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「そんでさぁ、槐姉さん(えんじゅ)がすごかったわけよ」


 執務室で書類に目を通しながら、ソファーに座るヒムロとタムラにワイバーン(飛竜)討伐の経緯を語るシャルロット。


「まあ、(えんじゅ)のお嬢は、事魔法に関しちゃあ、頭二つは飛びぬけているからなぁ」


 シャルロットの話を聞いて、自慢げに(えんじゅ)を語るタムラ。


「まあ、(えんじゅ)のお嬢さんの事は解りましたけど、セイレーン(頭翼族)達はどうだったのですか?」


 方やヒムロは、広く情報を得ようと話を展開する。


「彼女達も凄かったわよ。特に集団魔法がね。セイレーン(頭翼族)と言う種族は、個としてよりも、集団での力に長けている様に感じたわ」


 これに対し、シャルロットは純粋な感想を告げる。


ヴォーリア・バニー(首狩り兎)とは、逆の存在ですか」


 シャルロットの感想を聞き、ヒムロは自身の考えを告げた。

 その言葉に、シャルロットは手を止め首を傾げる。


「どうなんだろう? 確かにテターニアの身体能力は凄いんだけど…………彼女らも集団で生きるんじゃないかしら」


「そうなのか? 俺の想像だと、何かバラバラにぶん殴っていそうだけどなぁ」


 シャルロットの持論に、タムラが自身の考えをぶつける。しかし、それすらも楽しむ様にシャルロットは笑顔のまま言葉を続ける。


「練度の問題よ。今のヴォーリア・バニー(首狩り兎)は傭兵みたいな物。バラバラなのよ。それを騎士団の様に統制のとれた集団に出来れば、話は変わるでしょ」


「なるほど」


 説明する様に綴られたシャルロットの言葉に、肯定の意を示すタムラ。しかし、ヒムロの表情は若干曇りを見せる。


「どうしたの?」


 そんなヒムロの表情を見たシャルロットが問いかける。眉をひそめるタムラの表情を見るに、心情はシャルロットと同じ様だ。


「いえ。姫様は簡単に言いますが、ヴォーリア・バニー(首狩り兎)達を誰が教育するのかと」


 ヒムロが呟いた事実に、シャルロットは言葉を失った。うっかり、しっかり、失念していたのだ。

 実際問題として、戦術や戦略ならば教える事が出来る人物に心当たりはある。自分の師匠であるクソ爺や、シャルロット自身がそれに当たるだろう。

 だが、事集団戦闘、それも練度を求めるとなると、心当たりはまるでなかった。

 いや、そうでは無い。厳密に言えば、心当たりはある。有るにはあるのだが、その為には王国聖騎士団から重要人物を引っ張って来なければならないのだ。それは現実的では無い、シャルロットはそう考える。だからこそ、心当たりが無いのであった。


「ま、この事は保留よねぇ」


 自分の不備を誤魔化す様に、シャルロットはおどけた様な言葉でこの話を締めくくった。

 そして、今回の会合はここからが本番である。


「じつはさぁ、ヒムロにちょこっとお願いがあるのよ」


 猫なで声で言葉を綴るシャルロットに、ヒムロは眉をひそめる。何故ならば、シャルロットの醸し出す雰囲気にヒムロは覚えがあったからだ。

 その覚えとは? そう、元の親分であるサカモトである。

 かの人物が、この様な猫なで声を出しながら相談して来る時は、決まって碌な事が無かった。だからこそ、ヒムロの表情は歪みを見せる。


「もう、そんな顔しないの! 変な頼みじゃないから」


 ヒムロの表情を見、シャルロットは弁解するかのように笑顔を見せた。

 だが、そんな事を言われて素直に信じる程ヒムロの人生経験は浅くは無い。しかし、ここでシャルロットの機嫌を損ねても、何も良い事が無い事も承知していた。だからこそ、表面上は笑顔を浮かべてヒムロは対応するのだ。

