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家族の反応

 2.


「アリス、クリス?」


 柔らかい声とともにドアが開いてお母様が部屋に顔をのぞかせた。そのまま、ポカンと立ち尽くす。


 仔馬は相変わらず縦横無尽に跳ね回っている。

 私はクリスのぷにぷにしたほっぺをつっついた。


「クリス、これっていつまで続くの?」


「わかんない」


「だよねぇ」


「何か他にも出る?」


「うーん……」


 クリスは、ぎゅっと胸の前で拳を握りしめる。顔に力が入っているのか、みるみる顔が赤くなる。頭から湯気が出そう。

 魔法を使えない私でも、それは何か違うと思う。

 ぷしゅっと拳から細い煙のようなものがたなびいてるような気がしたが、クリスは眉を下げた。


「出ない」


「そっか」


 やっぱり、クリスの魔法ーー多分魔法と言っていいと思うーーは、宝石を食べたことと関係あるのだろう。


「おおっ!大胆な模様替えだな!」


「いいえ、旦那様。絵は動きません。これはおそらく魔法でございましょう」


 朗らかな声とともに姿を見せたのはお父様だった。冷静なツッコミは執事のヨハンによるものだ。


「魔法か!アリスか?クリスか?なあエマ、きれいだな!」


 感心したように言いながら、バンっとまだ固まっているお母様の背中をたたいた。

 お父様……。そんなだからデリカシーがないって言われるのよ!

 まあうちのお母様は気にしてないみたいだけどさ。

 お母様は、ハッと正気に返るとお父様と目を合わせた。とろけるような笑みを浮かべて、そっと、腕を絡ませる。


「ええ、アーサー。若い頃いっしょに遠乗りに出たことを思い出したわ。見て、あの仔馬の楽しそうなこと」


「うむ、良い魔法だな」


 すっかり二人の世界に入ってしまった。

 ヨハンがコホンと咳払いすると、私たちの前に膝をついた。


「それで、お嬢様と、おぼっちゃと、どちらの魔法でございますかな?」


 クリスがちらっと私を見ておずおずと手を挙げた。


「ぼく」


 ふと目をあげると、部屋のキラキラはどんどん薄くなっていくところだった。


「クリス、消えそう」


「本当だ」


 ふわっと光の粒は空気に解けるように見えなくなった。


 みんなが余韻にひたるなか、私は、クリスの両手を持って頭を下げた。


「クリス、ごめんなさい」


「お姉ちゃん?」


 クリスは、不思議そうに首をかしげる。

 私は両親にも頭を下げた。


「お父様、お母様、ごめんなさい。

 私、その、ほんの出来心で、クリスに宝石を飴だと偽って食べさせてしまったの」


「まあ!」


 お母様が少し怖い顔をした。


「喉を詰まらせて死ぬこともあるのよ。いたずらは選ばないと」


「はい。ごめんなさい。気をつけます」


 私は素直にうなずく。お母様も鷹揚にうなずいた。いたずら自体をやめさせようとしないところがお母様の良いところだ。


「それで。それが……というか、口に含めばすぐに気づくだろうと思ったのだけど」


「しゅわって溶けて、おいしかったの!」


 嬉しそうに告げるクリスに両親が困惑する。

 私は、宝石の盛られた木箱を手に取った。


「これ、お父様が、それぞれ何の宝石か調べるようにって私に出した宿題の石。実は、一部飴だったりしないよね?」


 お父様は、吹き出しそうになり、無理に神妙な顔を作ろうとして、結局情けない笑顔になった。


「いや、流石にそれは。商売に関することについては、真面目にやってるさ」


「じゃあ、やっぱり本物の宝石なんだ」


 私は、クリスを見る。クリスは、キョトンとしている。


「宝石……もう食べちゃだめ?」


 お父さまは、クリスの薄い茶色の髪をわしゃわしゃと撫でる。


「クリスがさっき食べたのは赤いので、たぶん……レッドスピネル」


 お父さまは口元を綻ばせた。正解だったらしい。


「ルビーじゃなくて?なぜ?」


 ルビーとレッドスピネルとでは屈折率が違う。


「まだちゃんと調べてなかったから、勘としか」


「ふむ。正解。まあ勘は大事だよな。さて、アリスとクリスの話を総合すると、クリスは宝石を食べてあのキラキラを出したと」


 お父様は、ポケットから、5mmほどの小さなかけらを取り出した。


「これは、さっき加工してた時にできた宝石屑だが……アリス、何だと思う?」


 ほんのり黄味がかった透明な緑。


「……ペリドット?」


「そう」


 お父さまは、満足そうにうなずく。


「なんだ。家庭教師から計算に手こずってるって聞いてたけど、よく勉強してるじゃないか。えらいぞ」


 お父様が私の頭を撫でる。ちょっと嬉しい。でも計算が苦手なのは事実なので、気まずくもある。


「クリス。これを食べて……そうだな。前に小鳥を飼いたがってただろう?お前の手に乗るくらいの小鳥を出してみてくれ」


 お父様は、宝石屑をぽんっとクリスの口に放り込んだ。


「おいし〜い」


 うっとりとした様子のクリスからゆらりと陽炎が立ちのぼり、ぽんっと光が集まったかと思うとキラキラした小さな小鳥の輪郭が現れた。

 宝石の色や種類は関係ないのだろうか。同じように、虹の鱗粉のような色合いだ。


 思わず手を伸ばすと、舞い降りてきた。重さも熱も感じないけど、動きが愛くるしい。

 まるで生きてるみたいにつんつんと、私の手のひらをつついて、また飛び立った。

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