【短編BL】クソドラゴンと胃痛の騎士
騎士の位を持つ冒険者ゼルバート・マイツフェルトは、遠征帰りの自室で半竜人の相棒ガウスが仲間たちと酒盛りをしているところを目の当たりにする。
疲れているこちらの気も知らずにと激昂したゼルバートはガウスと喧嘩した末につまみ出すが……
※【初心者歓迎 BL短編小説企画】のサンプル作品です。
※年下人外攻め×年上人間受けです。
※視点切り替えあります。
赤いレンガ造りの少しばかり高級な集合住宅の一室にて。
騎士の称号を受けた冒険者に与えられたこの一室には些か相応しくない光景が繰り広げられていた。
散らばった酒瓶、割れたグラス、怯えて失禁する若造が数人。
そしてその中心。
目の下にくまを作った朝帰りの私――ゼルバート・マイツフェルト。
私の怒りを微塵も理解しようとしない、腐れ縁の半竜人――ガウス。
……私たち二人は取っ組み合いの大喧嘩の最中なのであった。
遠征帰りの私を、私の部屋で待ち構えていたのは、酒に酔って騒ぐ若造共。それを煽動するガウス。
こいつにはいつも手を焼かされていたし、近頃は特に、自堕落な生活態度が目に余るようになった。
「この、クソドラゴンが……!」
私の振り抜いた右手。
「っるせぇ……!」
それを受け止める、奴の左手。
――ミシリ、ギリギリ……
この馬鹿野郎のツノか翼か尻尾のいずれかを引っ掴んでやろうと思ったが、敢えてやめておくことにした。
そこ以外の部位が普通の人間とさして変わらないならば、せめて共通する部位で戦いに勝ってやる!
「まだ粘るか!」
「粘るに決まってるだろ、クソジジイ!」
「誰がジジイか! まだ三十半ばだ!」
「だって白髪じゃん」
「白髪ではない、銀髪だ! 貴様の赤毛を全部むしり取ってくれる!!」
「おうおう! そっちこそ、どケチのしょっぱい年増のオッサンが、下戸のクセしていっちょ前に気取った酒なんざ取り寄せやがってよォ! なァーにがセンネンユリだ! 乙女かテメーは!」
「何だと貴様ッ!? 幾ら掛かったか想像もしとらんくせに! 今日という今日は許さんぞ!! この――」
――ブンッ、ドシャアア!!
「クソドラゴンがッ!!」
「痛ェ!?」
私の渾身の放り投げで、ついに奴は吹き飛んだ。
玄関ドアが派手に割れたが、なに。こいつを懲らしめてやる事のほうが先決だ。
この度し難い浪費癖の持ち主のことを、私はよく知っている。
何度もパーティを組んだことがあるし、何だったら私の部屋に忍び込んできては食料を漁っていたのを目にしたことだってある。
そして、私が遠征から帰ってきたら、この阿呆が私の部屋で勝手に人を呼んで酒盛りなんぞをしていた事だって!
……それが今回の罪状だ! 今日という今日は許さん!
毎度毎度、私の好意を無碍にしおって!
さては貴様、私のことが嫌いだな!? そうに違いない!
「いってェな……ちったぁ加減しろよ! ゼルのバカ!」
「加減などしてやるものか! 酒場のツケを私に支払わせた事は不問にしてやる! この若造共も連れて失せろッ!! ドラゴンステーキにされたくなければ、二度と私の前に姿を見せるなッ!!」
「ちぇー……はいはい、わーったよ。おめーら、撤収しよーぜ」
隅で震えている連中が奴の掛け声に気づくまで、しばらく時間が掛かった。
さあ、片付けだ。
センネンユリの酒は、部屋の角にでも置いておくか。くそ……あのクソドラゴンめ、これは私の酒だぞ……。
ドアは惜しいが、あの騒がしい金食い虫(虫ではなく半竜人だが)を追い払うには必要な対価だったと諦めよう……。
長いようで短い付き合いだったな。
もとより、私の相棒は、この胃薬だ。
野良でパーティを組んだ相手から「神経質すぎる」「なんでそこまで気にするの?」「気配りは嬉しいが、些かやり辛い」などと言われようが、私は私自身の目についたそれへの衝動を我慢する気は毛頭ないのだ!
