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レジーナ

 タムラのぼやきに、話が逸れた事を意識させられたシャルロットは、両の手をパチンと合わせ


「うん。話がそれたわね」


 そう言って軌道修正に取りかかった。


「あのビホルダーが欠陥品と言う話だったわよね」


「ええ」


 シャルロットの言葉に、ヒムロは肯定の返事を返した。これを受け、シャルロットは事の状況を開示する。


「さっきも言ったけど、タムラの攻撃によってビホルダーの体色が変化したのよ」


「ええ、それは解りました」


「でね、体色が変わったと言う事は、ビホルダーは魔法障壁を纏っていなかった」


「それは先ほども聞きましたが……」


 相槌を返すヒムロの正面に、シャルロットは掌をかざし慌てるなと暗に示す。


「でも、アイツは視線による魔法の無効化は使用出来た」


「はい」


「だけど、たった一つだけ」


「「?」」


 シャルロットの言葉に、ヒムロとタムラは首を傾げた。それを察知したシャルロットは、言葉に補足を入れる。


「ビホルダーってね、本来はもっとウニョウニョしてる物なのよ」


「ウニョウニョ、ですか?」


「そ。あの球体から、何本もの触手が出ているのよ」


 シャルロットの言葉にヒムロとタムラは口を閉ざす。今は聞くべき時なのだ。


「でもアイツからは、その触手が出てはいなかった。それどころか、自然派生である魔法障壁も張っていない。アレが使えたのは魔法無効の視線だけ」


「つまりは……」


 結論へと導く様なヒムロの呟きに、シャルロットは大きく頷き


「欠陥品よ。ん? 試作品って言った方がいいかもね」


 呆れたようにそう結論づけた。レギオン・ビホルダーの事は解った。

 だが、もう一つだけ解決しなければいけない問題がある。


「しかしよぉ、姫様。何でアイツはピンポイントで姫様の所に現れたんだ?」


 そう、これである。

 シャルロットは眉間に指を当て、暫く考え込む。そして


「たまたまじゃない?」


 呑気にこんな言葉で切って捨てた。


「たまたま、ですか」


 少し呆れながらアーデルハイドは、言葉を返す他の面々の表情を見る。皆同じ気持ちの様だ。

 シャルロットは溜息を吐きながら、一同の顔をぐるりと見渡した後口を開く。


「あのね、アーデルハイドは知っているでしょうけど、レギオン・モンスターはそのモンスター以上の能力は付与出来ないの。だからね、ビホルダーに無い能力は、レギオン・ビホルダーも持ってはいないの。アーデルハイド、ビホルダーに探知や探査の能力なんてあったっけ?」


