の言葉が聞き違いでは無いと告げた。


「では、彼の騎士に試練を与えても良い、と?」


「なんか、最近悩んでたみたいだし、良い気晴らしになるんじゃない?」


 ランスロットは、シャルロットの言葉に「ほほう」と感嘆の声を漏らす。


「姫君は、彼の騎士の悩みにお気付きでしたか」


 感心するランスロットに、シャルロットは半眼で視線を向ける。そして、呆れた様に口を開いた。


「何年一緒にいると思ってんの? そんなの顔を見れば、一目了然。バカじゃないの?」


 そう言われ、ランスロットは薄く笑みを浮かべた。

 当たり前な事を、当たり前と言える、あのひねくれ者の魔女達とは正反対である、と。

 こうだから、世界は面白い。だからこそ壊そうとする者をほおっては置けないのだ。

 たとえそれが、推測の域を超えない事柄であっても。


「では、計画通りに遂行しても宜しいので?」


 再度確認する様なランスロットの言葉に、シャルロットは不敵な笑みで答える。


「好きにしなさい。だけど……覚悟してやりなさい」





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 滞在二日目の正午、前日と同じ様に貴賓室にタナトスが顔を出した。


「姫殿下、昼食の用意が整いました。陛下もお待ちになっております」


 正しく、礼を持って語られるタナトスの言葉。

 しかし、受け取る側、シャルロットの表情は不満しか映していない。


「行く意味ってあるのかしら?」


 同時に疑問を投げかけた。

 言葉を聞き、タナトスは最早日課となった苦笑いを浮かべるが、慌てたのはクーデリカ。その理由、シャルロットの言葉は、他国の王に向けての言葉では無いからだ。

 事情を知る者と知らぬ者、両者の違いが一目了然と現れた。


「姫様、それはあまりにも失礼では……」


「はあ? ニタニタ笑いながら、悪だくみしているヤツとごはん食べて意味あるの?」


 シャルロットは、クーデリカの言葉を一刀両断に切り捨てた。


「まあ、それは同意しますが、陛下がいちゃいちゃ出来る相手は姫殿下しか居りませんので、ここは一つ自己犠牲の精神を発揮していただけないか、と」


 タナトスは礼儀正しく言葉を綴るが、その意味は人身御供としてビクトーリアのおもちゃになれ、である。

 そんな二人の会話を聞き、クーデリカは言葉を失った。昨日、一体何があったのか? と。

 しかし、この騒動も、シャルロットが折れる事で事無きを得る。


「しかたないわねぇ。行ってあげるわよ」


「慈悲に感謝致します」


 タナトスの、この言葉をきっかけにシャルロットは立ち上がる。

 行動予定は昨日と同じ。シャルロットは、法皇リリー・マルレーン(ビクトーリア)との会食。そして、クーデリカはガラハッドの下へと向かのだろう。

 貴賓室を出、両者は廊下の左右へと別れ、それぞれの場所へと歩を向けた。


 ………………

 …………

 ……


「それで? 今日は、どんな愉快なお話をしてくれるのかしら?」


 食事を終え、紅茶に口を付けながらシャルロットは問いかけた。

 それを受け、ビクトーリアは満面の笑顔で指を打ち鳴らす。

 パチンと言う音が合図となり、タナトスはテーブル上に一枚の板を置いた。

 いや、只の板では無い。四十センチ掛る三十センチ程度の光る板。鏡の様な物であった。

 しかし、鏡では無い。その鈍く光る盤面には、何も映る事は無かったのだ。


「なによコレ?」


 眉をひそめながら問いかけるシャルロットに、ビクトーリアは豊満な胸を張り自慢げに答える。


「何じゃと思う?」


 つもりはない様であった。


 ビクトーリアのこの行動に、シャルロットの眉がピクンと跳ねる。

 質問を質問で返された事が、気に入らない様だ。

 そんな勿体ぶった態度を取る輩に、シャルロットの取る行動は一つ。


「じゃあ、いいわ」


 話を聞いてあげない、である。

 これに慌てたのは、当のビクトーリア。まさか、シャルロットがこんな強硬策に出て来るとは思わなかったのだ。


「待て。ちょっと待て。ほんの茶目っ毛ではないかぁ」


 猫なで声でなだめに掛る煉獄の王。


「姫殿下。魔女様達は、基本ボッチでコミュニケーション能力は0です。ですので、あまり虐めるのは止めて差し上げてください」


 慌てるビクトーリアの態度を見、タナトスが助け船を出した。ただし、本当に助けになるかは別の話だが。

 だが、シャルロットに対しては効果覿面であった。どこか悲しそうな、どこか泣き出しそうな、同時にどこか吹き出しそうな、そんな表情をシャルロットは顔に覗かせ


「アンタ、可哀そうな()だったのね」


 こんな感想で締めくくる。


「ま、待て。待たぬか! 妾をそんな目で見るで無い」


 自身がおもちゃになっている事に気付き、慌てるビクトーリア。


「わかってるわよー」


 慌てる姿が面白く、からかい続けるシャルロット。

 そんなシャルロットに対して、ビクトーリアが取れる行動は?


