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第3話 全く想定外

 

「ッラァ!」


 最後の一人をぶん殴る。

 なんともいい角度で顎に決まったらしく、まるで操り人形の糸が切れたかのようにズルリと膝から崩れ落ちる。


「ったく、おまえらも懲りないよな。俺には何をやっても勝てないんだからいい加減に諦めろってアイツに伝えとけっ!もしくは姑息なマネせずに全身でぶつかってきやがれってな!」


 辺りには俺に喧嘩を売ってきたやつらが数人倒れている。気絶している奴もいる。

 地面に倒れ伏したままではあるが意識が残っている奴がいたのでそいつに向かって最後に倒した『アイツ』を指差して言い放ち、俺はその場を後にする。



「やぁ、響也。まーた喧嘩? 響也も好きだねぇ」


 突然後ろから肩を組まれ、話し掛けられる。


 普段であれば、この様に後ろを取られるなんて間抜けな真似はしないが、近づいてくる足音やそのリズムからこいつだとわかっていたので好きにさせておいた。


「るせー、仕方ないだろ。いつも向こうが絡んでくるんだから。俺は売られた喧嘩を買っているだけだ。喧嘩を売られた以上、誰の喧嘩でも買う。それが俺を倒しての売名行為だろうと、復讐だろうと、純粋な挑戦だろうと、な。今のだって朝の通学途中で油断しているところを狙っていたみたいだけど、そう何回も来られると油断しないっての。右京からもアイツによく言っとけよ……あと暑苦しいからいいかげんに離れろっ」


「あー、はいはい。今日() そう言うことにしておいてあげるよ。あとしょうがないから僕からもアイツには一言言っておくよ」


 軽く腕を振り払う。

 やれやれと肩を竦めながらそいつは俺から離れ、俺と同じ速度で隣を歩き、何やら勝手に話し始める。



 俺は鈴重(すずしげ) 響也(きょうや)


 十七歳で伊空館高校二年生。身長は186cm。体格はいわゆる細マッチョ系だ。


 生来、目つきが極悪なまでに悪いせいで昔っから普通にしていても怒っている、睨まれた、怖いなど言われること日常茶飯事。


 曰く、裏でとんでもない悪事を働いていそう、曰く、睨まれるだけで寿命が縮む、見られると孕む等々。

 また身長が平均よりも高いこともあってどうやら普通にしていても目つきと併せてなかなかの威圧感を発しているらしい。なので最早普通の人はほとんど寄って来ず、なぜか先ほどの様なガラの悪い連中ばかりが寄ってくる始末。


 その結果、朱に交われば赤くなるってわけではないが俺自身も降りかかる火の粉を払うためか目つきに見合った服装性格、つまりはヤンキーみたいになってしまった。


 姿格好がその様になっているだけでタバコを吸ったり、酒を飲んだり、無免許でバイクを乗り回したり、白い粉を吸う等、そんな事は一切していない。


 見た目のチョイスは結果的に悪循環でしかなかったわけだが今更路線変更するにはいろいろと気付くのが遅すぎたと少し後悔が無いわけでもない。


 特に目立つことを自発的にしているわけでもないのに奴らが真夜中の誘蛾灯に吸い寄せられる羽虫の如く俺に群がって来るおかげで喧嘩→勝つ→目立つ→絡まれる→喧嘩→勝つ→目立つ……といったループにハマっていた。

 いったい、いつになったらこのループから抜け出せることやら……。


 で、さっきから隣で勝手に騒いでいるのはダチで唯一俺を見た目で恐れない友人、神居(かみい) 右京(うきょう)


 十七歳、同じく伊空館高校二年生。


 身長は170cm前半。こいつの性格を一言で言うなら八方美人。誰に対しても友好的に接し、敵らしい敵を俺は見たことがない。へりくだっているわけではないがソツなく立ち回っているのが凄いところだ。


