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集結! 姫様隊

「それでよぉ、姫様。こん中はどうなってるんだ?」


 タムラはそう言いながら、壁に張り付く扉を見つめる。興味があるのか、ヒムロも同様に扉を見つめていた。

 この問いに、どうやって答えれば良いのか悩む様にシャルロットの眉は八の字を描く。


「扉の中? うーん、説明が難しいのよね」


「どう言うことですか?」


 シャルロットがこぼした言葉に、ヒムロが反応を示す。


「この中は、精霊達の住処な訳だけど、別段何かがあると言う訳でも無いのよ」


 シャルロットのあやふやな言葉に、二人は首を傾げた。どうにも意味が解らない、と。

 それが理解出来るのか、シャルロットは言葉を続ける。


「この中はね、別の空間なのよ」

「「別の空間?」」


 シャルロットの放った言葉に、ヒムロとタムラはオウム返しで言葉を返す。


「そ。この世では無い空間」


「姫様。それは別の世界と言う事ですか?」


 先に提示された言葉に対し、ヒムロは頭に浮かんだ言葉を返す。

 しかし、シャルロットは首を横に振った。


「そうじゃないの。世界じゃなくて空間。でも、その空間へは、わたし達がいるこの場からは、どうやっても辿りつけない場所。王宮の学者さん達は、魔女の棲む場所と呼んでいるわ」


「「魔女の棲む場所」」


 再び二人は言葉を繰り返す。

 だが、シャルロットは手をパチンと合わせると、ズレていた話を機動修正する。


「ま、無限書庫の空間は置いておいて…………レックホランド法国への行き方、よね」


 シャルロットにそう言われて、二人はハタと思いだす。そう言えば、その為にここに来たのだと。


「それでこの扉なんだけど、この世界に三つ存在するの」


「三つ、ですか?」


 シャルロットの言葉に、ヒムロは考えながら言葉を返す。


「一つは、北のバーゲンミット公国の、さらに北にある望みの塔。そしてもう一つは……」

「法国に?」


 先程のお返しとばかりに、タムラが話を遮った。だが、シャルロットは嫌な顔一つせず


「正解!」


 笑顔でそう答えた。


「無限書庫の中では、時間も距離も関係ないの。この扉から入って、目の前の扉を開ければ…………はい法国。便利でしょ」


 自慢げに胸を張りながら、法国への道程を明らかにするシャルロット。

 その方法にタムラは感心するが、ヒムロは一つの違和感を覚えた。

 ヒムロの感じた違和感は、すぐに疑問へと変わり、法国訪問へ向け動くシャルロットの行動の矛盾点を見つけ出す。


「姫様」


 ヒムロの口から、普段とは違う硬質な声が放たれた。


「なに?」


 呑気な声で答えるシャルロット。


「姫様は、法国に行くから、俺に番をしろと言うのですよね」


「そうよ」


 今さら何を、と言った雰囲気で相対するシャルロット。


「ですが、この扉を使えば、毎夜戻ってくる事が出来るのでは無いですか?」


 ヒムロが言葉を放った瞬間、シャルロットの表情は凍り付く。

 そう、ヒムロの言う通りなのだ。無限書庫経由で行き来が出来るのならば、夜に帰って来て仕事をすれば良い。

 ヒムロの言う事は、そう言う事なのだ。


「鬼だ! 鬼がいる! うわーん!」


 ズバリ正解を突き付けられ、シャルロットは嘘泣きしつつ逃げ出した。


「逃がしたか」


 冷静に事を分析するヒムロ。

 その態度に、タムラは盛大に溜息を吐いた。


「なあ、レイジよぉ。姫様頑張ってんじゃん、少しくらい優しくしてやったらどうだ?」


 そう言うタムラに、ヒムロは優しい笑顔で答える。


「それはお前がやってあげてくれ。俺は厳しい方を受け持つからさ」


 飴と鞭。それぞれを、二人が受け持つと言う事なのであった。

 タムラはヒムロの真意に気付くと、盛大に頭を掻いた。そして


「損な性格をしてるなぁ、お前も姫様も」


 そう言って呆れ返るのであった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 シャルロットがヒムロに打ち負かされた日から三日、何事も無く仕事を続けるシャルロットの執務室のドアがノックされた。


