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騎士の称号

「して、詳しい話を聞かせて貰おうか?」


 法国の件が一旦落ち着くと、バーングラス王はレギオン・ワームの事へと話題を移す。


「成程な」


 レギオン・ワームの事。ウンディーネ(水精霊)の事。そして、ワームが二十年前の生き残りであったことがシャルロットの口から語られた。

 それに対しての、バーングラス王の反応が上記の言葉である。


「理解した。後ほど、文官を向かわせる。文字に残す事に協力してやってくれ」


「畏まりました」


 シャルロットの言葉によって、レギオン・ワームの話題は閉じられる。


「それではシャルロット。後の二人を紹介してはくれぬのか?」


 バーングラス王は、テターニアとクロムウェルをその鋭い視線に捉えながら、嫌味混じりに問いかけた。

 シャルロットは、バーングラス王の視線を辿る様に、後を振り返る。そして思う。そう言えばそうだったな、と。

 シャルロットは、ヴァネッサとイレーネに視線で指示を送る。

 それを素早く理解した二人のメイドは、一歩引いてテターニアとクロムウェルを、シャルロットの横へと押し出した。

 シャルロットは、まず左手を上げる。


「彼女はテターニア。ヴォーリア・バニー(首狩り兎)よ。カーディナルで、情報の収集を担当して貰っているわ」


「ほう。情報収拾を」


「ええ。行商人などから、周りの動きを探って貰っているわ。時々は、今回の様に現場で戦って貰う事もあると思うけど」


 シャルロットの言葉に、テターニアは僅かに腰を折る。


「テターニアだ。姫様の守護する地に住まう、ヴォーリア・バニー(首狩り兎)の族長を務めている」


 そして、少々ぶっきら棒に自身の事を口にした。


「シャルロットの守護する土地か…………ふふっ。言い得て妙、だな」


 テターニアの言い回しを、バーングラス王は楽しげに反芻する。このバーングラス王の態度に、テターニアは僅かに首を傾げるが、別段事を荒げる様な事は無かった。


 続いてシャルロットは右手を上げた。しかし、続く言葉は、バーングラス王に遮られた。


「その(妖精)が、件の(妖精)か?」


 シャルロットは、一瞬何の事か理解出来なかったが、すぐに反応を見せた。


「ええ、その人物で御座います」


「……そうか」


 バーングラス王は、シャルロットの言葉を受け取る。そして、視界にクロムウェルを納めた。

 暫しバーングラス王はクロムウェルを見つめていが、悲しげにその口を開く。


(妖精)、名は?」


「ク、クロムウェル」


 バーングラス王に名を問われ、クロムウェルは躓きながらも自身の名を口にした。


「そうか。クロムウェル、大変であったな。そなたの心中察する事は出来ても、余の慰めの言葉程度では、到底癒せぬ事であろう。許せ」


 バーングラス王は、クロムウェルの境遇に遠回しではあるが謝罪の言葉を贈る。

 この言葉には、場の全員が驚きを見せた。

 そして、一つの事柄に気付き、視線をシャルロットへと向ける。


「今回の事柄は、世界的な事象であって、クリスタニア王国として賠償は出来ん。集落の再建などの援助は可能だが、今の状況を見るに意味は無かろう」


 そう言ってバーングラス王は、一旦言葉を切る。


「それで、だ。シャルロット、お前に頼みがある」


「何で御座いましょうか?」


 バーングラス王の問いかけに、シャルロットは返事を返す。表情は、若干引き攣っては居たが。


「その(妖精)。クロムウェルの奴隷契約を解いてやってはくれまいか? 国としては何も出来ぬが、王としては何かしてやりたいのだ」


 バーングラス王のこの発言に、王族ファミリーは皆頷き同意を示す。だが、方やシャルロット達はポカンとした間抜けな表情を浮かべた。

 その表情に対し、バーングラス王は若干の戸惑いを覚えた。何か間違った事を言ったのか? と。

 そんな微妙な空気が流れる中、クロムウェルの口が怖々と開かれた。


「こ、国王様。申し出ありがたい事なのですが、私はすでにシャルロット様の手で解放されています」


「な、なにぃ!」


 クロムウェルの言葉に、バーングラス王は驚きの声を上げた。それと共に、鋭い目付きでシャルロットを見つめる。

 だが、それも一瞬の事。すぐに何時もの温和な瞳へと帰り付いた。


「そ、そうか。お前は、奴隷の、クロムウェルの所持を放棄した、と言う事だな」


 バーングラス王は己の中で、そう結論付ける。他の王族も、同じ様な結論に至ったのだろう。浮かべる表情が、そう物語っていた。

 だがその表情に、何か気まずい物を感じたのかヴァネッサは静かに事のあらましを口にする。