ムッ! 額縁が右に15度ほど傾いている気がする……!
手を添えて、そっと直す。ゆっくり、ゆっくりと。
「ふむ。完璧だ」
片付けが終わって、コーヒーで一服している間の静寂が耳に痛い。
「ああ、そうなのか……」
孤独とは、こんなにも沈黙で溢れかえっていたのだな。
小鳥たちのさえずりも遠くの出来事でしかないから、私の周りは実質的に無音と表現して差し支えないだろう。
ガウス……貴様のいない時間は、なんとも寂し――
「――って、なぜ私が感傷に浸らねばならんのだ!!」
ふぅ……私としたことが、危うく情にほだされるところだった。
そもそもからして、奴は金銭の管理が杜撰すぎて、自分自身で窮地に陥っていたじゃないか。
自縄自縛で自業自得! 自己責任だ!
思い出せ、ゼルバート。奴との最初の出会いは如何様なものであったか!?
……そう! 奴は博打でスッて素寒貧になり、三日三晩まともに飯も食えず、それゆえ路地裏から私の目の前に現れて倒れた!
倒れた理由を、食事を与えた後に聞き出してみれば「優しそうな人を見つけて安心した」――だったのではなかったか!?
アレはどう考えても私にタカる気満々だったじゃないか……!
くそ、失敗した! あの時、あいつを見殺しにでもしておけば……しておけば……!!
しておけば、それはそれで味気ない毎日だったのかもしれんな……。
基本的に、他人との距離を取りたがる私の事だ。
ガウスのように、ああもグイグイと首を突っ込んでくれば、基本的にはお断りする。
然るに、食事の幅も今ほどには広くはなく、間違っても屋台通りで買い食いなどしなかっただろう。
酒も博打も当然、手出ししなかったに違いない。
部屋に私物なんて、数えるほどしか無かっただろうし、さぞかし掃除も楽だったに違いない。
贅沢など、何一つしようとはしなかった筈だ。
依頼を片付けて健康的な食事を摂り、余暇を用いて勉学に励み、休息は最低限で済ます。
そんな、およそ人間的とはとても言えたものではない生活だった。
その一方で人と接する時はいつだって善人として振る舞おうと努めた。
目敏い者たちには「お前は人間ぶろうとしているだけの冷血漢だ」などと言われもしたか……。
ずいぶんと変わってしまったな、私も。
とはいえ……。
ガウスさえ来なければ、怪しげな骨董品の地図を見せびらかしてきたあいつに付き合わされて、数百年前に盗掘されたきりのダンジョンに潜ったりして、そこを根城にしていた山賊と一戦交える事も無かった筈だ。
本当に碌でもない話だった。
結局、宝なぞ手に入るはずもなく、また山賊の正体も、解体された亡国のお抱え傭兵団だったのだから。
しかも連中、まだ落ち延びて間もなく、物資も潤沢にあったから、全盛期に程近い実力を発揮されて、死にそうになりながら逃げ帰ったし、その後も刺客を差し向けられて……
なんとか壊滅に至らしめはしたが、総合的に考えて碌なものではなかったことは間違いない。
……やはり、あいつは私の事が嫌いなのだな! うん!
貫禄も出てきてそこかしこから縁談が舞い込んでいる私に嫉妬して、嫌がらせをしてきたに違いない!
案の定、ある程度したら縁談もピタリと止んでしまった。
危険な放蕩者とつるんでいると思われて、皆して警戒しているのだろう。厄介な風評被害だ。
良かったな、ガウス! 貴様の目論見は大成功だぞ!!
「駄目だ……気が滅入る。これでは胃薬が幾つあっても足りん」
冒険者ギルドで、何かしらスカッとする依頼でも受けてみよう。
そう思って足を運んだ、のだが。
「……何? 依頼が無い、だと?」
愕然とする私に、受付の少年は申し訳なさそうに俯く。
「はい、それが……貴方様のお連れのガウス様が、短時間で全部、終わらせてしまわれまして……現状、最後の一つをお受けになられている所です」
なるほど、それで周りの視線が私に?
確かに褒められた行動ではないな。冒険者にとってはギルドにある依頼書が飯の種、つまり生命線となる。
依頼の範疇であれば暴力的な行為もある程度は許容されるのだ。たとえばモンスターの討伐など。
だがそれが根こそぎ片付けられているとなると、仕事が無くなってしまう……。
とはいえ! 離縁した以上、私が責められる謂れは無い!!
