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行動開始

「心根を話せ、場合によっては悪い様にはせんぞ」


 そう言うロックフェル老の表情を、ヒムロはじっと見つめる。


「そうですねぇ……」


 どこか言い淀むヒムロ。

 だが、その表情は悩むと言うよりも、心根を開示することへの葛藤の様であった。

 しかし僅かの後


「分かりました。しかしロックフェル老、この事はご内密に」


 意を決し、硬い表情で言葉を綴る。

 このヒムロの問いかけに、ロックフェル老は頷きで返事とする。


「姫様、シャルロット様は、人を良き者として見ています」


「うむ、確かに。シャル坊は、口では合理的な事をほざくが、いざ実践となるとどこか非情には成れぬ所があるからのう」


 ロックフェル老の相槌に、ヒムロも同様に頷きで答えた。


「シャルロット様は、いずれカーディナルを、延いては王国を光で満たすと俺は思っています」


 素直にその心根を話すヒムロだが、聞き手であるロックフェル老の表情は苦く歪む。


「光が強ければ強い程、闇は色を濃くして行く、か」


「ええ」


 的確に紡がれるロックフェル老の言葉に、ヒムロは寂し気な笑みを見せた。まさにその通りだ、と。


「それで、青年はどう動く?」


 全てを見透かした様な眼光で、ロックフェル老はヒムロに問いかける。


「俺は……彼らの様な存在、まあ俺達も含めてですが世間での必要悪だと思っています」


「ほう。シャル坊が聞いたら、馬鹿じゃないのの一言が飛んで来る言葉じゃのう」


 ヒムロが呟いた言葉に、ロックフェル老は的確な分析を贈る。

 だがそれは、決して馬鹿にしている訳では無く、興味を持っての事だ。実際、ロックフェル老の表情は、先程とは違い柔らかく喜々とした物だった。


「シャルロット様が排除したコーネリア商会の件。この事件に関わった者達の手腕で、闇は消え去りました」


「……そうじゃな」


「しかし、その空いた隙間に、新たな闇が入り込んで来ました」


「ふむ」


 ヒムロの解説とも言える言葉に、ロックフェル老は相槌を打つ。


「それは、シャルロット様の行う行動に、僅かながらにも隙が有るのだと俺は思っています」


 赤裸々に自身の考えを話すヒムロに対し、ロックフェル老の表情はどんどんと笑みを増していった。面白い、もっと先を話せ、と。


「その隙を無くすのが、俺たちの仕事なのでは? と最近思うんですよ」


「成程。シャル坊が光を担うなら、青年、いや、お主らヤマトの無頼が闇を担うと?」


 ロックフェル老のこぼした言葉に、ヒムロは僅かに苦笑いを浮かべた。そんな大仰な事では無い、と。


「そこまでは言いませんよ。俺達は只の人です。魔道を扱う事は出来ませんし、特殊な武器を持って居る訳ではありませんから。俺達が出来る事は、生活に根差したシャルロット様、姫様の領主としての顔をサポートする事だけです」


「そうかのう……」


 ロックフェル老は、どこか懐疑的な言葉を投げかける。今はそうかも知れない、しかし、と。


「それでレイジ、お主はどの盤面に駒を置くのじゃ?」


 いきなり名前を呼ばれ、ヒムロは一瞬言葉を失う。

 ロックフェル老が、ヒムロを認めた瞬間が此処にあった。

 しかし驚いてばかりもいられない。ここで止まったままでは、ロックフェル老の弟子として、シャルロットの兄弟弟子としての面目が立たないのだ。

 だからヒムロは、すぐに返事を口にする。


「俺とリュウト、タムラが後ろを支えます。実効的な指揮などは、タムラの部下が担うことになるでしょう」


「成程。そのタムラなる人物を儂は知らぬが、お主がそこまで言う人物じゃ、頼りにはなるのじゃろうな。」


 ロックフェル老は、そこまで言うと一旦深く息を吐いた。


「お主の駒は解った。じゃが、他の駒はどうする? 現状では駒不足で、チンピラの相手をするのも苦労するじゃろう? それに…………シャル坊の持ち駒であるお主等は、ちとサイズが大きすぎて盤面からはみ出すと思うが?」


