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第6話 人の形をした殺戮兵器

「やっぱり戦闘の音だったか」


 遠くから聞こえていた喧騒は近付くとだんだん戦闘音だとはっきり分かるようになってきた。

 どうやら戦闘している場所は広場で行われているようだ。


 先ほどの腕力が強化? されていたのもそうだけど、視力も強化されているっぽいな。目を凝らさなくても以前とは考えられないほど遠くのものがよく見える。

 戦闘についてはいくつか予想していたがやっぱり人間と魔物が争っている状況だった。


 人間の方は村人っぽい粗末な服を着た大人が今にも壊れそうなボロボロの武器を手にゴブリンや豚のような魔物のオーク、他には狼や猪等の獣系を相手にしている。


 戦闘が始まってからそれなりの時間が経過しているのだろう。門の付近には大量の魔物の死骸と数体の村人の死体が横たわっており、壮絶な戦闘が繰り広げられてきたことが伺えた。


「魔物で一番多く見えるのは――ゴブリン、か。」


 さっきぶっ飛ばしたゴブリンの強さを考えるとそれほど苦戦する相手には思えないがいかんせん多勢に無勢すぎる。

 明らかに魔物の数は多く、村人達の人数は少ない。


 始めは門の外で戦っていたのだろうが門の内側まで押されていることや手持ちの武器や目に見える疲労感を考えると遠からず魔物側の数の暴力によって人間側が全滅するだろう事は容易に予想出来た。


 ………クン


「ん?」


 ふと身体に違和感を感じた。

 さっきゴブリンをぶっとばす前に感じた歓喜に近いものが身体の中を通り過ぎたような気がした。


 前方の戦場全体を見回すと魔物達の中に一際大型の、燃えるように赤い魔物が一体いる。

 それを相手にしているのは村人のような粗末な服ではなく、金属や革の鎧等のそれなりに武装した人間が数人がかりで戦っているのが見えた。


 戦っていると言っても味方の被害を増やさないように牽制しながら無理な攻撃はせず防御に徹している、というよりも抑えるので手一杯な様子。

 どう見ても大型の魔物の方が優勢だった。


 門には大きな力で破壊され焦げた形跡があるので多分あの赤い魔物が門を破り、村人側の戦力の主力を受け持ちつつ、ここまで押し込んできたのだろう。

 あの赤い魔物がいなければ、多少魔物数が多くても何とかなっていたかもしれないな。

 ……ま、推測でしかないが。



 そんな事を考えながら駆け出したい気持ちを押さえつつ、更に歩く速度を上げる。広場の入口に到達すると横手に後方支援を行っていたと思われる拠点らしきものを見つけたので迷わずそちらへと足を向ける。


 申し訳程度の防護柵に囲まれ、負傷者が辺りに寝かせられていると言うことは、ここが最終防衛拠点なのだと思われる。

 前線が瓦解したらここで寝ている人たちは漏れ無く魔物達に蹂躙されるだろう。

 最早戦力としては期待できなさそうな人達の中に一人、紫色の髪の少女が必死の形相でそれらの人達を懸命に手当てをしていた。


 防護柵近辺に負傷しながら魔物を警戒している人が二人いるけど、さすがにその人達に話しかけて邪魔するわけにはいかないよなぁ。そうなると必然的に手当てしている少女に話しかけるしかないか。

 ま、負傷者を手当てしているくらいだからこの女性(こいつ)のことも大丈夫だろう。


 そして女性を抱えながら紫色の髪の少女の方へ向かって行く途中、紫色の髪の少女の視線がたまたまこちらへ向き、俺が視界に入ったようだった。

 こちらを見つけるや否や一瞬目を大きく見開き、なんと向こうからこちらに走り寄って来る。


「フィー! フィーじゃないですか!? どうしてこんな大怪我を? 避難所にいたんじゃないの? あそこにいればこんな怪我負わずに済んだのに……。あっ、すみません、あなたが彼女――フィリスを助けてくれたのですか? ありがとうございます」