「陛下。そして、皆様。大変申し難いのですが――」


 ヴァネッサの言葉を聞き、バーングラス王は頭を抱えた。それはバーングラス王だけでは無く、他の王族も同様である。

 只一人、王妃エリザベスを除いて。


「シャルロット。何時から企んでおった?」


 バーングラス王の低い声が響いた。だが、声から感じ取れる感情は、怒りでは無く呆れ。

 しかし、シャルロットは表情を何一つ変えず


「たまたまよ、たまたま」


 そういって掌をひらひらと振って見せるに留まった。


「そうか、解放されておるのならばそれで良い。では、クロムウェルはお前のガード、と言う事で良いのだな?」


 バーングラス王は現状を確認する。未だクーデリカが動けない以上、その代わりとしてクロムウェルを側に置く、そう認識して良いのだな、と。

 だが、ここでもまたバーングラス王は呆れかえる事になる。それも盛大に。


「何か勘違いなさっている様ですけども……クロムとは何の契約もしていませんよ」


 しれっとシャルロットはこんな事を言ってのけた。

 だが、シャルロットのこの言葉によって、新たなる謎も顔を出す。


「ふむ。お前が言う事が真実であるならば、何故彼女(妖精)がバリサルダを持っておるのだ?」


 そう、その謎とは、クロムウェルが抱いているバリサルダである。

 シャルロットの誕生の祝いとして、黄金の魔女ビクトーリアが送った魔剣。その存在価値は、国宝をも超える。

 その魔剣が、シャルロットの言葉の意味を取れば、何の関係も無い(妖精)が所持している。バーングラス王には、理解出来ない事柄であった。

 しかし、当のシャルロットは再びあっけらかんと理由を口にする。


「なぜ? あげたから」


 バーングラス王は、またしても頭を抱える事になった。

 最早、自身の娘の考えが理解出来なかった。

 強欲にして無欲。純真にして邪悪。可憐にして苛烈。女にして男。シャルロットを体現する言葉である。

 二面性。鏡の様な存在。

 改めてバーングラス王は、自身の娘の存在を認識するのだった。無論、溜息と共に。


(妖精)よ。今後の身の振り方は、どう考えておる?」


 バーングラス王は、クロムウェルに問いかけた。

 この問いに、クロムウェルは一瞬の迷いも無くこう答えた。


「シャルロット様の傍で仕えたいと思います」


「そうか。どうだ、シャルロット?」


 バーングラス王は、シャルロットに返答を求める。

 問われたシャルロットは、クロムウェルへと視線を向けた。


「いいの?」


 シャルロットはクロムウェルに確認する。本当にそれで良いのか? と。

 クロムウェルはシャルロットの問いかけに、力強く頷いた。

 バーングラス王は、クロムウェルのこの行動によって契約の締結と見た。そして


「では、クロムウェルよ。クリスタニア国王として、そなたに騎士(ナイト)の称号を授ける。以降、サー・クロムウェルを名乗る事を許す。シャルロット・デュ・カーディナル子爵を主とし仕える様に」


 シャルロットの隣に立つ為の称号を授けたのであった。


 こうして、クリスタニア王国の辺境で起きた巨大ワーム事件は終わりを告げる。

 この日より七日後、シャルロット一行は新たな仲間を加え、懐かしのカーディナルへと旅立つのであった。










 だが、その前にシャルロットにはやらねばならぬ事が一つあった。そう、クレメンスへの丸投げの件である。

 クリスタニア城の貴賓室。そのソファーに座るクレメンスの姿。その表情は硬く、どこか緊張の色を映していた。


「それで、決心はついたのかしら?」


 クレメンスの対面に座るシャルロットから、確認の言葉が飛ぶ。


「ええ。あなたの企てに乗る事にしたわ」


 クレメンスの口からは、肯定の言葉が綴られる。

 シャルロットは、静かにその表情に笑みを創る。

 だが、クレメンスは二つ問題があるとシャルロットへと告げた。


「なによ。言ってみなさいよ」


 しかしシャルロットは、その言葉を軽くいなしてみせる。どんな問題でも解決してやるとでも言う様に。


「一つ目は人員よ。王都から連れて行ける人員は、全商会員の十分の一。これでは業務が成り立たないわ」


 クレメンスの言は最もだと、シャルロットは頷く。

 しかし、そんな事は些細な事。何も心配する必要など無いのだ。


「今も、元コーネリア商会の人間が働いているわ。その人達を雇用してあげればいいでしょ」


「人員が残っているの?」


 クレメンスは不思議そうに問いかける。

 潰された商会など、機能してはいないと思っていたのだ。しかし、良く良く考えてみれば、それはありえない事なのであった。そうでなければ、行商に頼っている農村などに住む人達が干上がってしまうのだ。

