はじまりはいたずらから
初投稿です。設定や世界観が甘いですが、よろしくお願いします。
1
四角くカットされた透き通った赤。コロンとした形の黄色。ひし形に輝く鮮やかな緑。
木の箱に白い布を敷いて盛られたそれらは、まさに美味しそうな飴そのものだった。
隣でテーブルの端に手を乗せて、まだ小さな体をうんと伸ばして覗きこむ弟は、今にもよだれを垂らしそう。
「きれい、美味しそう〜」
なんて言って金茶の目をキラキラさせている。
弟のクリスは、姉である私の影響か、きれいなもの、可愛いものが大好きだ。
だから、ほんの出来心だった。
私は、赤いひとかけらを摘んで、クリスの口の前に運んだ。
「そう。実はこれ、キャンディなの。食べてみて」
クリスは、目を瞬かせ、パクリと私の指ごと口に入れた。
その瞬間、ふっと私の指先は宝石を見失った。慌てて指を引き抜いてみるも、もちろん何もない。
クリスはもともと細い目をさらに細めてくしゃっと笑った。
「わー、口の中でふわって溶けたよ。綿飴より、もっとふわっ、さらってしてる。すごく美味しい!」
わけがわからない。
これらは、宝飾品に加工する前の宝石のはずだった。
私は、黄色い石を持ち上げてためつすがめつする。ひんやりと冷たくて、手で持っても飴のように熱でべたべたしてくることもない。試しに舐めてみるが、もちろん甘くもない。
舐めたものを戻すわけにもいかないので、ハンカチを取り出して、その上に置く。
まさか赤いのだけキャンディだったとか?この家でそんないたずらをするとしたら私しかいないが、もちろんやってない。
では、クリスが?
でも、口に含んだ瞬間、煙のように消えたのだ。もちろん、バリバリと噛み砕く音もしなかった。普通なら飴でもありえない。
「クリス、口を開けてみせて」
クリスは不思議そうに従う。歯と舌と、普通の口の中だ。舌にも歯にも飴も宝石もついてない。舌の下に隠してるということもなさそうだ。
ということは、消えたと思ったのは勘違いで、やっぱり飲み込んじゃった?!
私は、ばっとクリスの肩に手を置く。
「クリス!あんた息苦しくない?宝石飲んじゃったんでしょう?!」
「え?宝石?飲んでないよ。あれ、やっぱり宝石だったの?宝石って美味しいんだね」
「ねぇ、気分は悪くない?大丈夫?」
どうしよう。
お母様を呼んでこなくては。
私は泣きそうになりながら、クリスを揺さぶった。
クリスは、なすがままだ。もともと穏やかな気質だが、今日はより一層、ぽやんとしてる気がする。どこか夢見心地のクリスの金茶の目が怪しく光る。
「気分……気分は、こんな感じ!」
クリスから何かが飛び出した気がした。
部屋中に小さな虹がたくさんかかる。それを一頭の仔馬が楽しそうに駆けまわる。色合いは全部虹を砕いて粉にして、スパンコールを散らしたみたいなキラキラ。白い壁によく映える。
馬が目の前を通っても実体はない。風も温度も感じない。ただ見た目だけ。
ああ、でも、なんてきれい。
焦り心配する気持ちが落ち着いて、わくわくドキドキしてくる。
「すごい!クリス、すごいね!」
私たちは、しばらく陶然とその景色に見入っていた。