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私たちのこと

 私の名前はアリス。


 王都でもそこそこ有名なシャルル宝飾品店の長女だ。

 シャルル宝飾品店は、おじいさまが興した店で、今はお父様とお母様が経営している。ごく一部、貴族の注文も受けるが、基本的には、裕福な一般市民をターゲットにしている。何人かの職人もいるが、おじいさまとお父様は、自分でも加工を行う。


 お父様は、元は貴族の五男だったらしい。おじいさまが宝石商としてお父様が幼い頃から家に出入りしていた関係でお母様と仲が良かったそうだ。


「一緒に馬に乗ったり、花冠を作ったりしたの」


 とお母様も話していた。

 とにかくお母様が好きだったというのが一番の理由だと想像するのだが、もともと実家にたくさんあった宝石を見慣れていて、宝石に対して目が利いたこともあり、お父様はおじいさまに職人として弟子入りし、今に至るらしい。


「貴族なんていっても、長男、次男以外は、自分で食い扶持を見つけないと野垂れ死ぬのがオチさ」


 とのこと。でもその後、


「だが、おかげでエマと出会えたのは、私の最大の幸運だったな」


 といつもの調子で惚気ていた。


 お父様は、赤みがかった茶色の髪と金茶の瞳。眉も目も鼻も口も、顔のパーツはどれも大きく、性質通り、いかにも明朗快活な様子だ。ヒゲは蓄えていない。ほどよく筋肉のついた身体も大きく、普段着はともかく、貴族のお客様への御用聞きにうかがう時のよそいきの服は全てオーダーメイドにしないとサイズがないのが悩みらしい。


 お母様は対照的に小柄だ。薄茶色のふんわりとした髪と翠の瞳で、細身だが女性らしい柔らかい身体つきをしている。お父様と並ぶと、熊と栗鼠みたいな雰囲気だ。

 お母様は加工こそしないが、宝飾品に関する知識は豊富で、接客だけでなく帳簿の管理も行なっている。

 私たちには優しいお母様で、忙しいなかでも、時折ゲームをしたり、花冠の作り方を教えてくれたりする。


 私は、お父様譲りの赤みがかった茶色の髪と、お母様譲り翠の瞳。まだ8歳なので、髪もそこまで長くはなく、肩より少し下のセミロングくらい。一応看板娘らしく、ハーフアップにして髪飾りを挿すことが多い。髪色的に、赤系、黄色系、緑系など、似合う色は多い。だが青系は似合わない。

 顔立ちはどちらかといえばお父様に似ている。でも、私の鼻はあんなに大きくないし、眉毛も太くはないので、あくまでどちらかといえばだ。


 そして、クリス。

 私の3つ歳下の可愛い弟。

 両親が仕事で忙しいこともあり、もっと幼い頃から、ひなみたいにいつも私の後をついてきた。今では、お互い、一番の遊び相手だ。

 まあ私も去年から家庭教師による勉強があったりするのだけど、そういう時も同じ部屋の隅でおとなしく本を読んだりしている。(でも私が宿題で困ってると、適切なアドバイスをくれる。もしや、全部理解しているのではと戦慄したが怖くて確認していない)

 色合いは私とは逆に、お母様譲りの薄茶色の髪と、お父様譲りの金茶の瞳だ。おじいさまに似た切れ長の目で、笑うと三日月を並べたような糸目になる。

 素直で愛らしいけど、時々、タラシの片鱗を見る。


 たとえば、イレーヌ様というお客様がいる。彼女は茶葉を中心に取り扱っているお店の奥様らしいのだが、初めてお会いした時にクリスが


「お客様は、とても良い香りがしますね」


 と言ったのだ。5歳なのに、「におい」ではなく、「香り」。

 人に、それも女性ににおいのことを言うのは、本来あまりよくない。だけど、幼い故に許される無邪気さがある。イレーヌ様が家業に誇りを持ってらっしゃったのも良かったのだろう。面白そうに眉をあげて笑ってらした。

 それ以来、クリスがお気に入りなのだ。


 そのイレーヌ様が、普段使いのブローチをお求めになられた。真珠とダイヤをあしたらった、葉っぱをモチーフにしたデザインのものだった。ただ台を白金のものと金のものから選びあぐねてらした。イレーヌ様は戯れにクリスに意見を求めた。銀は、湿気に弱いので、除外された。

 クリスはまず


「どちらもお似合いですよ!」


 とにこにこと褒めた。ここまでならきっと私にもできた。問題はその後だ。


「イレーヌ様のお店のお茶は、金色の缶にお茶の葉のモチーフが描かれたものだから、お店でつけるなら金の台の方が統一感があっていいかもしれません」


 イレーヌ様のお店のお茶缶なんて私は知らない。ましてや「統一感」とか。


「まあ!そうね。私もそう思っていたのよ」


 イレーヌ様は、大変満足そうに金の台のブローチをお買い上げになって帰られた。


 クリスは、お客様がいくつかの商品の中から選びあぐねているとすると、お客様が一番欲しそうにしているものを見抜いて、それを上手に後押しする。もちろん、まだ幼いクリスに冗談でもそんなことを聞くお客様は少ない。でも、少ない機会でも、問いかけられた時には必ず、一番似合いそうではなく、一番欲しそうなものを勧めるところがすごいと思う。

 髪や目の色に合うとか、そういうのは、誰にでも言える。でも以前に店にいらした時に着てた服に合うとか、前につけていた別のジュエリーと合わせると良いとか、そういう、細かく相手を見ていますよというのが、こう、なんとも言えず女心をくすぐるのだった。

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