表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/105

祝勝晩餐会

 ワイバーン(飛竜)討伐から一日が過ぎ、現在センチュリオン侯爵邸では、お祝の晩餐が開かれていた。

 奇麗に整備された芝の上に、十を超えるテーブルが並び、その上には豪華では無いが湯気を立てる数々の料理が居並ぶ。

 この晩餐に参加している者達は、騎士団やシャルロット一行。そして、実際にワイバーン(飛竜)によって被害を受けた領民達。領民達は、最初こそ戸惑いを見せていたが、センチュリオン侯爵の気さくな性格に触れ、徐々に晩餐を楽しむ様になって行っていた。

 その晩餐会場の一角に、領民とは違う少し奇妙な一団がいた。領民達(ヒューマン)と異なる特徴を持った者達が。

 そう、(えんじゅ)セイレーン(頭翼族)達である。その中に、シャルロットも居た。


「ヴァネッサさん達は、どうしたのかしらぁ?」


 ワイングラスを片手に、(えんじゅ)がシャルロットに問いかける。


「うん? ヴァネッサとイレーネなら、アレクサンドラ母様とお話してるわよ」


「アレクサンドラ母様?」


 突然、シャルロットの口から語られた、アレクサンドラ母様と言う人名。

 聞きなれない人名に、(えんじゅ)は首を傾げる。そんな(えんじゅ)の様子を見て、シャルロットは再び口を開く。


「ここの領主の、センチュリオン侯爵の奥さんよ。言ってなかったっけ? ここセンチュリオン家は、ヴァネッサとイレーネの実家なのよ」


 シャルロットの言葉を聞き、(えんじゅ)は驚きを顕にする。それはそうだろう。まさか、ただのメイドと思っていた人物達が、侯爵家の御令嬢だなんて、誰も思いはしないのだから。

 そんな中、シャルロット達に近づいて来る影があった。


「やあ、シャルロット。御苦労さまだったね、本当に感謝するよ」


 にこやかな、人の良さそうな笑顔と共に。


「フレデリック兄様?」


 そう、次期センチュリオン侯爵であるフレデリック・ド・センチュリオンであった。


「うん? 何を驚いているんだい。妹の可愛い顔を見たいと思うのは兄として当然の欲求だと思うんだが?」


 真面目な表情で、シスコン丸出しの発言をするフレデリック。これには、流石のシャルロットであっても、呆れながら八の字眉を形作るのであった。


「それで、フレデリック兄様は、何用なのですか? そんな馬鹿なお話をする為に来られたのでは無いのでしょ」


 シャルロットの辛辣な言葉に、フレデリックは苦笑いを浮かべる。そして、どこかほっとした様な雰囲気も感じさせていた。

 廃嫡されようが、領主となろうが、シャルロットはシャルロットなのだと。可愛い、妹のままなのだと。


「そう言わないでくれよ。実は、シャルロットに相談があるんだよ」


「相談? 御結婚の話でも?」


「まあ、そうでもあるね」


 シャルロットの冗談を、肯定するフレデリック。

 このフレデリックの発言に、シャルロットは困惑を顕にした。眉間に皺を寄せ、半眼でフレデリックを見つめるシャルロット。

 この表情を見て、フレデリックは思わず噴き出してしまった。トテトテと自分の後を付いて来ていた少女は、何も変わらず此処にいるのだ、と。


「シャルロット。姉さん達と結婚する意思はあるかい?」


 フレデリックの言う姉さん。つまりは、ヴァネッサとイレーネ。その二人と結婚する意思はあるか? フレデリックはそう聞いているのだ。


 一応、クリスタニア王国の法では、二人まで妻を持つ事が許されてはいる。だが、実際問題としてそうしている人物はいない。

 理由は簡単。二人妻を持つと言う事は、二つの領地、または国家を跨いで二つの家と付き合う事になる。そうなった場合、バランスを取るのが非常に困難だからである。そんな面倒な事、進んで行おうとする者など、余程の酔狂な者だけであろう。


 しかし、ヴァネッサとイレーネならば別である。

 ヴァネッサはセンチュリオン家の長女。そして、養子ではあるが、イレーネは次女である。

 この二人と結婚しても、付き合う家は、センチュリオン家のみなのだ。


「兄様、話が見えてこないのですが?」


 半眼のまま、首を傾げるシャルロット。この姿勢、この言葉に、フレデリックは我が意を得たりと提案を口にする。


「シャルロット。君は僕の夢を覚えているかい?」


「領地を豊かにする事ですか?」


 昔聞かされた話を、すっかり 、スッキリ忘れているシャルロット。

 そんなシャルロットに対し、フレデリックは苦笑いを浮かべながら対応する。


「僕の夢はね、画家になる事なんだよ」


「そうですか。しかし兄様、話が見えて来ませんが?」


 フレデリックの言葉に、再び首を傾げるシャルロット。


「君が、姉さん達と結婚すれば、僕は夢を追えるんだよ」


 話を掴めずに困惑するシャルロットを余所に、フレデリックは話の本題を語る。こうまで言われては、流石に話が見えて来た。


「わたしにセンチュリオン領を継げ、と?」


 そう、フレデリックの狙いは、シャルロットにこの領地を継がせる事であったのだ。そして、自分は自由気ままに画家として暮らす。それが全てであった。

 何と言う腹黒さ。流石は、シャルロットの人格構成を成したセンチュリオン家の後継ぎだけはあった。


「良いと思わないかい? カーディナルとセンチュリオン、姉さん達の子供、両方に領地を残してあげられる。君が後を継ぐと言えば、父上も母上も喜ぶと思うんだが?」


 素敵な提案だろ、とでも言いたいのか、フレデリックは笑顔と共にウインクして見せた。さて、シャルロットの返事は如何に?


