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後語り後2

「創生記に記された事象よりももっと前、魔女様達は別の世界で暮らしていたそうです」


 アーデルハイドは、語り部の様に静かに言葉を紡ぎ出す。


「その別の世界で、魔女様達はまた別の世界へと意識を転移させていたそうです」


「では、魔女達は、世界を渡る術を持っていた、と?」


 ヒムロの疑問に、アーデルハイドは首を縦に振る。


「では、レギオン・モンスターはその術を転用し――」

「それは違うそうです」


 答えを得たと思っていたヒムロに、アーデルハイドは否を突き付ける。


「レギオン・モンスターに限っては、創世記に記されている破滅の獣と勇者の因子が関わっているそうです」


 そう言い切るアーデルハイド。だが、ここでヒムロは妙な違和感に襲われた。アーデルハイドの物言い、まるで全てを知っている様に思えたのだ。


「不躾ですがアーデルハイドさん」


「何でしょう?」


「あなたの話だと、まるで全てを知っている様に思えるのですが?」


 ヒムロの問いかけに、珍しくアーデルハイドはキョトンとした表情を浮かべる。

 そして


「申し訳御座いません、説明不足でしたね。魔女様達の情報は、直接聞いた物です」


「「えっ?」」


 場の全員の顔に、驚きの表情が張り付いた。

 それはそうだろう。神の立場にある魔女達から、直接話を聞いたなど、一葉に信じられるはずは無いのだから。だが、驚きはあったが、すぐにヒムロとタムラはある事を思い出す。

 それは、東を守護する魔女、ローラ・リキウス・コンラートの存在であった。


「そう言えば、東方のローラ様も街に繰り出していたな」

「ああ、今思い出した」


 そう言いながら、タムラは頭を掻き、ヒムロは溜息を吐いた。

 六人それぞれに違いはあれど、魔女様の目撃例は多々ある事だった。もちろん、普通に生活していれば、出合う事などほとんど無いのだが。

 そんな会話も終り、アーデルハイドはコホンと小さく咳払いをする。話の再開だ。


「魔女様達が世界を再構築する際、完全に消し切れなかった勇者と破滅の獣の因子がコアとなっているとビクトーリア様は推察されておりました。無論、他の魔女様の意見も同様であるとの事」


 話が進んだ所で、テターニアが首を傾げる。そして、おずおずとアーデルハイドに向け語りかける。


「勇者と破滅の獣の因子が原因である事は良いのだが、なぜ勇者と破滅の獣の因子が残っている事がビクトーリア様には解るのだ?」


 尤もである。しかし、アーデルハイドは凛とした態度のまま返事を返す。


「まず大前提として聞きます。テターニアさん、あなたはどうして、あのフラッグポールがビクトーリア様の物だと解ったのです?」


「そ、それは、我らがヴォーリア・バニー(首狩り兎)の祖先が、ビクトーリア様に支えていたからだ」


 テタ―ニアは胸を張り、優々と答えた。


「そう、それが答えです」


 アーデルハイドは自信を持ってそう言うが、他の者からしたら意味不明である。それが解っているからこそ、アーデルハイドは言葉を続ける。


「魔女様達が配下を従えて戦ったのは、世界が再構築される前です。なのに、何故テターニアさんは自身の先祖が魔女様の配下であった事を知っているのでしょうか?」


 言われてみれば、確かにそうであった。

 創世記には、魔女達が配下と共に破滅の獣と戦った事は記されている。だが、どの種族が魔女達の配下であったかは記されていない。それなのに、十二の種族には自分達の祖先が魔女達の配下であったと言う伝承が残っている。

 アーデルハイドは何を言おうとしているのだろうか?


