ケルミナス王国の未来
新辺境伯の名前を、ロンドミナからイザベラへと変更致しました
その日、ケルミナス王国は一つの転換期を迎えた。
女王アナスタシアの執務室のドアが叩かれ、騎士隊の一人が、客の到着を告げる。
「陛下。イザベラ・ハイレスク卿が御越しで御座います」
「入れ」
イザベラ・ハイレスク。
ケルミナス王国、王都近郊の土地を管理する豪族である。
余談ではあるが、ケルミナス王国において爵位持ちは一人しか存在しない。
王と、辺境伯。王に代わり土地を管理する豪族。そして、民間から上がって来た大臣達。これらが一体となって、ケルミナス王国と言う土地を管理運営しているのだ。
そして、豪族が収まる土地には、歴史に名を残した者達の名が付けられ、そこを管理する者達の性として名のられている。つまりこの人物は、ハイレスクと言う土地の管理を任された、イザベラと言う人物と言う事だ。
「失礼します」
一礼してイザベラは、執務室へと足を踏み入れた。
鮮やかなマリンブルーの髪。意志の強さがうかがえる、切れ長の瞳。そして、僅かに紅を引いた色気ある唇。
ケルミナス王国第二王女、イザベラの姿がそこにあった。
「忙しい所、悪いわね」
労わりの言葉を綴り、女王アナスタシアは丁寧にイザベラを迎い入れた。
「用件は解っているとは思うけど、ハイドミナの事は伝わっているわね?」
「ええ、バカな兄上。王家の女性は慈母をもって法と国民を守り、男性は北に陣を取り、力で持って国を守る。王と言う言葉欲しさに、国を乗っ取ろうとするなんて。祖霊に言い訳が出来ない程の悪行よ」
イザベラの言葉を、女王アナスタシアはじっと静かに聞いていた。
そして決断を下す。
「イザベラ・ハイレスク。本日、今この場にて、辺境伯の地位を授けます。今後は、イザベラ・ベレンを名乗りなさい」
「お、お待ちください。北は男性が継ぐもの。私が継げば、伝統が壊れます。何卒、一考を」
そう言ってイザベラは頭を下げた。
しかし、女王アナスタシアの考えは変わらない。
「現状、北は混乱の中にあります。ベレン領の立て直し。クーデターに加わった豪族の処罰、そして選考。それを任せられる人材は、あなた以外居ないと判断しました」
言葉を聞き、イザベラは頭の中で今のベレン領の状態を思い起こす。
王国第二王子に任せては? と進言しようと思いもしたが、すんでの所で思い留まった。
第二王子ヘーゼル。彼は非常に優秀な人物である。だが、一つだけ欠点があった。
それは、第二王子の性格である。彼のその優しさ故。辺境伯の称号を得て、まず最初に行わなければならない仕事が、クーデターに加わった豪族達の断罪。恐らく、いや、絶対にヘーゼルは出来ないであろうとイザベラは決定づける。
きっと、姉である女王アナスタシアも、そう思い至っての人選であろう。
ならば、自分はどうするべきか?
「承知いたしました。辺境伯の称号、確かに拝命いたします」
「そう、良かったわ」
女王アナスタシアは、どこかほっとした様に笑みを浮かべた。
「本当は別の人にお願いしようと思っていたのだけれど、断られてしまってねぇ」
女王アナスタシアの口から、愚痴の様な言葉が漏れた。
その言葉を聞き、イザベラは思う。姉の選んだ人物とは、一体どのような人物であっただろうか、と。
「姉上。失礼を承知でお聞きしますが、その人物とは一体――」
“誰で御座いますか?”そう続くはずだった言葉は、女王アナスタシアの口にした人名と共に、溜息へと変わる。
「シャルロット姫殿下よ」
「な!」
「ついでに私のお婿さんになって貰おうと思っていたけど、振られたわ」
イザベラは、目の前で悪ぶりもせずにいる姉を、ジト目で見つめる。
(一体幾つ歳が離れていると御思いですか!)
同時に心の内でツッコミを入れるのであった。
ケルミナス王家の人間は歳を取らない。
これは大陸共通の認識である。
実際、歳は取っている。だが、ケルミナス王家の祖はアマゾネスに連なる者であり、その為表面上の老いが遅い、と言う傾向がある。ケルミナス王国が、女王制を取っているのも、その名残なのだ。
「イザベラ。急がせて悪いんだけど、今日中に出立して貰えるかしら。あなただけでも先にベレン領に入って欲しいのよ」
「了解致しました」
「それと、冬前にクリスタニア王国に出向いてくれる? 改めてお礼が言いたいわ」
「解りました。急ぎ手配いたします」
こうしてケルミナス王国で起きた内乱事変は、事が起きる前に鎮圧された。
新たに辺境伯に任命されたイザベラ、癖者の巣窟カーディナルとの交易で頭を抱える日々を送る事になるのだが、それはまだ先の話である。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
~??????~
「御伝えしたい議が御座います、レジーナ様」
ローブを纏い、身の丈ほどもあるスタッフを持った老人、フォルネクスは膝を付き、目の前の玉座に座る女に話しかけた。
女、レジーナは、不機嫌さを隠そうともせず、顎をしゃくる事でフォルネクスに続きを促す。
「我が教団が推していたケルミナス王国のベレン領なのですが……」
「失敗したか」
フォルネクスの言葉を、レジーナは奪う。同時にフォルネクスを見つめる瞳は、どこまでも冷えた物であった。まるで、失敗する事が前提であった様に。
「ご存知でしたか?」
そんなレジーナの態度に、フォルネクスは眉一つ動かさずに、淡々と問いかけた。
「いや。あれは、お飾りの幹部候補であったからな。私としては、失敗は良き報告だと言える」
「左様で御座いますか」
フォルネクスは、レジーナを肯定する様な言葉を綴る。
「しかし、ケルミナス王国は惜しい事でありますな」
「フォルネクス、お前は私の言葉を聞いていたのか? 失敗は良き報告と言ったはずだが?」
玉座の肘かけを使い、頬杖を付いた態勢でレジーナは口を開いた。非常に不機嫌そうに。
「御心を御聞かせ頂いても?」
フォルネクスは、レジーナを試す様に言葉を投げかける。それが何時もの事なのか? レジーナは今以上には機嫌を損ねる事は無かった。
「ケルミナスは地の利に甘味が無い。狙うならばレックホランド法国か、クリスタニア王国、だな」
「理由を御聞きしても?」
フォルネクスは再度問いかけた。
「街道を掌握するのが理由の一つ。二つ目は、彼の二国は異端である為よ」
「そうで御座いますな。レックホランド法国は魔女を信奉し、クリスタニア王国は、亜人共に善政を敷いておりますゆえ」
レジーナの言葉に、フォルネクスは同意を示した。
「玩具の方の進捗はどうなっている?」
「レギオン・モンスター、で御座いますな。現在ワイバーンとの融合を急いでおります。進捗は80パーセント程かと」
「そうか。……試験として、何匹か放て、力が見たい」
「畏まりました。刈り場はどこに致しましょう?」
「そうだな……」
返事を返すレジーナの表情は、愉悦に塗れた物であった。