「兄様」


「なんだい、妹よ」


「御断りします!」


 当然、御断りなのである。


「どうしてなんだい、シャルロット」


 フレデリックは踏鞴を踏み、信じられない物を見る様な表情を見せた。そして、同時に理由の説明を求める。

 そんな兄の様な存在を前に、シャルロットは盛大に溜息を吐いた。

 さて、何と言ったら目の前の兄の様な存在は納得するのか? そう考えながら口を開こうとした瞬間、新たな人物がシャルロットに声を掛けて来た。


「やっと見つけたわ。シャーリィ、今回は本当にありがとうね。あなたと、あなたの仲間のおかげで、センチュリオン領は救われたわ。本当にありがとう」


 ヴァネッサと同様の蒼い髪。ヴァネッサと同様の豊満な色香溢れる身体。三十代後半とは思えない、若々しい姿。

 センチュリオン侯爵の妻、アレクサンドラ・デュ・センチュリオンが言葉と共に深く腰を折っていた。


「ア、アレクサンドラ母様! どうか頭を上げて下さい!」


 頭を下げるアレクサンドラの姿を見、シャルロットは慌てて謝辞不要との言葉を投げかけた。

 このアレクサンドラ・デュ・センチュリオン、シャルロットの乳母にして、王妃エリザベス・デュ・クリスタニアの妹である。つまり、クリスタニア王家と、センチュリオン侯爵家は、女系での縁戚関係にあるのだ。

 ちなみに、アルバース・ド・センチュリオン侯爵は、英雄戦争で亡くなったイレーネの父親の兄でもある。


「でも、感謝は伝えないといけないわ。それで、フレデリックはシャーリィと何のお話をしていたの?」


 何所か呑気な言葉と共に、フレデリックとの会話の内容を尋ねるアレクサンドラ。

 第三者の介入を待っていたかの様に、フレデリックは今までの会話を母であるアレクサンドラに説明した。


「あらぁ。それはいけないわ。フレデリック、センチュリオン家の長男として、領主はあなたが継ぐべきよ。そうでなければ、侯爵と言う爵位に、同時に領民に対する裏切りになるわ」


 アレクサンドラは、ぴしゃりとフレデリックを窘めた。流石は侯爵夫人。

 アレクサンドラの言葉に、シャルロットは感心し大きく頷いた。だが、アレクサンドラの言葉はこれで終わりでは無かった。


「領地を移譲するのは、ヴァネッサかイレーネの子が成人した後でいいでしょ? もう、あなたは急ぎ過ぎなのです。もう少し腰を据えて行動を起こしなさい」


 アレクサンドラの言葉に、シャルロット、そしてアレクサンドラの後ろで話を聞いていたヴァネッサ、イレーネは、同時に盛大な溜息を吐くのだった。

 流石は王妃エリザベスの血統、呑気さでは王国一なのである。そんな事を思い知らされた晩餐会であった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





~大陸某所~


「レジーナ様。テストとして放ったワイバーン(飛竜)が、全滅致しました」


 ボンテージスーツの様な衣装を纏った銀髪の女性レジーナを前に、魔術師を体現した様な姿が特徴な老人フォルネクスは膝を付き報告を入れた。


「そうか。センチュリオン領の騎士隊は優秀だな。いや、王国聖騎士隊か?」


 報告を受け、レジーナはワイバーン(飛竜)を倒したであろう人物達を褒め称える。だが、フォルネクスから帰って来た返事は、レジーナの顔色を変えるに十分な言葉であった。


「いえ。ワイバーン(飛竜)を討伐した者達は、セイレーン(頭翼族)月狐族(ルナリア)との事で御座います」


「何?」


 ほぼ表情に変化が無いレジーナのまぶたが、ピクリと動いた。

 フォルネクスには、その僅かな変化に気付いた。レジーナの動揺を。


「何故にニンゲンモドキが戦場に立つ? 何者かが率いていたのか?」


 フォルネクスの言葉に、レジーナは二つの疑問を提示する。

 その疑問に対し、フォルネクスの答えは一つ


「解りません」


「解らない、だと?」


 もう一度、レジーナのまぶたが動く。


「はい。オットー・アイズ(単眼の使い魔)を使って見ていました限り、ニンゲンモドキを指揮出来ると思える者は居りませんでした」


「解らんな」


 レジーナの呟きに、フォルネクスは詳細な説明を行う。


「すると何か? セイレーン(頭翼族)は突如飛来し、月狐族(ルナリア)は忽然と現れた、と?」


「左様で御座います」


 苛立ちと共に放たれたレジーナの言葉に、フォルネクスは嘘偽り無く答えた。

 レジーナは言葉を受け取りまぶたを閉じる。暫しの熟考の後、その金色の瞳を外気にさらした。


ワイバーン(飛竜)の性能報告が欲しい。書面にて提出してくれ」


「畏まりました」


 レジーナの言葉に、フォルネクスは即座に返事を返す。

 だが、レジーナの命は此処からが本番であった。


「そのニンゲンモドキら、詳細を探る事は可能か?」


「申し訳ありません、レジーナ様。オットー・アイズ(単眼の使い魔)月狐族(ルナリア)によって焼き尽くされました」


「そうか、残念だ。次の計画では、おもちゃの性能だけで無く、敵の背後を探れ。最重要事項だ、解っているなフォルネクス」


 新たな命令に、フォルネクスは深く頭を垂れると


「畏まりました、教主レジーナ」


 今一度、主人の名を呼んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