3話
重たい気持ちで家の前まで来ると一人の少女が家の前の電柱のところにしゃがみこんでいた。
普段はそんな人がいても気にしないところだが落ち込んでいるときは不思議と人に優しくなれるものだ。
「どうしたんですか?」
声をかけると少女はゆっくりっこっちを見た。
「・・・・・・誰?」
か細い声で、しかしはっきりと聞こえた。あるいは聞こえた気がしただけかもしれない。
「僕はそこの家に住んでいるんだけど家の前でうずくまっているからどうしたのかなと思って・・・」
ナンパだとは思われないだろう。
そもそもこんな人通りの少ない郊外の住宅街でナンパをしようと思う方がどうかしている。
「そこの家?少し休ませてもらっても良いですか?」
正直ぎょっとした。
僕の考える普通が普通なら二十歳に届くか届かないかの女性は
明らかにぼろのアパートである面識の無い僕の部屋なんかには来ない。
よほど具合が悪いのかもしれないので様子を見て救急車を呼ぶことも考えよう。
ふたつ返事で了承してとりあえず家に上がってもらうことにした。
「ちらかっているけどその辺で適当にくつろいでよ」
部屋に入るなりそう言うと僕はとりあえず水ぐらい出してやろうと台所へ向かう。
台所へ向かうと言ってもそこは小さなぼろアパートだ。
居間兼寝床兼食卓と台所には壁も何もない。
女性が入ってくることなんか何も想定されていない部屋に少女は腰を下ろした。
万年床の脇に小さいテーブルがあり、その先にはテレビ。大変機能的だと思う。
布団の上に座る少女は一点をじっと見つめているだけで微動だにしない。
「具合が悪いの?」「薬でも出そうか?」
そう聞くとこちらを見てゆっくり首をふる少女。
水の入ったコップを少女の目の前に置き隣に座った。
やましい気持ちは無いが他に座る場所がない。
だいたいここは僕の家なのだから遠慮をするのはおかしい。
しかし人がひとりいるだけで自分の家は友人の家や編集部より居心地が悪くなっていた。
「事情を説明してもらっても良いかな?君の名前と何であそこにいたのかを説明してもらわないと部屋にあげた意味がわからない」
先ほどと同じ様にこちらを見たが今度は首は振らない。
ただじっと見つめているだけだ。
先ほどまではあまり気にしていなかったが結構きれいな顔立ちだった。
明らかに僕より年下で20前後なのは間違いないだろうが
目の奥に宿る憂いみたいなものは僕よりもずっと年上の女性を連想させた。
不謹慎な話だが、もしかしたら何かアイディアが降りてくる様な事件が起きるかもしれないと直感的に思った。
そうしてしばらく僕を見つめた後、先ほどと同じようにか細い声で喋り始めた。