 お、よかった、言葉は通じるようだ。これが異世界補正……なのかわからないがひとまず安心だ。


「まあ俺にもよくわからないが、結果を見ると助けたってことになるのか? ……ところであっち側、なんか凄く苦戦してるみたいだが、面白そうだから俺も混ざって来ても良いか? とりあえずここにいる人間達が味方で、あの魔物達が敵、って認識でいいか?」


「えっ? と、はい、それで大丈――、でなくて! この非常時に何、ふらっと遊びに混ざるみたいな言い方しているんですか!? だめに決まっているじゃないですか!? 第一貴方、武器も何も持ってないですよね!? そんな命を粗末にするようなこと、私は見過ごすなんで出来ないですよ!」


 フィリスと呼ばれた女性を紫色の髪の少女へと引き渡しながら俺の要望を伝えてみると一瞬だけキョトンとしたがすぐに激しく反対された。


 さっきのゴブリンがゴブリンの中でも弱い方だとしても問題無い程度の相手だろうと思う。一対多数には慣れている。いや、慣れ過ぎている。

 そして何より、この身体の奥底から滲み出てくる『うずき』をそろそろ抑えられそう(・・・・・・)に――ない 。


「……えっ!?」


 俺の顔を見つめていた少女が顔を驚きに染め、腰が抜けたようにヘナヘナと地面に座り込んだのが視界の隅に入った。


 まあ、そうだよな。


『ただでさえ目付きが悪くて悪人顔なのに笑うと恐怖が倍増するんだよ、響也って』


 なんてことを右京に教えてもらったのは記憶に新しい。

 一生懸命フレンドリーに接していたつもりなのにみんな怯えている理由が俺には分からなかった。

 多分、目の前の少女も俺の笑い顔を見て恐怖を――。

 ……ん、笑い顔?

 俺は自分の命を失うかもしれないこんな状況で笑っているのか?

 そういや、さっきのゴブリンも嬉しくて仕方なかったな。


「……そうだな、これは認めるしか、ねぇよなぁ」


 そんな事を呟きながら、ゆらりと戦場へ向かう。


 紫色の髪の少女が後ろで何か言っていたようだったが、とりあえず無視。参加しても問題はないだろう。

 どう考えたってこの状況、戦力は一人でも多い方がいい。


 それに先ほどのゴブリンとの戦いは正直、消化不良すぎた。

 目の前で命をかけて戦っている奴らの戦いぶりを散々見せられて、もう我慢の限界だ。



 まずは、一匹。


「くぅ、こいつらいったい何匹いるんだ! 槍も魔力もそろそろ限界が近そうだし、領主の騎士団は何しているんだよ! 【ファイアアロー】!」


 ボロボロになって今にも折れそう槍を振り回し、ゴブリン数匹を牽制しながら火球を放ち、苦しげに立ち回っていたおっちゃんの所へ乱入し、横合いからゴブリンの首を的確にフックで撃ち抜く。

 ゴブリンの首が吹き飛び、残った頭と胴体が重力に従ってドスンと真下に落ちる。


「……ま、いいか」


 またしても俺が予想していた以上の威力だったのでほんの刹那、思考が停止してしまったがすぐにこれも異世界補正という事でさっさと割りきることにした。


 ところで先程の攻撃は一対多数であまり余裕がないときの攻撃箇所でゴブリンを無力化しておっちゃんにとどめを刺してもらおうとしての攻撃だったのだが……。

 やばい、なんか愉しくなってきた。

 これは右京に戦闘凶だと言われても否定出来ないかもしれない。


 突然のことに呆然としているおっちゃんは放っておいておっちゃんの周りにいる他のゴブリンをさくっと掃討して次の獲物へ向かう。



 次に近くにいたのはボロボロの男女の二人組。


「行ったぞ! 【ソイルシールド】!」


「ん! 【ブリーズアロー】!」


 年格好が近いし、攻撃や防御のタイミングが絶妙でなんとか魔物の攻撃を凌いでいるけど……夫婦か? だが、さすがにその数倍のゴブリンや獣に囲まれてるからな、今のところ致命傷は無さそうだがじり貧だな。