「魔女様の御言葉です。言葉には力が宿る。思いの欠片が真実を紡ぐ、と」


「思いだぁ?」


 タムラが顔をしかめながら口を開く。いまいち要領が得なかった様だ。


「魔女様は、滅びた世界で思いの欠片を集めたそうです。そして、数え切れない程の夜を費やし、数え切れない程の思いの欠片を組み合わせ、世界を、そして世界に住まう者達を創りました」


「創生記の一節ですね」


 知っていたのかヒムロは呟く様に言葉を漏らす。

 この言葉に、アーデルハイドはゆっくりと頷いた。


「魔女様達の集めた思いの中には、英雄を望む思いや、勇者を信じる思い。そして…………人こそが最上の生物だと言う驕った(おごった)思いも含まれていたのでしょう」


「その思いが創り出したのが――」


「そう、勇者教団」


 答えを口にしたアーデルハイドであるが、その表情は少し曇って見えた。


「それは解ったけどよぉ、レギオン・モンスターの件はどうなんだ?」


 場の空気を変えようと、タムラは再び口を開く。


「先ほども言いましたが、魔女様は思いの欠片で世界を創られています。私の身体も、あなたの身体も。そして、山や海も。そして世界には、思いの欠片が結晶化した物が存在します。テターニアさんが持っている魔石の様に」