 ロックフェル老は、ヒムロの計画の穴を潰すかの様に言葉を投げかける。


「だからですよ。俺達がデカい駒であるならば、小さな駒を用意すれば良い事」


「ほう。どこから調達するんじゃ? ストリートチルドレンをやっておった新人共か?」


 この言葉に、ヒムロは優し気な笑みを浮かべた。

 それと同時に、ヒムロと言う人間の本質とも言うべき言葉を口にする。


「あいつらは、このカーディナルの未来の一端を担っているヤツらですよ。そんなヤツらを危ない目には合わせられませんよ」


「ほう」


 そんなヒムロに、ロックフェル老は眉を歪ませた。話の本題が見えないのだ。


「ではレイジ、駒はどこから調達するのじゃ? (じじい)に解りやすく説明してくれんか?」


 ロックフェル老は、顎髭を撫でながら問いかけた。それも、すこぶる楽しそうに。

 それがありありと分かるのか、ヒムロも同様の表情で答える。


「すでに居るじゃないですか、下っ端に相応しい奴らが」


 簡単に、何の感情も込めずにヒムロが呟いた言葉。その言葉に対し、ロックフェル老は最大級の愉悦をその顔に張り付けた。


「面白い。真に面白い。レイジはあ奴らを食らうと言うのか。ククッ! しかし、出来るのかのう」


「その為に、俺やタムラが後ろに控えるんです。まあ、リュウトの舎弟で十分事足りるでしょうけど」


 どこか呑気に言葉を綴るヒムロに、ロックフェル老は静かに息を吐いた。


「して、何時から始める? 時間はそう無いぞ」


 ロックフェル老の問いかけに、ヒムロはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

 そう、ヒムロが仕える雷鳴会会長シャルロットの如く。


早馬(グリフォン)を貸していただけるなら、今すぐに」


「分かった、すぐに手配しよう」





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「それで、何の用なんだよレイジ」


 ぶっきらぼうに、それでいてプレゼントを前にした子供の様にタムラが口を開く。

 急ぎロックフェル邸まで呼び出されたのは、タムラ、トラ、シブヤ、そして、トラやシブヤの舎弟数名。

 その者らを前に、ヒムロはある一点を半眼で見つめていた。その理由は……


「何でお前が此処に居るんだ?」


 そう、呼ばれていない人物が居る為である。


「俺の力が必要だろうと言われまして」


 少し照れくさそうに、それでいて気まずそうにその者は語る。

 男の名はマチダ。カーディナル商業ギルド全体を纏める男である。


「それはそうだが…………ちょっと待て、言われた? お前誰に言われて、此処に来たんだ?」


 会話を続けようとしたヒムロだが、マチダの言葉に根本的な疑問が浮かぶ。

 それに対してマチダは、何の躊躇も無くその発言者の名を口にする。


「アーデルハイド先生からですよ」


 マチダが発した人名に、ヒムロは言葉を失う。

 アーデルハイド・ロッテンマイヤー。シャルロットの領主邸のメイド長にしてシルキー(家妖精)

 同時に,シャルロットの専属メイドである、ヴァネッサとイレーネの師匠。

 その人物(妖精)が何故? そして、マチダが平然と口にした先生と言う言葉。

 ヒムロは混乱で口から言葉が出て来なかった。

 自分の知らぬ間に、マチダに一体何があったのだろうか?

