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 シャルロットの言葉で、ヴィルヘイム公爵の溜飲はやや収まった様に見えた。


「さて叔父様、挨拶も終わりましたし、本題へと話題を変えましょうか?」


 シャルロットの言葉を受けて、ヴィルヘイム公爵は場を変える事を提案する。

 シャルロットはそれを承諾し、一つの提案を願い出た。その事柄は了承され、アンナマリーによってメイドへと告げられる。

 場所を円卓の間に移し、今はシャルロットの提案で呼んだ者が到着するのを待っている状況だ。暫くの時間を置き、円卓の間のドアがノックされた。


「入れ」


 ドアのノックに、ヴィルヘイム公爵の声が飛ぶ。扉を開き姿を現したのは、ローブを纏った三人の男であった。


「座れ。カーディナル卿が、お前達の話を聞きたいそうだ」


「俺達の、ですか?」


 三人の男の中で、一番高級そうなローブを纏った男が代表する様に口を開く。


「そうだ、先日のモンスターとの遭遇の話を聞きたいそうだ」


 そう言われては断ることが出来るはずも無い。男達は黙って椅子に腰を降ろす。


「あなた達三人が、国境付近まで偵察に出た魔道師ね」


「は、はい」


 シャルロットの言葉に、魔道師三人は不思議そうな表情を浮かべた。


「この方が、カーディナル卿だ」


 魔道師達は、まさか目の前の少女がカーディナル男爵だとは思わなかったらしい。ヴィルヘイム公爵に真実を告げられ、慌てて背筋を正す。


「私た……いや、我々が、その魔道師であります」


 魔道師達は立ち上がり、啓礼を伴ってシャルロットの質問に返す。


「まあ、良いから座って。お話を聞きたいと言ったのはわたしなんだから」


 そう言ってシャルロットは、再度の着席を促した。魔道師達が椅子に座った事を確認し、シャルロットは本題を切り出す。


「あなた達が、行使出来る魔道の属性を教えてもらえるかしら?」


「はっ! 自分は火であります!」


「私は水属性の魔道が使えます」


「俺……私は風属性です」


「ふむふむ。一通りの属性を使える者達を送り出したんですね」


 シャルロットはヴィルヘイム公爵へと視線を向け、再度確認を行った。


「無論だ。騎士側も、槍、剣、弓と全て試させた」


「結果はいかがでしたか?」


「知っての通りだ」


 ヴィルヘイム公爵は暗にこう言っているのだ、全く効果が無かった、と。


「武器に魔法は?」


「低位の魔法は掛かっていたが、全て弾き返されたそうだ」


 シャルロットの疑問に答えながら、ヴィルヘイム公爵は疲れた様な表情を見せた。

 その言葉を頷きで受け取るシャルロット。

 ここまで聞けば、後は核心を聞き出すのみだ。


「それでね、一番効果が無かった魔道ってなに?」


「「一番効果が無かった魔道?」」


 場の全員が頭の上に?マークを描く。そんな事を聞いて、一体何の役に立つのだろうか? と。

 それを解っているのだろう、シャルロットは創った様な笑顔を浮かべるのみだった。張り付く笑顔。その意味は、とっとと話せ、である。

 何時までも黙っていても仕方がない。ヴィルヘイム公爵は視線で魔道師達に命を下す。良いから話せ、と。それを理解した魔道師達は、ポツリポツリとシャルロットの問いかけに答え始めた。


「確か……一番効果が無かった魔道は……自分の火属性の魔道でありました」


「ふむふむ」


 魔道師の言葉に、シャルロットは相槌で答える。


「水はどうだった?」


 シャルロットは次の質問を投げかけた。


「水は……何の効果もありませんでした」


「じゃあ、風は?」


「ワームの粘液を、僅かに剥がした程度です」


 三人の言葉を聞き、シャルロットは瞳を閉じ思考の海へと潜る。

 一体どんな答えを導き出そうと言うのだろうか?

 十五分ほどの時間を費やし、シャルロットは瞳を開ける。そして、ある仮説を口にする。


「これはわたしのカンなんだけど……」


 シャルロットは、まず前置きを口にしてから本番へと移行する。


「ワームの粘液って、ウンディーネ(水精霊)を宿しているんじゃ無いかしら?」


「おいおい、ワームがウンディーネ(水精霊)の力を行使出来るなんて、聞いた事が無いぞ」


 シャルロットの言葉に、ヴィルヘイム公爵は疑問を投げかける。

 シャルロットだって当然聞いた事など無い。だが、推測は出来る。

 火は弱体化し、水は無効、風は僅かに効果あり。

 ワームは通常皮膚で呼吸している生物だ。そこに、水を被せれば、何らかの反応があってしかるべきなのだ。

 一般的に、農家などが小型のワームを駆除する方法は、焼き殺すか、水没なのだから。

 人とモンスターの融合体であるレギオン・モンスターならば、ウンディーネの力を行使させる事も可能ではないか? シャルロットはそう推測するのである。


「しかし、本当にそんな事が……」


 しかし、依然ヴィルヘイム公爵は首を縦には振らない。

 これにはれっきとした理由が存在する。

 まだ年若いシャルロットと違い、ヴィルヘイム公爵は先の英雄戦争をその目で見、参戦しているのだ。その戦いの中で、ヴィルヘイム公爵が出会ったレギオン・モンスター達は、一体として他の能力を行使してこなかったからだ。だが、シャルロットの言う事も尤もな事に思える。