 よく今まで耐えてきたもんだ。


 俺はその囲まれている夫婦の側面から参戦する。


 まずは女性の方を攻撃しようとしていたゴブリンの首を後ろからぶん殴り吹き飛ばす。

 直後、一匹の狼が飛び掛かってきたので最小限の動きで回避して空中にいる狼の側頭部を文字通り打ち抜く。


 仲間が殺られたのを見て正面から他の狼がニ匹飛びかかって来る。ニ匹が一直線になるような位置へと回避して、またもや空中でニ匹同時に拳で打ち抜く。

 その様子を見て怯みながらも襲いかかってきた奴等を次々に拳だけで仕留めていく。

 囲まれないように立ち位置を考慮しながら、この攻撃が次の行動に繋がるように流れるように一匹また一匹と確実に潰していった。


 瞬く間に二十数匹の魔物を倒すとさすがに他の奴等も戦場で起こっている異常事態に気付いたのだろう。

 俺の前方には周辺からの魔物が大挙して押し寄せていた。


「……ふ、ふふ、ははは、はーははははははっ!」


 殺気を駄々漏れにした奴等がこの俺を殺そうと向かって来やがる!

 ただの喧嘩でも愉しかったが自分の命をかけた殺し合い(やり取り)がこれ程までに愉しいとは思わなかったな!


「この感じ、(たま)んねぇな! もっとだ! もっと来い! もっと俺を、殺しにぃ! 来いやぁぁぁぁ!!」


 魔物の群れの中に飛び込み、本能のまま手当たり次第に拳を振るう。

 最早そこには当初心掛けていた一対多数の戦い方という考えは無くなっていた。

 傷を負ってもいいから一瞬でも早く、一匹でも多く魔物を殺すことに最適化した『人の形をした殺戮兵器』と形容できる存在しかいなかった。


「くははは、いい、いいな! あぁ、満たされる、心が満たされていくのがわかる! まるで魂が(たぎ)ってくるようだ! 滾る、滾る滾る滾る滾る滾るーーー! ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 思うがままの本能で身体が動く。


 思考する時間など不要。


 重要なのは一秒でも早く魔物を殺すこと。


 そして一匹でも多く魔物を殺すこと。


 最短、最速、最殺で魔物を始末していく。

 間合いに入った魔物は一瞬でその命を刈り取る。

 間合いに入っていなかった魔物もそれを詰めて数瞬で刈り取った。



 ふと気が付けば、俺は返り血でドロッドロだった。


 ……だがまったく気にならない。


 俺の周囲には魔物の死骸が山積みになっている。


 ……だがまったく気にならない。


 気になるのは、少し先の人間側で唯一まともな装備をしていた連中が相手にしている大型の燃えるように赤い魔物だけ。


「……足りない、()だ足()ない! もっと()! もっと寄越()!……あぁ(アァ)、そうだ居るじゃない()、美味しそ()なのがあそこ()ぃ!」


 大型の赤い魔物は初めて見たときからこれまで、ダメージが増えている様子がない。

 人間側は時間稼ぎが目的だったのか、それとも倒す実力がなかったのか、そんなことはもはやどちらでもいい。

 今、頭に浮かんでいるのは、


「……その(ソノ)獲物()寄越()


