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姫騎士降臨

「わかったわ! テターニア。あなた、わたしの部下になりなさい!」


 シャルロットの言葉に、テターニアの瞳が鋭い物へと変化した。


「ほう。肩書だけの小娘が、私に従えと言うのか?」


 そして、敵意を持った言葉が投げ付けられる。

 だが、当のシャルロットは何時も通りの表情で言葉を受ける。そう、邪悪な笑みを浮かべて。


「肩書だけ? ふうん、そう見えるんだぁ」


 同時に、侮蔑の言葉を贈る。

 こんな言葉のやり取りをしていれば、テターニアが引けなくなる事などシャルロットは当然理解している。何せ、相手は戦闘種族のヴォーリア・バニー(首狩り兎)なのだから。


「小娘、それは我が種族に対する侮蔑と受け取って良いのだな?」


「良いか悪いかは、アンタが決めなさい」


 テターニアの怒りを、シャルロットはバッサリと切り捨てる。

 そう、この後の展開など予測済みであると言う様に。


「決闘だ」


 テターニアから短く言葉が発せられた。これで議論が終りであると言う様に。

 しかし、こんな事は見過ごせない。そんな人物がこの場には居た。


「ちょ、ちょっと待てよ! 二人とも冷静になれ!」


 そう、タムラである。

 急ぎ立ち上がり、二人の間に割り込んだ。


「あら、わたしは冷静よ。熱くなっているのは、そこの白いのだけよ」


 何とか場を鎮めようとするタムラに対し、火に油を注ぐシャルロット。そして、怒りを顕わにするテターニア。


 タムラは、シャルロットの言葉を聞いて一歩後ろへと下がった。

 それは、野生の感とでも言う物なのだろう。先程までの、自分達を“ばかじゃないの!”となじっていたシャルロットとは、纏っている雰囲気が違っているのだ。何時もの、思慮深く慈悲を湛えた空気が、まるで捕食者のそれの様に変化していた。

 まるで、自分達の親であるサカモトの様に。

 怒りに身を任せたヒムロの様に。

 タムラは僅かに頬を緩ませ、この事態を見守る事にした。

 いざとなったら、自分が出て行けば良いのだから。


「それで、何時決闘をするの? 今?」


「明日だ」


 シャルロットの挑発する様な言葉に、テターニアは敵意ある言葉で返事を返す。

 そしてすぐに席を立つと、ヴァイエストを従え領主邸を後にした。


 応接室に残ったのは、シャルロットとタムラの二人。


「なあ、姫様よぉ」


「なに?」


 返事を返すシャルロットは、何時も通りのシャルロットだった。


「大丈夫なのか?」


 心底心配する様に、タムラは問いかける。

 だが、何時ものシャルロットは何時ものシャルロット。のれんに腕押し、糠に釘。


「さあ?」


 ニッコリ笑って、そう返すのみであった。

 それを最後に、室内は沈黙に支配される。

 どれほど時間が経過しただろうか? ドアがノックされ開かれた。

 姿を現したのはイレーネ。どうやら、ティーカップを回収しに来た様だった。

 そのエメラルドグリーンの髪を視界に捉えたタムラが、おもむろに口を開く。


「なあ、姫様が決闘するって言うんだが、どうするよ」


「あらまあ」


 タムラの言葉に、イレーネはさほど心配していない様な口調で答えた。

 これには、流石のタムラでも混乱した。

 あれほど守ろうと必死になっていたシャルロットが決闘をすると言うのに。

 だがこの考えが頭に浮かんだ瞬間、タムラは奇妙な感覚に襲われる。

 一体何がそうさせているのか? タムラはこれまでの事を思い出して見る。

 そして、一つの事実に行き当たる。


 そう、イレーネもヴァネッサも一度たりともシャルロットを守った事が無いのだ。

 自分と最初に出会った時も、ヒムロと対峙した時も、サカモトと正面から向き合った時も、ギルド事件の時も、彼女らは必ずシャルロットから一歩引いて後ろにいた。

 まるで、シャルロットを守る必要が無いと言うばかりに。


「なあ。姫様って強いのか?」


 これが自然な対応だろう。

 だが、この後に告げられたイレーネの言葉で、タムラはさらに驚く事になる。


「お強いですよ。私達など相手にならないくらいに」


「マジかよ……」


 ヴァネッサとイレーネと言えば、先のギルド事件勃発の折先陣を切って街のゴロツキ共を始末した猛者だ。

 それが、手も足も出ない。

 一体、シャルロットの強さとは?

 だが、タムラは(かぶり)を振る。

 急がなくても、明日解る事なのだから。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 決戦の日、ヴォーリア・バニー(首狩り兎)達は昨日と同じ時間に領主邸に顔を出した。

 その知らせを聞き、シャルロット、ヴァネッサ、イレーネも館の外へと歩を向ける。

 領主邸の外で顔を合わせる両者。何故かその場には、ヒムロとタムラも顔を出していた。


「恐れずに、良く顔を出したな」


 テターニアは、勝利を確信した笑みを湛えながらシャルロットに向け言い放つ。

 一方のシャルロットは、何時も通りの涼しい表情で微笑むのみ。


「馬鹿にしおって!」


 叫びと共に、テターニアは背負っていた得物を地面に降ろす。

 テターニアの武器は一言でいえば、柄の無い巨大な金槌であった。片方が打面、片方が釘抜きになったソレである。

 だが、テターニアが取り出した武器とは、僅かな違いがあった。打面には、赤い魔石が埋め込まれ、釘抜き用の溝も無い。巨大なハンマーと、盾が一つになった様なデザイン。


 テターニアは、武器の半分程の位置にあるスリットから腕を入れ、武器を右腕に装着する。

 武器の名は、火砲槌(かほうつい)。魔石に貯めた魔力を使い炎を生みだし、魔石と一体化した打面で殴る。そして、釘抜きに酷似した部分で敵の攻撃をいなす。打防砲そろった武器である。


「どうした? 用意はしないのか?」


 シャルロットは一度目をつむり、そしてゆっくりと開く。


「リリィ」


 歌う様に短く呟く。

 その声に呼応して、空間が歪み純白の光を放つ光球が出現し、シャルロットの胸へと吸い込まれて行った。

 同時にシャルロットの姿が、真っ白な、まるでドレスの様な形状の鎧に包まれる。

 同色のガントレットにグリーブ。それは、金属と言うよりも、磁器に近い光沢を放っていた。

 そして、頭頂部に飾られた百合の紋章をなぞるティアラ。


 姫騎士と呼ぶにふさわしい存在が、皆の前に姿を現した。


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