頼むから、金を出せなどと言ってくれるなよ……。
「……」
しかし不思議と、責め立てるような視線ではなさそうだ。
「ゼルバートさんは、ほら、苦労人だから……」「うちらがピンチの時はよく身体はってくれたし……」
「あの悪ガキに嫌がらせでもされたんだね? いや、大変だね……」
……保護者だと思われているな、これは! しかも、間違いなく気を遣われているぞ!
これは却って恥ずかしい。私は何と矮小な事を……。
だが、離縁は離縁だ。
ここは聞えよがしに反論してやるとしよう。
「諸君らには、かつての連れ合いが迷惑を掛けた。しかしあいにくだが、奴とは縁を切ったのだ。仮に批難するならば本人に頼む」
「は、はぁ……」
なぜそこで訝しむ!?
そんなに仲睦まじく見えるのか、私とあいつは!?
くそ、胃痛が酷くなってきた……!
「……水を、一杯だけ頂けるだろうか」
「あ、あのぅ……また胃薬ですか? あまり頻繁に服用されるのは、如何なものかと……」
「気にするな。私はもう諦めた」
しかし、参ったな。暫くは依頼が舞い込んでくることは無いだろう。
となると、取りうる選択肢は一つだ。
「……隣町のギルドを当たってみるよ」
森林浴でもしながら、暫し物思いに耽るとしよう。
幸いにして、今は横から尻尾で撫でられるような事も無いのだからな。
考え事に余計な刺激が加わっては困るというものだ。
かといって、あいつはいつも私が部屋で熟考していると外に引っ張り出そうとしていた。
昼下がりの森林は、木漏れ日が優しく降り注ぐ。
石畳で作られた街道には人通りも無く、まさしく絶好の物思い日和(?)だった。
だが、平和はそう長くは続かなかった。
「ククッ……のこのこと従者もなしに散歩とは、マイツフェルト家の坊っちゃんはよっぽど腕に自信がお有りのようだなぁ?」
聞き覚えのない、野卑で、それでいて粘つくような声。
頭上からか?
「不意打ちなら、声を掛ける前にすべきだったな!」
私は剣を鞘から抜き放ち、声のする方角目掛けて雷撃を飛ばす。
しかし、声の主は別の方角からやってきた。
「愚か者め。何処を狙っているんだ? ククッ」
「な、何ッ――」
――ゴッ
頭に響く鈍い音。私の意識はいとも容易く途切れた。
気を失う直前、私は遠征帰りでまだ一睡もしていない事を思い出した。
我ながら迂闊な真似をしたものだ。せめて仮眠のひとつでもしておけば、こうはならなかったろうに。
ああ、酒に強くなろうと思って買ったセンネンユリの酒……まだ飲んでいなかったな……。
―― ―― ――
オレちゃんはチョームカついていた。
何故なら今日は、オレちゃんを拾ってくれた記念日からちょうど5年だから盛大な記念パーティをしようとゼルの家で待っていたのに、追い出されたからだ。
しかもあいつが戸棚に隠してあったクソ高いセンネンユリの酒だって、一緒に飲もうと思って一口もつけなかったってのに、なんであんなにキレるかね?
イライラするから、腹いせに地元の冒険者ギルドの依頼を全部片付けちまった。
ンで今は、その帰り。
空を飛べるのは人間さんじゃ味わえない便利さだろうね。
ま、この夕焼け空のキレイな赤みに比べて、オレちゃんの気分はドンヨリしてるけど。
あーあ……せっかくの記念日が、こんな形で終わろうとしてるなんてねぇ……。
一緒に飲む酒の楽しさを、もっと教えたかったのにさ。
オレちゃんが行き倒れて出会った時も内心「しみったれたツラしたオッサンだなー……もしかして誰からも相手にされてないんじゃ」とか思ったし。
人間の常識にも竜のしきたりにも馴染めなかったオレちゃんを、なんやかんや言って構い続けてくれたのは、後にも先にもあのオッサンだけなんだよな……。
あの時はほんっとヤバかった。
山賊ボコって巻き上げたカネで博打するくらいしか、稼ぎようが無かったもんな。
でも、ゼルは……きっとオレちゃんにカモ扱いされてると思ってるんだろうなぁ~。
アイツ、いっつもオレちゃんが何か言うたびにガミガミ言ってくるし。
きっとオレちゃんの事、嫌いなんだろう。
だから別れて正解。せいせいするね。
「……っ」
うがああああ! なんでオレちゃんが、こんなセンチメンタルな気分にならなきゃいけないんだ!
