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凶鳥の住まう山

「ようこそ御出で下さいました」


 夕日が山へと沈みゆく頃、シャルロット一行はカルバ村へと到着した。

 古びた一軒家、この村唯一の宿屋の前で、町長とおぼしき老人が執事長のハロルドへと腰を折っていた。


「こちらが、この地を併呑(へいどん)し、新たに領主となられたシャルロット・デュ・カーディナル子爵卿で御座います」


 ハロルドは一歩引き、シャルロットを引き上げる様に町長へと紹介した。


「おお、これはこれは、何も無い村ではありますが、出来る限りのおもてなしを――」


“いたします”と続くはずだった町長の言葉は、シャルロットの放った一言で中断を余儀なくされた。


「ああ、そう言うのはいいから。わたしは、わたしの仕事で来ただけだから、あなた達に負担を掛けるつもりはないわ」


 シャルロットの言葉に、町長は驚きを顕にする。

 シャルロットは領主であり、そして貴族である。持成されるのが当たり前の立場であり、ロックフェル老も伯爵時代は多少なりとも威厳を持って領民と接していた。それなのに、新たな領主は持成さなくても良い、と言う。

 困惑する町長に、ハロルドは助け船をだす。此の方は、こう言う御方だ、と。

 前領主に使える執事長にそう言われ、町長は“はあ”と返事を返す他無かった。

 その後シャルロット一行は、簡単な晩餐を済ませ、翌日の為に早めの就寝としたのだった。



………………

…………

……



 早朝、やっと陽が上がった頃合い、宿の前で動く者達がいた。そう、シャルロット一行である。

 何時ものドレスやメイド服とは違い、シャルロット、ヴァネッサ、イレーネの三名は、動きやすいパンツルックであった。


「さて、案内してもらうわよ」


 そう言ってシャルロットは、シーリィに向け笑いかけた。

 のだが、それも最初の一時間。現在のシャルロット一行は、いや、シャルロット、ヴァネッサ、イレーネの元祖カーディナル組は、黙々と山を登る装置と化していた。

 半日程山を登っただろうか? 僅かに開けた場所へと辿り着いた。そこには、二十人程の髪形をツインテールにした女性がいた。

 いや、そうでは無い。セイレーン(頭翼族)達が居たのだ。

 そのセイレーン(頭翼族)達を視界に収め、シャルロットは無言で歩きだす。そして、一体の白いセイレーン(頭翼族)へ向け


「服を着ろー!」


 その顎へと正面蹴りをぶちかした。

 いわゆるケンカキックと言われる物だ。

 そして、彼女達セイレーン(頭翼族)は皆、全裸であった。


「ふぎゃ!」


 シャルロットのケンカキックは、正確に白いセイレーン(頭翼族)の顎を捉える。その衝撃で、白いセイレーン(頭翼族)は、盛大に後ろへと倒れこんだ。


「な、何をするのだ!」


 倒れたのも一瞬の事、白いセイレーン(頭翼族)は起き上がり抗議の声を上げた。

それに釣られる様に、他のセイレーン達も同様に抗議の声を上げる。


「何をするのだ!」

「失礼な人間(ヒューマン)だ!」

「やっちまいましょうぜ!」


 それぞれが、それぞれの言葉でシャルロットを攻め立てる。

 だが、そこはシャルロット。挑まれた戦いは、受ける主義なのである。


「うるさいわねー! 裸族なのがいけないんでしょうが! 服くらい着なさいよ! 羞恥心もないの!」


「何だと! そんなぺらぺらな布を纏わねば、身も守れぬ弱者が何を言うか!」


 シャルロットの言葉に、即座に反応する白いセイレーン(頭翼族)

 そして


「あっそう! そんなに裸族が良いなら、お望み通りにしてあげるわよ!」


 ついにシャルロットの、短い堪忍袋の緒が切れた。

 シャルロットは一瞬で身を屈め、左足を軸に回転する。そう、水面蹴りだ。

 白いセイレーン(頭翼族)は、即座に反応する事が出来ず尻もちを付く結果となった。

 それからのシャルロットの行動は早かった。白いセイレーン(頭翼族)の右足を掴むと、左腕、左足、右腕とくるぶしの所で重ね、コロンとひっくり返したのだ。

 まるで、土下座をしている様な姿勢で転がる白いセイレーン(頭翼族)

 必死にもがくが、白いセイレーン(頭翼族)の身体はピクリとも動かせない。


「面妖な! キ、キサマ、何をした!」


 自身に何が起こったか解らず、僅かに顔を横に向け、白いセイレーン(頭翼族)はシャルロットに噛みつく。

 だが、どんな言葉を使おうと、動けなければ負け惜しみでしか無い。

 そして相手はシャルロット。少しでも弱みを見せれば付け上る人物なのだ。


「はぁ? なにをした? しーらないわよぉ。あんたが勝手に動けなくなっただけでしょ? ほーれほれ、みんなにお尻を見てもらいましょうねぇ」


 小馬鹿にするように、嘲笑う様に、シャルロットは言葉を浴びせる。それはそれは嬉しそうに。

 シャルロットの繰り出したサブミッション(関節技)、それはパラダイスロックと言う。手足を交互に重ね、身体をひっくり返すと、自身の体重で動けなくなってしまうと言う、なんとも恥ずかしい代物である。