 ゆっくりと向かう。

 辺りには一面、魔物の死骸。

 一歩踏み出せば、ゴブリンの腕足を踏み砕き。


 一歩踏み出せば、狼の腹を踏み割り、臓物が四散し。


 一歩踏み出せば、オークの頭蓋を踏み抜き、脳漿が爆散する。


「お、おい! 後ろ、あれ!」


「ちっ、なんだよ! 集中し……ありゃ、ヤバいな。全員退避だ!」


 大型の赤い魔物を相手をしていた連中は俺を見つけるなり顔を青くして慌てて道を譲る。

 当のデカブツも相手が代わったことを理解したのか、その場で息を整え、まるで丸太のような腕を天高く掲げた。

 そして俺が魔物の死骸の絨毯を抜けてデカブツの間合いに入った瞬間、大人が膝を抱えて丸まった程度の大きさの拳が勢い良く最上段から降り下ろされた。


 辺りに重く鈍そうな衝撃音が響き渡るが振り下ろされた巨大な拳を俺は左手のみで受け止める。


「は? おい(オイ)おい、こんなもん(モン)か? お前の力はこんなもん(・・・・・)なのか(ナノカ)!?」


 美味しいそうな物や好きなものは一番最後に食べるタイプなんだが、こいつ(デカブツ)はハズレだ。

 なんだ、その怯えの混ざった気の抜けた一撃は?

 せっかく最高の一撃が出せるようにゆっくりと歩いてやったのに。

 これまでのゴブリンや獣どもの方がよっぽど攻撃に殺気が乗っていたし、必死な攻撃をしていたぞ?


「……はぁ、もういいや興ざめだ。お前、死ねよ」


 期待していたメインディッシュがハズレだった、という事実にこれまで高ぶっていた気力が抜けていった。

 だが、だからと言ってこいつを放置する気はない。


 受け止めた拳をそのまま掴むと俺の指が拳に食い込むがお構いなしに無造作に引き寄せる。

 いきなりのことにバランスを崩して半ば倒れるように向かってくるデカブツ。

 殴りやすい位置に殴って欲しそうな顔が来たので右斜め下より、顎に向かって腰の入った掌底を食らわせる。


 掌底をしっかり振り抜くも、何故か手応えはなかった。

 見ればデカブツの頭部が勢いよく回転して、終いにはネジ切れて飛んでいった。


「はっ、なんてこった! お前が今日一番の雑魚だったとはな、身の程を知れっ!」


 掴んでいたデカブツの拳を無雑作に投げ棄て、周囲を見回す。

 どうやら残っていた魔物は逃げたようで辺りには放心気味の村人達がいるだけだった。

 そこでようやく異変に気付く。


 ……あれ? 魔物達の襲撃を撃退出来たんだからもっと安堵の声とか撃退を喜ぶ歓声とか挙がるもんじゃないのか?

 こっちを見たまま誰も動かないし、この村の責任者とか一番偉いやつがなんかアクションしろよ、おい。

 ええと、これはいったいどうしたらいいんだ?


 おっ?

 俺が連れてきた女性――フィリス? だっけ? 目が覚めたみたいで起き上がってるな。さっきの紫色の髪の女の子も居るし、しゃーない、とりあえずそこに話をしに行くか。


 二人の女性の元へと歩く。

 その間にでも誰か他の大人が駆け寄って来ないかと期待したが誰も来なかった。

 二人の女性もまたその場から一歩も動かないのでほどなくして二人の前まで辿り着く。


 歩いていく短い間、こういう時はなんと言えばいいのか必死に考えたが他人とのコミュニケーション経験が少ない俺には気の利いた言葉は浮かばなかった。


「あー、なんだ、怪我は大丈夫か? 俺は鈴重 響也ってもんだ。宜しくな。立てるか?」


 そう言って、目が覚めているようだがいまだに座ったままのフィリスと呼ばれた銀髪の(フードを被っている)女性に向かって右の掌を差し出た。


 すると俺を見るなり、フィリスとやらのその目が見開かれていく。


「あ、貴方って――」

「っりがとうございますぅぅぅ!!」


 目の前のフィリスが何か言いかけたが、それよりも先に紫色の髪の少女が俺を押し倒さんばかりに飛び込んできたのだった。


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