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43.変わるものと変わらないもの



「いやぁ、地和なんてソラはすごい運だな。トップ捲られちゃったよ」

「え?私の親番は?」

「終わったけど?」

「許さん!表出ろやコラァ!」

「先生勘弁してくれ……」

「彩加落ち着きなさい。それにしてもソラは学校以外でも先生って呼んでるの?」

「あー、まぁ癖で」

「んー?ホントは恥ずかしいんだろ?昔みたいにお姉ちゃん!って呼んでもいいんだぞ?こないだは呼んでくれたじゃないか。ほらほらー」


うざいから肘でつんつんしないでほしい。こないだって「ねえさん」って言っただけだろ。


「あら。じゃあ私はお義母(かあ)さんって呼んでもらおうかしら?」


ん?なんか今発音怪しくなかったか?


「まあまあ二人ともそのへんにしなさい。......さて、ソラ。君の父親——幸太郎の居場所が分かった。カンボジアだそうだ」

「カ?」

「カンボジアだ。会社に問い合わせてみたら六月から出張に行っているらしい。神楽坂さん——あかりちゃんの母親も一緒だ。本当は六月中に帰ってくるはずがトラブってまだ向こうにいるらしいとのことだ」

「......あー」


こういう時ってなんて言えばいいんだろう。

正直無事だとかそのへんはどうでもいい。が、海外行くならせめて連絡入れとけよ。俺じゃなくてあかりにでも。

ていうか毎回振り込むんじゃなくて定期送金にしとけや。


「スマホをどうしたのかは分からないが、とりあえず帰り次第連絡をよこすように伝言はしておいた。それまで必要なお金は俺のほうで建て替えておくよ」

「すみません。迷惑をかけてしまって......」

「ソラが謝ることじゃない。悪いのは連絡もしない幸太郎だ。それに前にも言ったが、俺たちはソラのことを家族だと思っているからな。そうやって敬語なんか使わなくていいしもっと甘えていいんだ」

「そうだぞ。遠慮なんかしてんじゃねえ。それじゃ私が楽しくない」


この人たちは昔からそうだ。俺を家族として扱ってくれる。

あいつらの離婚が決まって俺をどうするかという話になった時も、伯父さんたちが引き取るという提案もされた。もう家族同然なんだから歓迎すると。

でも当時の俺は中学でのこともあって、一人になりたいからと断ってしまった。

それでも先生——姉さんは「せめて私が働いている高校に来い」と言ってくれて今がある。

おかげで気楽に過ごせて、友達と呼んでくれる奴らまで出来た。

今も困っている俺のために動いてくれている。この人たちにはどれだけ感謝してもし足りない。


「あら?そういえば彩加だって幸太郎さんの勤め先くらい分かったんじゃないの?」

「いやー。そういう情報は学校にあるし、夏休み中に学校なんて言ったら面倒ごと押し付けられるし......」


そういやそうだ。緊急連絡先とかに会社の情報があるはず。まぁこういうところが姉さんぽいんだけど。

俺にとって重要なのはあいつがどうしてるかということじゃなくて、俺が生活できるかどうかだしな。








皆が寝静まったなか、俺は満点の星空を見上げていた。ミコもたくさん遊んで疲れたのかぐっすりだ。

錦野家の2階の角部屋。そこが昔俺に与えられていた部屋で、今も綺麗に掃除されていた。

その部屋にある天窓からは外に出ることが出来て、屋根の上で見る星空が好きだった。

このあたりは街灯も無く、暗闇の中に星だけが輝いている。


「ソラ、やっぱりここにいたか。よっと」

「......姉さん」


姉さんも天窓から出て俺の隣に腰かける。ここで使う専用の座布団を敷いているのだが、子供の頃ならまだしもこの歳になると2人は狭い。


「お前ホントここ好きだよなぁ。昔から寝る前はしょっちゅうここにいたもんな」

「......俺たち人間と違って、星空はあの頃も今も変わらないからな」

「でも変わるってのも悪いことばかりじゃいだろ?」

「どうだろうな。少なくとも、簡単に心変わりして裏切るようなやつは関わりたくないな」


たしかに環境を変えたからこそ俺もあかりもトラウマを克服出来たともいえる。

だが、そもそもあいつらが心変わりなどせずに子供を、家族を愛していればトラウマになるようなことも無かったかもしれない。


「まぁ今は友達も出来て賑やかじゃないか。美少女に囲まれて青春だなぁ。ソラの本命は誰なんだ?ん?」


「本命も何もねぇよ。友達だろうと家族だろうと簡単に裏切られるんだ。そう簡単に信じられるかよ。姉さんだって見てきただろう?」


俺の件も如月の件も、姉さんは知っている。

友達だ家族だと言っても、結局自らの欲望の為に切り捨てる。

そう簡単に信じる方がどうかしてる。


「ソラは優しいからなぁ。……お前はさ、本当は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことのほうが怖いんだろ」

「っーー」


言葉が出なかった。


「みんなからの好意には気付いているけど、自分が幸太郎さんの血を引いてるから、誰かと付き合ったりしてもいつか自分が同じことをして傷つけちゃうんじゃないかってビビってんだろ?」


まさか姉さんに見抜かれるとは思わなかった。俺自身気づかなかった。いや、気づかないフリをしていた。

どうせ裏切られるからと人のせいにしていたんだ。


仮にだが、如月が告白してきた時に付き合っていたとして、その後あかりが一緒に住むとなった時俺はどうしていただろうか。

あかりを拒絶しただろうか。同じ過去を持っていると知っても切り捨てられただろうか。

だが受け入れたとしても、如月の目には裏切りに見えてしまうかもしれない。

それではあいつらと同じになってしまう。




「ソラ。お前は固く考えすぎだ。1人で背負い込んでなんとかしようとするな。もっと周りを見ろよ。何かあったらまず相談すればいいんだ。幸太郎さんはそれをしなかったから家庭を壊すことになったけど、お前はあの人とは違うんだろ?今のお前はもうひとりじゃないんだから」

「ねえ、さん……」

「心配すんな。もしそれでどうにもならない時は私が慰めてやるよ。私だけは何があってもソラの味方でいるからな」

「……姉さんに慰められるなんてこの世の終わりじゃないか」


素直に受け取るのが気恥ずかしくて、つい茶化してしまう。

俺を慰めるより、自分の彼氏いない問題をどうにかした方がいいんじゃないかな。


「あん?……まったく、そういうとこは可愛げがないぞ。まぁ前の時は何もしてやれなかったからな。そう言いたくなるのもわかるが」

「そんなことない。言ったろ?今の学校で良かったって。自分の夢を犠牲にしてまで教師になったんだ。姉さんにはどれだけ感謝しても足りないよ」

「やっぱ気づいてたか。まぁやってみたら教師ってのも楽しいもんだぞ」


気づかないわけが無い。昔から美容師になりたいってずっと言っていたし、勉強なんて大嫌いだったじゃないか。

だから姉さんだけは信用してるし、困ってたら必ず力になると決めていた。


「それに、もうひとつの夢が叶ったからいいんだよ」

「もうひとつ?」


隣から気配が無くなったと思ったら、俺の頭がふわりと包み込まれた。




「ソラがまた笑うことだ。......そろそろ寝ろよ。明日は忙しいからな」


それだけ言って降りて行った。



寝ろと言われても、もう少し夜風にあたって火照りを冷まさないと眠れそうになかった。




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