「や、やめろー!」


 恥ずかしさのあまり、叫ぶのみ。実に打たれ弱い人物であった。

 この様な残念なビクトーリアの姿を堪能したシャルロットは、話を元に戻す事へと思考を切り替える。


「それで、ソレは何なのよ?」


 話を振られて、ビクトーリアはほっと息を吐いた。これ以上弄られる事は無くなった、と。

 その安心感の中、ビクトーリアは元の意地の悪い表情を復活させる。

 そうでなければ、話が始まらない。魔女とは、面倒な連中なのである。


「これはの、遠隔会話の鏡(仮)じゃ!」


「(仮)?」


「(仮)。…………いやいや、喰いつく所が違うじゃろ?」


 シャルロットの反応に、困った表情を浮かべるビクトーリア。

 だが、シャルロットの反応は淡白な物。


「どうでも良いわよ。それで、その(仮)はなんなのよ」


「遠隔会話の鏡(仮)!」


 呼び方などどうでも良いと言うシャルロットに対し、意地でも名前に拘るビクトーリア。

 この鍔迫り合いに対して、シャルロットが下した決断は?


「長い、回りくどい、めんどくさい」


 キッパリと拒否を示す事であった。


「うぬぬ。これは、わざわざ股ぐらに頼んで創った物じゃぞ。少しは敬ったらどうじゃ?」


「股ぐら? だれよ?」


 ビクトーリアの口から放たれた股ぐらと言う言葉。

 それに対して、シャルロットは呆れたように問い返した。

 どうせ碌でも無い事だろうと思いながら。


「股ぐら? アレじゃ。たま」


「たま? まさか……ターマレン様?」


「そうじゃ」


 一切悪びれた様子も無く、返事を返すビクトーリア。

 これには頭の痛くなる思いだった。

 ドMにアバズレに股ぐら、そしてビッチ。残りの二人のあだ名を想像するだけで嫌になる。

 それが、シャルロットの純粋な感想であった。


「で、ターマレン様に迷惑掛けて、バカビッチは何を創ったのかしら?」


 アホなあだ名にツッコミを入れたくなる気持ちをぐっと抑えて、シャルロットは無理やり軌道を修正する。

 ビクトーリアは、言葉の端々に存在する毒気に眉を跳ねさせるが、此処で喧嘩しても仕方が無い。そう、ビクトーリアは偉い魔女様なのだ。


「う、うむ。これはのう、遠く離れた場所を繋ぎ、会話出来ると言う優れものじゃ!」


 言葉と共に胸を張るビクトーリア。

 自慢げに豊かな双丸がふよんと揺れた。


「無限書庫の扉の様な物?」


「ちいと違うのう」


 自分なりの解釈をシャルロットは口にするが、ビクトーリアは首を横に振る。


「この遠隔会話の鏡(仮)は、空間を直接繋ぐ訳では無い。別の所にある、この遠隔会話の鏡(仮)が写し取った光景を、別の遠隔会話の鏡(仮)に映し出すのじゃ」


 シャルロットは、自分なりにビクトーリアの言う事を整理しようと思ったが、面倒なので止めた。どうせ目の前の馬鹿は、ぺらぺらと勝手に喋る事を知っているから。


「それで?」


 言葉短くシャルロットは続きを促す。

 これにビクトーリアは満面の笑顔で答える。どうやら、興味を持ってくれた、と思い込んだらしい。


「うむ。それでな、その光景に、誰かが映れば――」


「会話ができる、と」


 シャルロットの言葉に、ビクトーリアは大きく頷いた。

 その瞬間――バリン! と言う音と共に、遠隔会話の鏡(仮)はその生涯を終える。

 何が起きたのか混乱するビクトーリアの瞳には、ナイフを持ち、遠隔会話の鏡(仮)を一直線に貫いたシャルロットの姿が。


「そんな物があると、おちおち休暇も楽しめないでしょうが。破棄します」


 ドロリとした瞳で、シャルロットは遠隔会話の鏡(仮)を却下した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