そりゃあアイツはさ、老人の荷物を代わりに持ってあげたり、迷子を親に届けてあげたり、病人の為に格安で薬草の捜索依頼を受けたり、とにかく善行っていうの? そういうのをたくさんやっているよ!
そのたんびに「此処はこうするのだぞ」なんて得意げに教えてくる所がサイッコーにムカつくけどな!!
うるせぇやい、こちとら竜の里じゃあそんなの全部「弱いのが悪いそのまま死んで餌にでもなれ」で片っ端から見捨ててたよ!
かくいうオレちゃんだって、それで放り捨てられたうちの一人だからな!!
人間の街に紛れ込んだところで、人間の常識なんて誰も教えてくれなかった!
見て盗んで学ぶだけ……奴らの言う『弱肉強食』というところは、里に居た頃と何一つ変わっちゃいない。
オレは……またあの生活に逆戻りするだけだ。
……はぁ、アホらし。帰ろ。
「うーす、ただいまー。おしごと終わったから、おカネちょーだーい」
洞窟タコの討伐部位である胴体を、ずだ袋から取り出す。
ギルド受付のガキは、全て数えてから銀貨袋をオレちゃんに差し出した。
「そういえば、ゼルバート様が縁を切ったと仰っていたのですが、事実でしょうか?」
「あ? うん。そーだよ。なにアイツ、ここに来てたんだ?」
「依頼がもう無い事をお伝えした所、胃薬だけ飲んで行ってしまわれましたが。なんでも、隣町の冒険者ギルドに行くとか」
「ふーん」
アイツ、オレちゃんと同じように冒険者ギルドで依頼を受けようとしたのか。
……はぁ。
ばっかじゃねーの。
遠征帰りでお疲れなんだから素直に寝とけっての。
いくら騎士の称号持ちつっても人間で、オレちゃんみたいにタフじゃないんだからさ。
此処で言う隣町は一つくらいしか無い。歩きでも数時間で辿り着ける場所だ。
なにせ他に冒険者ギルドのある街は、馬車でも数日掛かる。
ちょっと様子を見てみるか。
だって寝不足で倒れられたら、オレちゃんが悪いみたいで嫌だし。
……で。
「来てない? なんで? ド田舎なんだから、冒険者なんて数える程しか来ない筈じゃん」
「どうしてと仰られてもですな……見ていないものは何とも」
「ふーん……」
なんか、変な胸騒ぎがするな。
家に帰ってみるか。
「――ッ」
帰る?
なんでアイツの家に帰るなんて発想が、オレちゃんの中にあるんだ?
けれど。
あの家にゼルと一緒にいると、なんだか安心するのは否定できない。
立てかけてあったドアを外して、部屋へ。
「――ゼル!?」
いない……キレイに片付いた部屋は妙に寒々しくて、それが何か不吉な感じがした。
街中、あちこち飛び回った。
ゼルとの顔馴染みには片っ端から声を掛けて、ゼルがいない事を伝えた。
一晩掛けても見つからなくて、オレちゃんは山を飛ぶ事にした。
オレちゃんは人間と違って、暗闇でも目が利くからね。
もちろん、下手に呼びかけたりはしないし、飛ぶときも音を立てたりはしない。
何故かって、アイツは一人で山を登らない。だから山に用事がある時は、絶対にオレちゃんが隣に立った。
……朝になったら、死体で発見されたりするのかな。
嫌だなぁ……こっちもついカッとなって色々と言っちゃったけど……やっぱり、あんな喧嘩別れが最後なんて、悲しすぎる。
「――ん?」
なんか遠くで光ったような気が……ちょっと気になるから行ってみるか。
廃村……にしちゃあ、誰かが暮らしている感じもする。
それに、人の匂いが……あれ?