「で、では、レギオン・モンスターは、その魔石を媒介に……」


「ええ。それも、悪しき思いが集まった物を使うそうです」


 アーデルハイドの説明で、ヒムロは正解を導く。

 その言葉を聞いたタムラは、力を抜き天井を見上げると、胸に溜まった嫌な物を吐き捨てる様に呟く。


「物騒だなぁ」


「ああ」


 その言葉に、黙って会話を聞いていたテターニアが同意の返事を返した。


「しかし、二十年前の英雄戦争終結の際、悪しき魔石は全て破壊されたそうです」


 結末を語るアーデルハイド。

 その言葉によって、場の全員が胸を撫で下ろす。しかし、話は終わってはいなかった。


「そうだと、今朝までは信じておりました」


「「!」」


「見つかったのでしょうね。新たな悪しき魔石、が」


 アーデルハイドの言葉によって、部屋が重い空気に包まれる。


「ほんっとにロクな事しないわね、あのれんちゅう」


 突然応接室に、呆れながらもうんざりしたような声が響いた。

 全員の視線が、声のした方角へと向けられる。

 そこには、疲れを前面に押し出したシャルロットの姿があった。


「「姫様!」」

「「シャルロット……様!」」


 場の全員の声が重なる。その声に対して、シャルロットは掌をひらひらと振って見せた。


「ヴァネッサとイレーネはどうしたのですか?」


 シャルロットの背後に、メイドの姿が無い事に気付き、アーデルハイドが問いかける。この問いに対し、シャルロットは口角を上げ


「KOしてやったわよ」


 大胆不敵に、勝利の言葉を口にした。


「それで? なに物騒な事話していたの?」


 ソファーに腰を降ろしたシャルロットは、開口一番疑問を呈した。


「物騒と言いますか、これまでの事と補足の説明を」


 茶化す様に放たれたシャルロットの言葉に、アーデルハイドは律儀に答えを返す。そして、これまでに交わされた話を、シャルロットに説明する。


「レギオン・モンスターかぁ」


 言葉を受け、シャルロットは呟く様に敵の名を口にした。


「しかし、姫様よぉ。魔法が効かないあんな化け物、よく倒せたなぁ」


 呆れる様な声で、タムラが話題を変えた。だが、シャルロットは表情を変えずに答えを示す。


「はぁ? 化け物? なに言ってんの? あんな模造品に」

「「え?」」


 アーデルハイド以外の者から、驚きの声が上がった。


「そうですね。相手はビホルダー。まともであったなら、この地は滅んでいてもおかしくは無かったでしょうから」


 そして、残ったアーデルハイドからは、悲痛な現実が告げられた。


「でも、相手がビホルダーだったから、融合施術があそこまで低下したのも事実よね」


「はい」


 シャルロットとアーデルハイドは、細かな情報を整理して行く。だが、他の者達は置いてけ堀。

その事に気付いたのか、シャルロットは全員へと瞳を向けた。


「つまりはね、融合施術の大半が失われている可能性があるの」


「どう言う事だ?」


 全員が首を傾げる中、タムラが代表する様に口を開いた。その言葉にシャルロットは頷くと、改めて先の戦いを振り返る。


「いい、ビホルダーって言うのは、魔法生物なのよ」


 シャルロットの言葉に、全員の首が縦に振られた。


「そんでね、書物なんかにも記載されているんだけど、魔法生物って、常時身体の表側を魔力で守っているのよ」


「ああ、それで俺の唱える者(スペル・ガン)が通じなかったのか」


 シャルロットの言葉に、タムラが納得行った様に言葉を漏らした。

 だが、それはどうやら間違いであったらしい。シャルロットの眉が僅かに跳ねあがる。


「違うわよ! あんた達の攻撃は、ビホルダーの視線で消されたの」


「そうなのか?」


「そうよ」


 発言を訂正されたタムラは口を噤むが、その強い瞳は続く情報の提供を求めていた。


「後からの攻撃は、ちゃあんと通っていたでしょうに」


 シャルロットは自信を持ってそう言うが、他の面子にはどうにも話が掴めない。その表情を目にし、シャルロットは一度天井を見上げると、再度口を開いた。


「ヒムロがおとりになって、タムラが後ろから攻撃したでしょ?」


「ええ」


 シャルロットの問いかけに、ヒムロがタムラに一度視線を向けてから相槌を打つ。


「その時のタムラの攻撃でね、ビホルダーの体表の色が若干変わったのよ」


「色が? ですか?」


「そ、唱える者(スペル・ガン)の弾が当たった所がね」


 そうシャルロットは断言するが、他の面々はどうにもピンと来ない。

 シャルロットは、そんな表情を見つめるとゆっくりと立ち上がる。そして、静かにタムラの腕を取ると、思いっきり平手で張り付けた。


「痛った!」


 パチン! と言う破裂音に、タムラの言葉が重なる。


「何すんだよ!」


 タムラは抗議の声を上げるが、シャルロットの耳には届いてはいないのか、タムラの腕をゆっくりと場の全員に見せた。


「ほら」


 ほらと言われても、一体何がほらなのか?

 シャルロットの視界に、不思議そうな表情が居並ぶ。これは納得させなければ! そう思ったシャルロットは再度右手を振り上げた。


「ちょ――」


 制止するタムラの声を無視して、再びその右手を振り降ろす。パチン! タムラの腕で破裂音が鳴った。


「痛たっ!」


 言葉と共に、タムラは瞬時に自身の腕を引き抜いた。しかし、シャルロットはその腕を逃がさない。

 だが、シャルロットはかよわい女の子。大人であり男でもあるタムラに引っ張られれば、どうなるかは必然であった。

 そう、シャルロットは、タムラに向け突撃して行ったのだった。ドスンと言う音を立て、ぶつかる二人。


「なにすんのよ! あぶないじゃない!」

「姫様は、一体何がしたいんだよ!」


 抱き合う様な姿勢で、口論し合う十代少女と三十代男性。

 実際シャルロットは何がしたかったのか?

 その真意を現す様に、シャルロットはタムラの腕を指差した。そこには当然はたかれて赤くなったタムラの腕が。


「ね!」


 本日三度目の何言ってんだと言う空気が応接室に漂う。

 しかしこの部屋には、神憑り的な頭脳を持つ妖精が存在するのだ。そう、シャルロットを幼少期から見続けて来た、アーデルハイド・ロッテンマイヤーが。


「タムラさんの腕を見て下さい。赤くなっているでしょう」


「まあ、叩かれれば普通そうですよね」


 アーデルハイドの言葉に、ヒムロが返す。


「…………あ」


 ヒムロは何か気付いたのか短い呟きを洩らす。


「つまりは、ビホルダーもリュウトの腕と同じだと……」


 ヒムロが辿り着いた結論に、シャルロットは大きく頷いた。


「言葉でいいじゃねぇかよ」


 事実を突き付けられたタムラのボヤキが応接室に木霊した。



長かったので分割です

申し訳ありません

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