 それが、シャルロットに対しては最強の悪手と言う事を知らずに。


「あのね、いきなりなんだけど、わたし暫く領地を留守にするから、ヒムロ、後よろしくね」


「は?」


 シャルロットの言葉は、本当にいきなりであった。当然、ヒムロの返答は間抜けな物となる。


「姫様、留守にするってよぉ、ワイバーン(飛竜)討伐から帰って来たばかりじゃねぇかよ」


 流石に忙しすぎる遠征に、タムラが心配げに言葉を掛けた。

 その言葉を聞き、シャルロットは僅かに笑みを浮かべると二人に理由を説明する。


「わたし達って言うか、大陸の王族とか貴族はね、幼少期と成人年齢の二度、レックホランド法国に行って、法皇陛下に会わなきゃならないのよ」


「会ってどうすんだよ?」


 シャルロットの説明に、タムラは疑問を口にした。

 確かにその通りである。

 タムラの言葉に、シャルロットは僅かに口を噤みこう答えた。


「お話するだけよ」


「はぁ? そんだけの事で、わざわざ法国まで行くのかよ。貴族って暇なのか?」


「んー? 暇なのは、貴族じゃなくて、法皇陛下なんじゃない?」


「まあ、そうだな。貴族のガキ共呼び寄せて、おしゃべりしてるくらいだからな」


「でしょぅ」


 勝手な話題で盛り上がる二人。

 だが、この場には冷静な人物がいるのだ。その者がついに声を上げる。


「ちょっと、姫様もリュウトも、何勝手に盛り上がっているんですか! ヴィルヘイム領の時でも、二ヶ月近くかかっているんですよ。それが法国へだなんて、一体どれくらいの期間留守にするのですか!?」


 正論をまくし立てるヒムロに対し、シャルロット涼しい顔でこう答えた。


「五日だけど」


 さらりと提示された、レックホランド法国への訪問に掛る日数。さすがのヒムロも、この答えには言葉に詰まった。

 それはそうだろう、王国の最南端ヴィルヘイム領よりも南に位置する、レックホランド法国への訪問に掛る日数がたったの五日。馬鹿げている話である。

 だが、シャルロットの表情には、からかうなどの意思は見て取れない。

 これが本当だとするならば、一体シャルロットはどんな方法でレックホランド法国まで行こうというのだろうか? ヒムロもだが、タムラも理解出来ずにいた。

 二人の表情を見、シャルロットは眉を八の字に寄せながら口を開く。


「わたし、無限書庫の話って二人にしたっけ?」


 突然シャルロットの口から出た、無限書庫と言う言葉。それに対し、二人は首を傾げる。一切聞いた事が無い、と。

 二人の行動に、シャルロットは頭を掻いた。失念していた、と。


「二人はさぁ、わたしが多くの魔道書(グリモア)を所持しているのって知ってるよね」


 シャルロットの問いかけに、二人は同時に頷いた。話だけなら、と。


「その魔道書(グリモア)なんだけどね、どこにあるかは解る?」


 シャルロットの口から出た二つ目の質問には、首を横に振った。

 二人の行動に納得がいったのか、シャルロットは席を立ちドアへと歩を向ける。同時に、その視線で二人を誘った。

 何があるのか? 何が起こるのか? それは解らないが、二人はシャルロットの後を追う様に席を立つ。

 ヒムロとタムラ。二人が連れて行かれたのは、領主邸の地下室であった。ワインや野菜などが置かれた、一般的な地下室。その中で、一つ異彩を放つ豪華な扉があった。


「なあ、姫様よぉ――」

「わたしはね、生まれつき精霊に懐かれやすい性質みたいなのよ」


 何か問いかけようとしたタムラの言葉を遮り、シャルロットは口を開く。

 話を止められた事で、タムラは一瞬虚を突かれるが、冷静にシャルロットの言葉に耳を傾けた。


「わたしの乳母、ヴァネッサやイレーネの母上様、アレクサンドラ母様の話によると、産まれて一月もしないのに、もう百体位の精霊がわたしの周りを飛び回ってたらしいわ」


 昔話を思い出すかの様に、シャルロットは自身の幼き頃を語る。


「もうね、物心つく頃には、わたしの周り精霊だらけだったのよ」


 続けてシャルロットは笑いながらおどけて見せた。

 その行動に、ヒムロとタムラはゴクリと喉を鳴らす。“精霊だらけ”そう言うと簡単だが、恐らくは万を超える精霊に囲まれていたのでは? 二人はそう理解した。


「それでね、流石にそれでは生活に支障が出るだろうからって、法国のリリー・マルレーン陛下が送って下さったのが、この扉。無限書庫への入口ってわけよ」


 そう説明し、シャルロットは扉を軽く叩いた。



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