これ嗅いだことある匂いだけど、どこで嗅いだんだっけな……。
更に進んでみると、今度は声が聞こえてきた。
あの建物か……上手く布で明かりを隠しているつもりらしいけど、オレちゃんの目はごまかせないぞ。
「明日には作戦を決行する。縛り上げたこいつを人質に、王都にカチコミを仕掛けるぞ。それまでに死なせるなよ」
「ですがボス、武器はどうするんです? そこのバカが掲げて雷に打たれて伸びちまいまったし、実は相当危ない武器なんじゃ……」
「危ないが、そいつは高値で売れる。手元に置いとこう」
な、な……何を……何を……!!
「何をしやがるテメーら!!」
――ボゥンッ!!
爆風のブレスで、扉ごとブッ飛ばした。
どうだ、賊共め!
「ほう、ほう! 喧嘩別れでもしてくれたのかと期待していたが、大した忠犬ぶりじゃないか……やれ!」
「応!」「でぇりゃあ!」
賊共は次々と、瓦礫を蹴飛ばして出てきた。
あ、そういえば、ゼルは!?
「ゼル、無事か!?」
「ああ無事だよ、貴様の粗相にはもう慣れた……」
部屋の中心で転がった荷台から、ひょっこりと顔を出した。
良かった、無事だ……!!
両手両足を縛られているし、シャツとズボンだけで鎧を着ていないけど、とりあえず生きてる! 生きてる、やったー!!
「ゼル、会いたかった!!」
渾身のハグ!!
「や、やめろ! まずはせめて、周りを安全にしてからだな!?」
「ああ、そういえば」
攫っていったクソ野郎共が、まだピンピンしてるんだっけか?
「よくもオレちゃんのゼルを……テメーら全員バラバラに引きちぎって明日の朝飯にしてやるからな!!」
「ガウス! 色々と語弊のある言い方はやめろ!! 私は貴様のものになった覚えはない!」
「知ら、ねー、よっ!!」
――ゴッ、ブジュウッ
殴ったり引っ掻いたり蹴飛ばしたり、それから燃やしてみちゃったり。
久々に本気で大暴れしていたら、廃屋のボロっちい壁なんてあっという間に粉々だった。
「ガウス! ガーウス!! 縄をほどいてくれ! あと、私の剣が見当たらん!!」
「明かりが欲しいなら早く言えよな!」
大暴れして壊しちまったよ!
――ヒュゴォオウッ
炎のブレスで家財を派手に燃やして、明かりを作る。
ついでに縄をちぎって自由にしてあげた。
「すまん、助かる」
「鎧はいいのかよ?」
「……良くはないが、着ている余裕が無い。それより、山賊の無力化を図るぞ」
「あーいよっ」
――フシュッ、キィン
あちこちから飛んでくる矢を、二人で弾き飛ばした。
まぁね、こっちは火の近くだからよく見える的ってワケだ。
いつまでも狙われ続けるのは癪に障るし、順番にブッ潰してやろうじゃないの!
「ゼル! そっちいった!」
「言われずとも見えている!」
ホントかよ……あ、ちゃんと足払いした。
殺さないのが甘いよなぁ。
こういうのはボスひとり残せばオーケーだろうに、変なところ真面目なんだから……。
「そこだァ」
床下から!? くそ、掴むなよ!?
「ふんっ!!」
――ゴチンッ
ゼルがスライディングで蹴飛ばして、何とかなった。
「サンキュー」
「集中しろ」
へいへい。
数分後。
さて、あらかた伸してやったか?
「動くな! こいつの命が惜しくないのか!?」
「なッ、てめ……!!」
振り向けば、木の上から飛びかかってきたボス格が、ゼルの首にナイフを突き付けていた。
「こいつは王国でもひとかどの実力者……無力化して人質にした時点で我々の能力は証明され、また交渉のカードとしてはこの上ないものだったが……もはや成就も儘ならぬと来れば、此処で使うのみ! 国境までは見逃して貰うぞ……」
「……なんでそんなん付き合わなきゃいけないんだよ。アンタにオレちゃんの何が解る?」
「な、何……!?」「ガウス……お前というやつは……」
なんで二人してショック受けてんだよ!
特にゼル……アンタはもっとこう、さ、土壇場でシャキッとしてくれよ!!
