45.(夏休みの)ご利用は計画的に
「姉さん、俺たちいつ帰るの?」
バーベキューの翌日。
ぐうたらしている姉さんに聞いてみる。車で来たからこの人がいなければ俺たちは帰れないのだ。
「え?帰らないけど?何もしなくていいとか実家最高じゃん?」
いや、それアンタだけだから。すっかりダメな大人モードで、教師の威厳なんてどこにもありゃしない。
「別にいいけど、全員課題終わらなくても知らんぞ?」
「あ〜?お前ら持ってきただろ?チャチャッとやっちゃえよ〜。終わらなかったら補習な。ソラが」
「よーっし、全員課題の時間だ。おらさっさと準備しろ」
この人なら理不尽だろうがテキトーな理由つけてマジで補習とかやりかねないからな。
「うええ!明日からにしましょうよぉ!昨日たくさん運動したから筋肉痛がぁ」
「明日やろうは馬鹿野郎だ。つーかお前が一番心配なんだ」
優等生の如月、真面目そうな見た目の三井はちゃんと進めているだろう。多分。
あかりも俺と一緒にやっていたからある程度は進んでいる。
残るは竹田だ。テストでも赤点が当たり前だし、課題もどうせ最終日に徹夜でやるタイプだろ。
1人だけ学年も違うから何の課題が出されているかも分からない。監視出来る時にやらせないと。
「え!センパイもう1回言ってください!ちぃが一番だって!」
「ハァ。まったくこいつは......。今すぐ課題やらないと晩飯抜きだからな」
「それは嫌です!センパイがつきっきりで見てくれるならちぃ頑張りますけどぉ」
この無駄にポジティブすぎる思考どうにかならんのかね。
もう少し危機感というものを持ったほうがいいと思うんだが。
「分かったから早くやれ」
「さすがソラっちは面倒見がいいね~。でも自分の分は大丈夫なの?」
「あ?俺はとっくに全部終わってるぞ」
「えっ!早くない?」
夏休みの課題なんて可能な限り夏休み前に終わらせて、あとは最初の3日間で終わらせた。
やはり面倒ごとは先に終わらせて残りの休みを堪能しなくては。
後回しにすればするほど、何してても課題のことがチラついて楽しめなくなるしな。
「そら君、読書感想文とかも全部終わってるの?」
「ああ。んなの普段から本読んでるから真っ先に終わったぞ」
なにもライトノベルだけを読んでいるわけでは無い。いつも昼飯を食べている国語準備室にも本はあるから拝借して読んでたりもするしな。
作品について語ればいいだけなんて優しすぎる課題だろ。
「そうだなぁ。たしかにパパっと終わらせちゃえば、残りの休みはソラっちと遊び放題だねぇ」
「「「......!」」」
三井の発言に、一斉に課題を広げ始める3人。やる気になるのはいいが、余計なことは言わないでほしい。
俺の夏休みが侵食されていく......。
「三井はやらんでいいのか?」
「私は今週はこれ、来週はこれって決めて計画的に進めてるから大丈夫だよ~」
「ほぉ、さすがだな」
計画ってのは立てるのは簡単でも、それで満足しちゃって実行するのが一番難しいものだが。
「ねえソラっち、今度プール行こうよ」
「行かねえよ。何が楽しくてわざわざ炎天下の中出歩かなきゃいけねえんだ」
「えー。みんなの水着もう一回見たくないの?こんな美少女4人も独り占めできるのにもったいないなぁ」
そんなことをしようものなら周囲から視線だけで射殺されてしまいそうだ。4人ってちゃっかり自分も美少女に入れてやがるし。
まさか姉さんのことじゃないよな?さすがに少女というには歳が——いって!
突如背中に衝撃が走る。
振り返ってみると背後には寝そべっている姉さんしかいない。なに?女の勘ってやつ?怖すぎるんだが。
「熱中症になっても嫌だしクーラー聞いた部屋で引きこもるべきだろ」
「うわぁお。それじゃダメ人間になっちゃうよ!健康的に外にも出なくちゃ!」
「おい姉さん、言われてんぞ」
「あ?うるせえ話しかけんな。今忙しいんだ」
なにやらスマホに夢中である。ゲームでもしてんのか。
つかいつの間にか酒飲んでるし。生徒が課題してる横でこれって......これぞまさしくダメな大人のお手本じゃないのか?
これじゃ教師というより反面教師だろ。
「俺も早く帰って自由を謳歌したいんだけどなぁ」
「なぁん?」
テーブルの上で座っているミコが答える。お前はみんなの邪魔もせずにおとなしくできて偉いねぇ。
適度に休憩を挟みつつ、夕方までみっちり課題をやった。
なんか竹田の頭から煙出てるんだけど大丈夫か?この程度で壊れるなんてなってないな。
「みんな勉強お疲れ様。ご褒美ってわけじゃないけど、明日の夜、近くでお祭りあるから行って来たらどうかしら?」
伯母さんがみんなを労いつつとんでもないことを言い出して、俺は思わず頬が引きつってしまう。
どうやら俺の夏休みはまださらに荒れるらしい。
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