「どうぞー」


 入室の許可の声を聞き、ドアが開かれイレーネが現れた。


「姫様、何故かクーデリカが来ましたが?」


 来客者を告げるメイドの態度としては、いささかどうかと思うのだが、イレーネはクーデリカのカーディナル来領を告げる。


「クーデリカが? なんで? まあ、いいわ、応接室に通して」


「畏まりました」


 シャルロットの指示を仰ぎ、イレーネは退室して行った。



 ………………

 …………

 ……



「しっかしさあ、アイツ、何しに来たのかしら?」


 仕事を終え、ヴァネッサを伴いながら応接室へと向かうシャルロットは、ポツリとそんな事を口にした。


「さあ、姫様恋しさに仕事を放棄するとも思えませんし、私には理由が思いつきません」


 シャルロットの言葉に、ヴァネッサは自身の考えを告げる。


「そうなのよねぇ。アイツ馬鹿だけど、そう言った所はしっかりしているし。……まあ、会えば解るでしょ」


 シャルロットはヴァネッサの言葉を受け、自分なりにそう結論づけた。同時に、目の前まで近付いて来たドアに手を掛ける。そして、扉を開け放つ。

 応接室の中、イレーネの淹れた紅茶を飲みながらその者は居た。聖騎士団の制服である、紺色の衣装を身に纏って。

 その者は、静かに、だが素早く立ち上がるとシャルロットに向け敬礼をする。


「レックホランド法国への随伴員として、バーングラス国王陛下から勅命を授かって参りました、クーデリカ・ビスケスであります」


 騎士として名乗りと理由を口にするクーデリカ。

 だが、シャルロットの表情は半眼を見せた。ボスンと行儀も礼儀も無い音と共に、シャルロットはその身体をソファーに沈ませる。

 物のついでと着席と共に手に取ったクッキーを一かじりして、シャルロットはクーデリカをその瞳に移す。


「それで、理由は解ったけど、なんでアンタな訳? アンタとカーディナルは、今ん所関係無いでしょうに」


 正論を口にするシャルロット。その言葉を、尤もだとヴァネッサ、そしてイレーネは頷きで肯定する。

 それに対してクーデリカは、慌てて先程の言葉を復唱した。


「で、ですから! バーングラス王に言われたんですよ!」


 恥も外聞も、敬称も敬いも忘れ、クーデリカは必死にシャルロットへ向け理由を語る。


「わたしとしては、随伴員にクロムを考えていたんだけど」


 だが、シャルロットの態度は変わらない。暖簾に腕押し、糠に釘。

 だが、あらぬ方向から、この人選に抗議の声が上がる。


「そんな! 姫様は私を連れて行ってはくださらないのですか!?」


 ヴァネッサであった。


「何を言うのですヴァネッサ! 姫様とお泊りするのは私です!」


 イレーネも負けずに声を上げた。

 それを皮切りに、ギャアギャアと姉妹喧嘩を始めるセンチュリオン姉妹。それにクーデリカも加わり、姫様馬鹿三人の口論はヒートアップして行く。


「うるさいわよ! だまりなさい!」


 この姦しい喧嘩に、シャルロットの怒りが爆発した。


「まずは、ヴァネッサ、イレーネ!」


「「はい」」


 シャルロットのお怒りに、頭を垂れるセンチュリオン姉妹。


こうなる(喧嘩になる)だろうと解っていたから、あなた達二人は、まっ先に人選から外れました!」


「「そんなぁ」」


 涙目で残念がるセンチュリオン姉妹。


「次! クーデリカ!」


「はい!」


「大体、何でお父様がわたしの法国行きに口出しするわけ? アンタ、何か言ったの?」


 問われたクーデリカは、数日前を思い出す。


「いえ。私は、バーングラス王に呼ばれ、勅命を賜っただけです」


「わたしへの随伴は、国王が言い出したのね?」


「はい」


 シャルロットは、クーデリカへの簡単な聞き取りを終え、この問題の裏を思い浮かべた。

 バーングラス王、つまりはクリスタニア王国にクーデリカを名指しするメリットは無い。有るとすれば、クーデリカの次の聖騎士団団長の成長、その成長を促す事ぐらいだ。だが、それは、クーデリカを休ませればすむ話。

 では、今回クーデリカを指名したのは誰なのか?


「まさか、法国が?」


「法国がどうかしたのですか?」


 耳ざとく、シャルロットの呟きを聞いたイレーネが問いかける。


「あのね、クーデリカをわたしの随伴員に選んだのって、法国じゃないかと思うのよ」


「リリー・マルレーン法皇陛下が、ですか?」


 シャルロットのトンデモ論法に、ヴァネッサが疑問を口にする。


「陛下、じゃないわね。たぶん」


「では姫様、一体誰が私を?」


 クーデリカの問いかけに、シャルロットはすこぶる嫌そうな表情で


「クソビッチしか居ないでしょうね」


 そう結論付けるのだった。



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