「こちとら5周年の記念日をまともに祝えてなくてイライラしてんの!!」
――ビュンッ
一気に距離を詰めて、ナイフを持った手を引っ掴む。
「いやオレちゃんのダーリンに手ェ出されて、やすやすと“どうぞお使い下さい”なんて言える? 無理っしょフツーに考えて……燃やすよ? いいの?」
「くッ……負けた……」
――ビターンッ
地面に叩き付けて、後ろ手に縛ってフィニッシュ。
「片付いたかな?」
「さあな」
じゃ、遠慮はいらないね。
尻尾で一度抱き寄せてから、押し倒して頬ずりした。
「――なッ!?」
大切なダーリン。オレを半端な怪物から、人間にしてくれた。
「探したんだぜ。みんなにも声掛けてさ。せっかくの5周年の記念日を、あんな、喧嘩別れで終わらせたくなかった」
自然と泣けてくる。
頭に、ぽんと手が置かれた。ゼルはオレの頭を撫でてくれた。
「私もだ。冷静に考えてみれば、貴様に教えられた事は幾つもあった。多少の素行不良は、まあ……これからゆっくりと認識の摺り合わせをしよう」
「うん……」
この底なしの優しさが嬉しくて、オレは独り占めしようと、そこいらの縁談を蹴ったんだよな……。
だってアイツら話を聞いてみりゃあ、ゼルの家柄と功績しか見てなかった奴ばっかりだったし。
そんな連中にゼルを取られてたまるかよ。どうせくだらないシキタリとかでガンジガラメにするだろ。
ただでさえゼルは寝不足気味なんだ。胃薬の量を増やされちゃたまったもんじゃないや。
なあ。ゼル、知ってるかよ?
尻尾で撫でるのって、オレちゃんの種族じゃあ求愛行動なんだぜ。
「ガウス。その……つまみ出したりして悪かったな。少し、神経質になりすぎた。どうにも視野狭窄気味で、自分のことしか見えていなかった」
ゼルは……バツが悪いと、クセが出る。
決まって人差し指の第二関節辺りを顎に当てて、斜め左に顔を向けるというクセだ。
ちょうど今、こうしているみたいに。
「こっちこそごめん。オレちゃんもサプライズの方向性がちょっとアレだった」
「もう少し、会話をしていきたいと思う。きっと私は、お前の事をまだよく理解できていないのだ」
「じゃ、ここでえっちしよ」
あ、露骨に嫌そうな顔。
「……そこでそういう発想になるから、お前はいつまで経ってもクソドラゴンなのだぞ」
「えー、なんでよー? いいじゃん、オレちゃんのチョーゼツ☆テクニックで天にも昇る心地だよ?」
「そ、そのような問題ではないッ!!」
「ひひひ。赤くなってやんの」
「やはり私の事が嫌いだな!?」
などとやっていたら、ランタンの灯りが行列でやってきた。
オレが声を掛けてきた人達だった。
みんなは辺りを見回して、それからオレ達を見た。
「お邪魔だったかな……」「ごゆっくり」「もう君達だけで充分じゃないか?」
「見せつけやがってこの野郎共、俺ぁー帰る」「山賊かわいそう」
なんて口々に言う。
「ご、誤解だ! 私は確かに囚われの身であったし、いの一番に駆けつけて助けに来たのが彼だったというだけであって、窮地であった事に間違いは無い!」
「オレちゃんが殆どやっちゃった。今からお祝いベッドインするから、山賊は片付けて。あと、良さげな酒を見繕ってもらっていい? ああ、それとゼルのサイズに合うネグリジェも――あ痛ッ!!」
「この、クソドラゴンが……!」
満天の星空にはちょいとばかり似合わない怒鳴り声が響き渡る。
周りには笑い声。けれど、不思議と嫌な気分にはならなかった。
そこにある暖かさが、よく解るから。
「……ガウス。帰ったらセンネンユリの酒を一緒に呑まないか。私では呑みきれる気がしない」
「あいよ。ゴチになるね」
アンタと一緒にあの部屋にいる時間が好きだ。
両片思いとかクソデカ感情とかに届かない……あのへん、難易度高すぎじゃないですか?
fgoのアマサリ界隈の重鎮の皆さまは普段何を食べてあの境地に至ったのでしょうか? 砂糖?