 土下座する様な姿勢で、地面に丸まっている姿。衣類を着ていても屈辱的なのに、それが全裸。それも、魔物とはいえうら若き女性が。

 この屈辱に耐えられる者など居はしないだろう。


「キサマ、卑怯だぞ!」


 白いセイレーン(頭翼族)のあられも無い姿を見て、他のセイレーン(頭翼族)達が騒ぎ出した。

 しかし、何度も言うが、相手はシャルロットなのだ。悠然とした態度でその光景を、ニンマリとした笑みを浮かべながら見つめていた。


「イレーネー。裸族に羞恥心と言う物を教えないといけないと思わない? 公序良俗に反すると思うんだけど」


 顔に邪悪な半月を張り付けたまま、シャルロットはイレーネに意見を求める。


「ええ、全くその通りだと思いますわ、姫様。鳥に常識と言う物を教えてあげましょう」


 S気質なイレーネは、シャルロットの提案にすぐさま賛同した。その顔に、愉悦の表情を浮かべながら。

 御互いに視線を合わせ、一気にセイレーン(頭翼族)達の下へと駆け出す


「せやっ!」

「ほい、ほい、ほい!」


 イレーネは即座にセイレーン(頭翼族)達の足を刈り、転がされたセイレーン(頭翼族)をシャルロットが畳んで行った。その一連の流れは、まるでダンスでも踊っている様だった、と後にクロムウェルは語る。

 時間にして約二十分、セイレーン(頭翼族)達の奮闘も虚しく、場に居た二十体のセイレーン(頭翼族)達は、全員パラダイスロックで固められたのだった。可愛いお尻を突き出す様な姿勢で。


「壮観ねぇ」


「はい。可愛い桃畑ですね、姫様」


 セイレーン(頭翼族)達の惨状を前に、シャルロットはニヤリと、イレーネはうふふと笑顔を作る。

 その光景を見、ヴァネッサは複雑な表情を表すが、テターニア、クロムウェルはドン引きであった。

 シャルロットが意地悪だ、とは思っていたが、此処まで底意地が悪いとは。口には出さなかったが、そう言う事である。

 同時に、後に控えていたシーリィは、どうにも出来ない中おろおろする他無いのであった。


 すがすがしい罵声が響く中、上空から衣ずれの様な音が近付いて来るのを感じた。

 一行の視線は、同時に上空へと向けられる。

 晴れ渡った青空に点在する影、その正体はこの場を離れていたセイレーン(頭翼族)達。恐らくは、狩りにでも行っていたのであろう、何か手に持っている個体が何体か見てとれた。

 そして、その中の一体、雀の様な、茶と白が混ざった羽色をしたセイレーン(頭翼族)が一歩前に出る。


「何だ、この惨状は! キサマら、我が同胞に、また子様に何をした!」


 雀色のセイレーン(頭翼族)は、力の籠った瞳で、シャルロット達を睨みつけた。

 緊張感が極限まで張りつめた状況。だが、シャルロットには、どうしても確認しなければならない事象が湧きあがっていた。

 静かに、だが確実にシャルロットはある一点に向けて歩を進める。そして、その場所まで辿り着くと、ゆっくりと腰を降ろす。


「ねぇ、ねぇ、アンタまた子って言うの?」


 とても悲しそうな表情を浮かべ、シャルロットは白いセイレーン(頭翼族)に問いかける。

 正確には、白桃の様なお尻に。それも、ペチペチと尻たぶを叩きながら。


「そ、そうだ! 我が部族の族長のみが名乗れる、神聖な名だ! あの煉獄の王ビクトーリア様に名付けて頂いた勿体無き名ぞ!」


 シャルロットは頭の痛くなる思いに襲われた。

 どうやらこのセイレーン(頭翼族)達、前の世界でビクトーリアに使えた個体に連なる者達の様である。

 シャルロットは静かに、そして優しく白いセイレーン(頭翼族)を横に倒した。それだけで、たったそれだけで白いセイレーン(頭翼族)はパラダイスロックから解放される。

 そしてシャルロットは、白いセイレーン(頭翼族)の身体を優しく、慈愛を持って抱きしめた。


「アナタ、苦労したのね。もう大丈夫、本当の名前を名乗っても大丈夫よ。あのクソビッチには、わたしがしっかり言っておくから。ね」


 そう労いの言葉をかけるのであった。



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