 そんな無能な行動を、シャルロットが行うはずが無いのである。そして、コーネリア商会本店がある元ロックフェル領の領主ロックフェル伯爵は、シャルロットの先生なのであった。この二人が絡んでいる事案で、そんな些細なミスなど絶対に無いのである。

 クレメンスの抱く不安の一つは解消された。

 しかし本当の不安は二つ目の方なのである。


「恥ずかしい話なんだけどね――」


 クレメンスは前置きを挟んで不安を告げる。

 恥ずかしいのはアンタの存在だ。シャルロットはそう言いかけるが、意志の力を最大限発揮して何とか言葉をのみ込んだ。


「今までの販路は、王国の東側から帝国の西側が主だったのよ」


 クレメンスは、内心を吐露する。

 つまりクレメンスは、カーディナル、アイオン、ヴァスカビル辺りの事をあまり知らないと告げたのだ。であるから、何が主だった商品であるのか? どの季節に、どの商品を多く回せばいいのかが解らないのだと。

 これは尤もな事であった。北では暖を取る為に、冬前には大量の薪が売り買いされる。

 しかし、薪は鍛冶なのでも使われる燃料でもある。したがって、北では冬に薪の値段が上がるのだ。

 そう言った、その地方では当たり前の事柄が解らないのだとクレメンスは言いたいのであった。

 それを理解したシャルロットは、顎に指を当て考えを巡らせる。そして、答えに行きついた。とてつもなく邪悪に満ちた答えに。


「ねえ、クレメンス。あなた今、五百万スイール出せる?」


 この言葉に、クレメンスは眉をひそめながらも答えを口にする。


「え、ええ、出せるわよ」


「ならば、ある犯罪奴隷を買いなさい。それで一気に問題は解決するわよ」


 犯罪奴隷で問題が解決? 一体シャルロットは自分に誰を買わせようとしているのだろうか?

 思い悩むクレメンスに対し、シャルロットは答えを開示する。


「身受けする犯罪奴隷の名前はねぇ、エンデマン・コーネリア。元コーネリア商会の商会長をしていた人物よ」


 クレメンスは絶句した。


「いやー、アイツの扱いに少し困っていたのよねぇ。下手に外の誰かに買われて、クソ爺の悪事がばれてもねぇ」


 シャルロットは笑いながら言う。


 現在、元ロックフェル伯爵は、自身の悪事の証拠を揉み消すのに必死で動いている。いや、シャルロットに言われ、必死に動かされているのだ。その為に、エンデマンは流刑所に拘束され続けている。


「ちょ、ちょっと、そんな事出来るの? その人は私に従うの?」


 クレメンスは二つの疑問を投げかける。

 一つ目の疑問は、簡単にクリアー出来る事柄である。

 エンデマンは、カーディナルで捕らえられた犯罪者である。その身柄を誰に売るかは、領主であるシャルロットに決定権があるのだ。

 そしてクレメンスは、国が認めた奴隷商である。

 何の問題も発生しない。ごく普通の取引なのである。


 そして、二つ目の疑問。

 こちらは少々厄介である。

 エンデマンがクレメンスに従うか? これにはかなり疑問が残る。

 では、どの様に問題を解決すれば良いのか? 実際には簡単な事であった。

 相手にメリットを持たせれば良いのだ。

 五年間、自分の為に嘘偽り無く働け。そして、次の五年で五百万スイールを自分に返却せよ。そうすれば、エンデマンの奴隷契約を解除し、支店の一つと行商路を供与する、と。

 荒唐無稽な話であった。

 だが、結果から言えば、エンデマン・コーネリアはこの条件を飲んだのだ。

 犯罪奴隷は、永久的に支配される。それが、たった十年で解放される。これだけでも破格の条件である。

 そればかりか十年後には、再び自分の店が持てるのだ。

 それも、自分の頑張り次第で豊かになった大商会の一部として。ひょっとすれば、地方商会長と言う立場も手に入れる事が出来るかもしれないのだ。

 シャルロットが放った悪魔の囁きは、一人の犯罪奴隷に薔薇色の日々を夢見させるには十分であった。

 こうしてクレメンスは王国の西側へと手を伸ばす事になった。

 クレメンス・コーデ。そして、彼女の率いるコルデマン商会の輝かしい歴史は、今始ったのである。



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