 同時に、タムラやシブヤも無言でマチダを見つめていた。まあ、トラだけは平常運転であったのだが。

 それを肌で感じたのか、マチダは素直に恥じる事無くアーデルハイドとの関係を吐露する。


「最近、教えを乞うているんですよ。ギルドの運営も難しくて」


 この言葉を聞き、ヒムロはすぐに理解した。

 今回の件、すでに領主邸にはバレているのだ、と。

 その問題が理解出来るマチダは、すぐにヒムロの心配を取り除く言葉を口にする。


(かしら)の心配は無用ですよ。アーデルハイド先生も、俺の姉弟子も、カーディナルが平穏になるならば、姫様には報告しないと言っていますし」


「「姉弟子―?」」


 ヒムロとタムラから、同時に同じ疑問が漏れた。

 それを聞き、マチダは薄く笑みを浮かべながら


「アーデルハイド先生の教え子なんですから、ヴァネッサさんもイレーネさんも、俺の姉弟子ですよ」


 当たり前の様に答えを提示する。

 このマチダの答えに対し、場の全員が ”まあそうか” と肯定の意を示す。

 いや、示さざるを得なかった。

 だが、話の本題はそこでは無いのだ。だからこそヒムロは、再度本題を口にする。


「それでマチダ、何でお前が居るんだ?」


「まあ、(かしら)が話をしようとしている人物が人物ですから、ギルド長としての肩書が必要になるかと思いまして」


「そうか」


 マチダの言葉に、ヒムロは返事を返す。

 しかし、マチダの真意はそこでは無かった。


「姫様から預かった商業ギルドを、こんな馬鹿げた事に利用するなんて、落とし前は付けて貰わないと」


 ボソリと呟いた言葉、その表情は冷たく声は底冷えする様であった。

 それだけマチダにとって、カーディナルと言う地とシャルロットは大切な物になっているのだった。

 だから、悪用する者は許さない。

 つまりは、そう言う事であった。


「それでよぉレイジ。マチダはお前と一緒ってのは解るけどよぉ、俺たちは何をすれば良いんだ?」


 一向に話が進まない事にじれたのか、タムラが横から口を出した。

 その声を聞き我に返ったのか、ヒムロは話を本道に戻す。


「ああ。俺とマチダは、これからある人に会いに行く。それでお前たちは、サビーナさん、依頼者の村に行って聞き込みをして欲しんだ」


 ヒムロの説明を聞き、タムラは僅かに顔をしかめた。


「レイジよぉ、聞き込みって言っても、奴らの(ツラ)は割れてんだろ」


 そう、タムラの言う通り悪人達のおおよその顔はサビーナから知らされている。

 その事を事前に聞かされていたタムラが疑問を持つのは、当然の事。

 しかしヒムロは、そんな事は織り込み済みだと言わんばかりに、椅子に深く座り直した。


「お前達には、足取りを追ってもらいたい。村に留まっている可能性は無いだろうから、そいつらがどちらの方角へ行ったのか? 今、どの辺りに居るのかを探って欲しい。変に領外へ出られると、ロックフェル老が居ると言っても交渉が面倒だ」


「そう言う事かぁ。解った、そっちは任せてくれ。なあ、シブヤ」


「へい! ワシ、姫様の為に頑張ります!」


 事を理解したタムラが、シブヤに呼びかける。

 その言葉に、シブヤは気合の入った返事で返す。


「あのー、ワシわぁ……」


 唯一、何の言葉も掛けてもらえなかったトラが、情けない声を上げた。

 その声に、兄貴分であるタムラはちらりと僅かに視線を向けると


「はぁ? クリームちゃんは黙って仕事すりゃあ良いんだよ! 大体、姫様から許しももらって無いだろうが!」


 以前の失態を持ち出し、叱責の言葉を口にするタムラ。


「まぁ、リュウトもその位にしてやれ。それじゃあ、行動に移ってくれ」


 半笑いの表情で、トラのフォローに回るヒムロ。それと同時に、作戦の開始を通告する。

 主不在のカーディナルでの戦いのベルが鳴り響く。



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