 いきなり問われたアーデルハイドだが、慌てる事無く返事を返す。


「ありませんね」


「でしょぉ」


 そう言ってシャルロットは、ドヤ顔で胸を張った。

 レギオン・モンスターの事は以上であるこれ以上未確認な情報をこね繰り返しても仕方が無い。

 だが、打てる布石は打って置くべきである。


「テターニア」


 シャルロットは、まるで冗談でも言うかの様にヴォーリア・バニー(首狩り兎)の族長に声を掛ける。


「ん?」


 その呼びかけに、テターニアは視線を向ける事で返事とした。


「あんた達の仕事の事なんだけどね」


「はい」


「重要度が十倍位上がったわ」


 最初の言葉の時とは違い、真剣な表情でそう告げる。


「どう言う事です?」


 説明を求めるテターニアを余所に、シャルロットは視線をアーデルハイドへと向けた。


「アキリーズを呼んで来てくれるかしら」


「了解しました」


 執事長のアキリーズを呼べと言われ、アーデルハイドは一礼してから退出して行った。

 テターニアは未だにシャルロットに視線を送るが、シャルロットの口は貝の様に閉ざされたまま。

 約五分ほどの間を持って、応接室のドアがノックされる。


「入りなさい」


 シャルロットの入室の声と共に、ドアが開かれる。そして、アーデルハイドと執事長のアキリーズがそろって入室して来た。

 アキリーズは、アーデルハイド同様に皆に一礼すると、自身を呼んだ理由をシャルロットへと問いかける。


「姫様。私を御呼びとの事ですが、何用で御座いましょうか?」


「その事なんだけどね、取り合えず座ったら?」


 シャルロットはアキリーズに着席を進め、ソファーに腰を降ろした事を確認すると再び口を開いた。


「テターニア。あなた達には、お金を稼ぐ以上の事をしてもらう事になるわ」


「金を稼ぐ以上の事だと? いや、ですか?」


「ええ」


 テターニアの、やや粗野な言葉遣いなど気にする事も無く、シャルロットは話を確信へと導いて行く。


「通常の業務は、まあ、タムラが言った様にしてくれれば良いわ」


「ふむ」


「それでね、あなた達の本当の仕事は……情報収集よ」


「情報収集だと……ですか?」


 テターニアの言葉に、シャルロットはゆっくりと一度頷いた。


「これは、さっきの事とも繋がるんだけど、勇者教団なんてメンドクサイ連中がまた動き出したのなら、その足跡を追いたいのよ」


「ふむ。それで私達が酒を飲ませて聞き出す訳ですか」


「そう言う事」


 返事を返しながら、シャルロットは視線をアキリーズへと向ける。


「それで、どんな小さな事でも、そこに居るアキリーズに上げてちょうだい。彼が情報を取捨選択するから」


「了解した」


 テターニアの返事を確認し、シャルロットは両の手をパチンと合わせる。


「じゃあ、あなた達ヴォーリア・バニー(首狩り兎)達は、私の直轄部隊第三班と言う事で。隊長はテターニア。アキリーズは相談役。良いかしら?」


「問題無い」


「承知致しました」


 一応の話はまとまり、細かい詰めはまた後日と言う事で、この日は解散となった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





~大陸某所~

 何所かとも解らない場所。

 唯一解るのは石壁で囲まれ、僅かな光すらも拒絶した所と言う程度。それを補う様に、松明が辺りを照らす。

 石で創られた長い回廊が続き、壁際には鎧を纏った戦士の像が等間隔に並んでいた。

 その長い回廊を、灰色のローブを頭からすっぽりと被った人影が奥へと向けて歩を進めていた。

 どれほどの距離を歩いただろうか? 人影は、自身の三倍以上もある堅牢な扉に辿り着く。

 人影は扉へと手をかざすと、呪文の様な言葉を紡ぐ。扉はその言葉に反応しゆっくりと口を開けて行った。

 閉ざされていた先は、大きな空間があった。回廊とは違い、空間は魔法の明かりに包まれている。

 その空間は、まるで城の謁見の間の様であった。いや、実際にそうなのであろう。

 扉から十メートル程の場所は僅かに高台となっており、そこには数人の人間が確認される。

 人影は静かに高台に近づくと、正面にある玉座に向け膝を付きフードを外す。人影は三十代前後の男だった。

 頭を下げる男に、高台から声が掛る。


「何用だ?」


 声を発したのは、玉座の横に控える高齢の男。

 鬚を長く伸ばし、白いローブを纏い、捩れた木製のスタッフを持つ。ファンタジー物の魔術師その物の様な姿である。


「は、ビホルダーの魔力反応が消失致しました」


 問われた男は、事務的に事実のみを口にする。


「ふむ。消失場所の特定は?」


「御存じの通り、彼の物は未完成でありますので」


「無理、か」


「はい」


 幾つかの言葉を交わし、魔術師は隣の玉座へと視線を向ける。

 全てが石で造られているこの空間で、玉座は異常な存在感を示す。全てが黄金で創られているのだ

 しかし、その異常さは玉座だけでは無い。そこに座る者も、また異常さを増していた。

 性別は女性。

 年の頃は十代後半から二十代前半。

 真っ白な髪を肩口で切りそろえた髪型。

 透ける様な真っ白な肌。

 鮮血を塗った様な、紅の唇。

 そして、黄金の瞳。

 まるで人形の様に見える。

 そして、その魅力的な身体は、頭部以外一切外気に触れてはいない。所々ベルトで飾られた、キャットスーツの様なボンテージ衣装の様な衣装を纏っていた。


「そんな事はどうでも良い。問題は、何故アレが逃げ出したか、と言う事だ」


 女から発せられた声は、年齢とは釣り合わない程、冷たく無機質な物であった。


「はっ! 研究班の一人が、監視を怠ったと言う意事であります」


 女の言葉に、膝を付く男が返す。


「その者は?」


「現在、自宅で謹慎中であります」


「そうか。その者は妻帯者か?」


「妻と、子が二人」


 女は一度目を瞑る。何かを思案している様に見えた。


「フォルネクス」


「何で御座いましょう、レジーナ様?」


 女、レジーナの呼びかけに、魔術師、フォルネクスが答える。

 レジーナは、その人形の様な顔に、僅かに笑みを浮かべた。


「殺せ。無能な人間も、その血を受け継ぐ家族も、我が教団には必要無い」


「承知致しました。教主レジーナ」



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