演目
「で、結局あんたらは、何がしたかったわけ?」
幾分落ち着きを取り戻したシャルロットが、ビクトーリアに問いかける。
この問いに、ビクトーリアは僅かに悩む素振りを見せたが、渋々と口を開く。
「世界が構築され、知性ある者達が増え始めた頃じゃ。ドMのヤツがの、情報収集は大事じゃと言いだしおってな――」
「ちょっと待ちなさい、ドMって誰よ?」
シャルロットに指摘され、ビクトーリアはキョトンとした表情を見せた。まさか、ドMが誰か伝わらないとは思わなかった様だ。
「ドMかや? ドMはあ奴じゃよ、えーっと、エイフィスのヤツじゃ」
ビクトーリアから、ドMの正体を聞かされたシャルロットは目を見開く。
「なに? あんた等は、エイフィス様の事、ドMなんて呼んでるの!?」
エイフィス・D・マーシャ。
六人の魔女の一人であり、世界の南を守護する者である。
「エイフィス様、じゃと?」
ビクトーリアは、シャルロットの言葉に首を傾げた。
産まれた時から、シャルロットと言う人物を見守って来ているが、シャルロットが魔女に敬意を払う姿など見た事が無かった。であるから、魔女に対し畏まった敬意など抱かぬ人物だと思っていたのである。
なのに、エイフィスに対しては様付け? これは可笑しな事態だとビクトーリアは決定付けた。
「のう、小娘」
「なに、クソバカビッチ」
何かが足された。
だが、今はそれを追及する場では無い。
「六人の魔女の名を言ってみよ」
「なんで?」
「良いから言え」
疑問を口にするシャルロットに対し、ビクトーリアは高圧的に出る。こうでもしないと、シャルロットは動かないと知っているから。
「えーっと、まずは東のローラ様」
ローラ・リキウス・コンラート。
世界の東を守護し、ヤマトに根を張った火の属性を持つ魔女。
「それから、北のターマレン様」
ターマレン・グラスティア。
北を守護し、土、造形魔法を得意とする魔女。
鍛冶師や建築などを生業とする者達から、崇拝されている魔女である。
「んで、ネリウス様」
ネリウス・トラリアル。
西の魔女。水魔法を得意とし、海を支配していると言われている。
「南はエイフィス様よね」
エイフィス・D・マーシャ。
風を自由に操ると言われ、南の砂漠を棲処とする魔女。
シャルロットが四人の魔女の名を口にした。
此処までは、全員様付けである。
残る魔女は二人。
ビクトーリアの喉がゴクリと鳴った。
「えーと、残りわぁ。クソバカビッチとアバズレね」
あっさり終了させるシャルロット。
クソバカビッチは、もちろん自身であるビクトーリア。
そして、アバズレ。死の国、地下の守護者、アーバレン・スラウ・ヴァーミリオン。
以前、幼かったシャルロットに、アーバレンをアバズレと呼ぶように言った事があった。
それは正しく続けられている訳だが…………何故に自分達二人だけが?
「の、のうシャルロットや」
「なに?」
顔を引きつらせながら問いかけるビクトーリアに、シャルロットは満面の笑顔で答える。
「何故に妾は、様付けで呼ばれんのじゃろうな?」
ビクトーリアは、どこか不安げな表情を見せる。
それとは対照的に、シャルロットは眉間に皺を寄せた。まるで、信じられない物を見る様に。
「アンタ、わかんないの!?」
「な、何がじゃ!」
シャルロットの言葉に、ビクトーリアは即座に食らいつく。
そのガッつきぶりにシャルロットはドン引きした。同時に、視線を正座するミカサに向けるシャルロット。
「バカ鳥」
「なんだ!」
正座しながら、元気よくミカサは返事を返す。
「このクソバカビッチの、尊敬する所を一つ言いなさい。一つだけでいいから、絞り出しなさい」
強権発動! シャルロットはミカサに命令する。
シャルロットの言葉を聞き、ミカサは二秒程考え込んだ。そして
「無い」
無慈悲な言葉を口にする。
だが、質問者はシャルロット。こんな簡単な答えでは、座布団は渡せない。
「絞り出しなさい」
再度の考察を要求した。
時間にして五分。たっぷりと時間を掛けたミカサの答えは?
