2話
もやもやした頭を左右に振りながら相変わらずのそのそと歩いていた。
ファンタジーではないものを書こうとすると急に想像力が貧困になるのだ。
以前、かつての教え子たちの話を書こうとしたがあまりにリアル過ぎて嫌気がさした。
リアルな描写には慣れが必要なのかもしれない。
小説家として全く修行を積んでいない人間の生みの苦しみは、サラブレッドばかり見てきた業界人にはわからないのだろうか…?
出版社に向かうときは自信作だったものも帰るときはただの紙切れ。
毎回帰りは重たい気持ちを引きずりながらの家路だ。
ゆっくりといつもの電車に乗り込む。
通勤に使う人は多いが昼間のこの時間は人もまばらだ。
使い込まれた座席にゆっくり腰をおろす。
そもそも小説家というやつはどうやって作品を書いているのだろうか?
数年に一度しか作品を発表しない人もいれば毎月のように作品を発表する人もいる。
そんなことを考え出すと気持ちは沈むばかりなのだが何かというと考えてしまう。
何であいつは勉強ができるのか?
何であいつは顔が良いのか?
何であいつは女にもてるのか?
我ながら小さい男だと思う。
新人賞をとって華々しいデビューを飾った人でも埋もれていってしまう人間は多くいる。
もしかすると僕自身その一人になりつつあるのかもしれない。
焦りはあるが売れるアイディアはない。
売れないアイディアはあるが経験も才能もない。
ぐるぐると思考をめぐらすうちに最寄り駅へと着いた。
ここから徒歩10分で安アパートの我が家へ。
なにかネタになりそうな事件でも起きてくれればいいのにとすら最近思い始めてきた。