 融合に使われるモンスターの能力は種族毎に固定されている。

 ならば、人間側はどうだろう? 只の農民と融合したレギオン・モンスターと、高位の魔道師と融合したレギオン・モンスター。

 その能力は同率なのだろうか?

 そう考えると、シャルロットの言う事も頷ける。


「一度、試してみる他無いか……」


 ヴィルヘイム公爵はそう呟く。


「それに、水が絡むのなら、ワームの討伐もそう大変な事じゃないかもしれないし」


「「!」」


 シャルロットの言葉に、場の全員の視線が集中した。


「姫様。それは本当なのでしょうか?」


 今まで背後で沈黙を守ってきたイレーネが口を開く。その声色は疑う物では無く、心配する様な響きを持つ物であった。

 だが、シャルロットはどこか呆れる様にイレーネに返事を返す。


「もう、忘れたの? クソビッチ……いや、ビクトーリア様の恩恵の事」


「「あっ」」


 シャルロットの言葉に、イレーネどころかヴァネッサまで驚きの声を漏らす。


「ビクトーリア様の力、か。細かい事は知らんが、光の属性の頂点たる御方だな」


 シャルロットの言葉を補足する様にヴィルヘイム公爵は呟いた


「そうですね。そのクソビッチ……ビクトーリア様の力の一端、光の上位魔法に雷を使役する魔法があるのよ」


「雷だと? 確かに雷の力は凄まじい物だが、それと水が何の関係がある?」


 シャルロットの説明に、場の皆々が首を傾げた。話の本流が解らないと。

 だからこそシャルロットは説明を続ける。


「なんでもね、雷は水を伝うそうなのよ。力を失わずに」


「では、雷の魔法を使えば、ワームを一撃で倒せるのか?」


 ヴィルヘイム公爵は、期待を込めた瞳でシャルロットを注視する。だが、シャルロットの返答は淡白な物であった。


「それは無理だとお答えするほかありません。常時わたしが引き出せる力は、ビクトオーリア様全体の二パーセントほどでしか御座いませんから」


「そうか、残念だ」


 ヴィルヘイム公爵は、隠す事無く自分の心情を口にした。他の皆を見ても、同様の表情を浮かべている。

 しかしシャルロットは、沈みこんだ室内の空気を一転させる様な言葉を紡ぐ。


「大丈夫。切り札は他にあるから」


「本当か? シャルロット」


「はい。真で御座います、ヴィルヘイム公爵閣下」


 そう言ってシャルロットは、ニヤリと悪党の様な笑みを見せた。


「しかしシャルロット、自分の事だとは言え良く調べた物だ。先代のビクトーリア様の加護を授かりし者は、遠く五百年以上前の人物だと言うのに」


 ヴィルヘイム公爵のこの言葉に、シャルロットはキョトンした表情を浮かべる。そして、自身の知識の源流を提示した。


「いえ、この知識は教えていただいた物で御座います」


「何? そんな博識な者が、この国に居ったのか?」


 シャルロットの発言に、ヴィルヘイム公爵は驚きを顕にする。

 五百年、六百年前の情報を有する者など、王宮で生活していた時でさえ聞いた事が無かったからだ。

 博識、と呼ばれる歴史家でも、良くてニ百年。三百年前の事を細かく識っている者が現れたならば、その者は賢者と呼ばれるだろう。


「わたしに知識を与えて下さったのは、法皇陛下。レックホランド法国のリリー・マルレーン陛下で御座います。

五年程前にレックホランド法国を訪れた際、陛下から直々にお教えいただきました。魔法の事を。身体の事を。どうして(ヒューマン)であるわたしが、魔法を扱えるのかを」



 レックホランド法国。

 クリスタニア王国の南に位置する六人の魔女を祭る宗教国家である。そして、この地、ヴィルヘイム領と国境を接する国でもある。

 そのレックホランド法国で一番奇跡を体現する事象は法皇である。なにせ、法皇となった者は、誰一人の漏れも無く百年以上生きると言うのだ。病に倒れる事無く、老いる事無く。



 その法皇、現法皇であるリリー・マルレーンが知識の元だと言われ、ヴィルヘイム公爵は納得するほか無かった。

 彼の人物なら、識っていて当然かもしれない、と。

 この話を持って、場は解散となる。二日程屋敷に留まり、その後ヴィルヘイム領の騎士達と共に国境付近へと出発の予定となった。



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