「腹黒い事だ!」
コレだった
その言葉に、シャルロットは満足そうに頷くが
「ブフッ!」
タナトスは、思わず噴き出してしまった。
「!」
そのタナトスに、ビクトーリアの鋭い視線が突き刺さる。
しかし、この場には居るのである。恐怖の大魔王を、物ともしない剛の者が。
「ホントの事言われて、なに怒ってんのよ」
あっけらかんと言うシャルロットに、流石のビクトーリアも言葉を失った。
通常の者ならば、魔女は頂上の存在。単純に言えば、創世神。逆らう事は許されない、逆らおうとも思わない存在なのだ。
では、シャルロットにとってビクトーリアとは?
迷惑な役目を押し付けて来た良く会うお姉さん。
その程度の認識なのである。
まあ、ビクトーリア自身が、幼いシャルロットに構い過ぎた事が決定打となっているのだが。だからこそ、シャルロットはビクトーリアへの暴言を悪いなどとは毛ほども思っていないのだ。
「もう、険悪な空気を出さないでよね。迷惑だから」
そして、さらに追い討ちをかけるシャルロット。
こうまで言われて、まだ何か言おうとするならば、それは魔女の名折れ。シャルロットに、何を言われるのか解った物じゃない。仕方無くビクトーリアは、口を噤む他無かった。
「それで? 法皇陛下、アンタが黒幕と言う事は、なんか裏があるんでしょ」
椅子にどっかりと座り、シャルロットはビクトーリアに問いかける。
そんなシャルロットを横目に、ビクトーリアはニヤリと悪党の笑みを浮かべた。
「今回の演目、主宰は妾では無い。妾は舞台を用意したに過ぎん。当然、タナトスも同様じゃ」
言葉と共に、尊厳な態度で椅子に座り腕を組むビクトーリア。
「それじゃあ、この悪趣味な演劇の主役は誰なのよ?」
逸らす事無く、ひっかける事も無く、シャルロットは直球でビクトーリアと対峙する。
この問いかけに、ビクトーリアはさらに笑みを増し
「主役? 何を言っておるのじゃ? それとも知らぬふりか? 主役は、小娘の騎士であろうが」
馬鹿にするかの様に言葉を紡ぐ。
方やシャルロットはと言うと、ビクトーリアの言葉に内心ほくそ笑んだ。
やはり、今回自分が呼び寄せられた原因はクーデリカなのだと。何者かがビクトーリアに依頼し、法皇としてビクトーリアは舞台を用意する。その舞台のへと主役を搬送する馬車としての役割が自分なのだと。
ならば、その主催は一体誰なのか?
「ふうん。それで?」
「それで?」
シャルロットが発した疑問符に、ビクトーリアは首を傾げる
言葉は解るが、意味が掴めない。ビクトーリアにとって、シャルロットの言葉は正にそうであった。
だが、シャルロットにとって、そんな事はどうでも良い。今、一番重要な事は、会話の主導権を握る事なのだから。だからこそ、瞬時にシフトチェンジし、煙に巻く様な言葉を使う。
「バカビッチは何を言っているのかしら? 解らないふりなのかしら? 主催者の事よ」
先程のビクトーリアと良く似た台詞で、シャルロットは問いかける。
しかし、相手はビクトーリア。この程度でどうにかなる相手では無い。
「ふふん。うぬの滞在は五日間。よって残りは四日となろう。黙っていても出て来るであろうよ。その主催者、がな」
そう言ってビクトーリアは話題を終えるのだった。
余裕を見せるビクトーリアに対し、シャルロットは笑顔を見せる。だが、その反面……
(ふーん、主催者居るんだ。なら、御手並み拝見だねぇ)
シャルロットは一人納得するのであった。