 頭もよく、趣味も幅広く、話題も豊富。

最近は異世界ものの小説にハマっているらしく、俺も右京オススメのを何冊か読んだが確かに面白かった。

右京が薦めるものはハズレが少ないので安心して読める。


 生まれも育ちも地元なのだが、幼馴染は何人か居たが高校まで来ると右京以外みんな俺から離れて行き、疎遠になった。

だが右京だけは昔から変わらず、いや離れて行った奴らの分まで補うかのように俺を構うようになっていった。


 この前、右京に何でそんなに俺に構うのか? となんとなく気になったので聞いたことがあった。

 答えは『……好きだから』だそうだ。


 頬を赤らめて俯きがちにチラチラこちらを見ながら言われたのでさすがの俺も硬直してしまったがその後はおどけた様な態度だったから冗談なのだろう……と思いたい。もしくはLOVEではなく、LIKEの方。うん、きっとそうに違いない。そういうことにしておこう。

 でも初めて告白されたのが男、しかも右京なんだよなぁ……へこむ。


「そうそう、さっきも言ったけど響也ってホント喧嘩好きだよねぇ。好きこそ物の上手なれって言うけど、どんどん強くなっていって今じゃ敵無しだもんなぁ。戦闘凶かな? でも昔はなんて言うか、喧嘩が終わってももう少し満足そうだったけど最近は終始つまらなそうに見えるんだけど、なんかあった?」


 そんなことを言いながら俺の前に回り込み、いきなり右京が俺の左頬に片手を当てて来た。


「おいっ!?」


 女子にやるならわかるがなんで男の俺にそう言う事するんだよ!?

 右京はいつからかちょいちょいこういう風に俺に触れてくることようになった。

 本人曰く、スキンシップらしいんだがさすがにこれだけは何回やられても慣れん。なんとか止めさせたいんだがな。


 頬に当てられた右京の手をペシンと叩き落とし、スタスタと歩く速度を速める。

 しかしながら先程右京に話しかけられた内容については正直ドキリとした。まるで最近の俺の心を見透かしているような、そんな発言だったからだ。


 確かに最初は俺に群がってくる奴らを相手にするのはめんどくさいと思っていたが相手にしているうちに自分自身の実力が付いていく実感と相手を征服する感覚が楽しくて充実感を都度感じていた。


 だが、ここ最近は向かってくる奴らがほぼ固定化して歯ごたえのある相手が居らず、ある意味作業と化しており、喧嘩自体が楽しいと思えなくなってきていた。

 ほぼ一方的に撃退するばかりなので最初の頃のような殺るか殺られるかといったようなヒリヒリする感じが全く感じられず、正直少し面倒に感じ始めていた。


「ふぅ、さすがに昔からの幼馴染(ダチ)の目はごまかせねえか。そうなんだよなぁ、最近はアイツらもワンパターンになって来て、道具を集めるか、人数を増やすか、朝から襲撃か、暗がりから襲って来るしかないんだ。そんな状況が物足りないというか、あと少しで手が届くのに届かないというか、もう一人の俺が納得していない、みたいな感じなんだよなぁ。道具も打撃系の金属バットやら角材やらで刃物系を持ち出す度胸が無くて全くもってつまらないんだよ。そんなに刃物で傷害事件になるのが嫌なのか? もっと来るなら際どいラインまで攻めて来いっての!」


「……響也、言っとくけど、そこまでやられていたら今でも十分傷害事件級だからね? でもまさか本当にそんな風に考えていただなんて、これはちょっと……」


 俺の隣をキープしながら何やら一人で勝手に納得してウンウン頷いていた右京だが、突然思い出した様に顔を上げて、


「あ、だけどそれで合点がいったよ。この間、ヤ○ザが跋扈していると噂の隣街の繁華街にわざわざ行って、ご丁寧に路地裏に女の子が連れ込まれるのを確認してから助けに入っていたのはそういう新しい刺激を求めていたからだったんだね?」


「ま、待て、右京! お前『あれ』を見ていたのか!? 俺があの付近でバイトしているのは右京も知ってるだろう? 右京のその言い方だと俺が危険を求めて夜の街を徘徊している様に聞こえるぞ! それに昔から俺のじいさんが『弱いものや女子供老人には優しくしろ』ってよく言ってて耳にタコができる位聞かせられてるからああいう場面を見るとどうしても手が出ちまうんだ。つか、普通ほっとけないだろ、男として」


 ……まあ、何か面白い物が相手の懐から出てこないかなー、と少しは期待していたけど。

 いや、でもまさかあの現場を見られていたとは驚きを通り越してちょっと引くレベルだ。


 飲み屋のバイトのゴミ出しで路地裏にちょっと出た時の出来事だったのだが、結構バイト終わりに近い遅い時間だったはずなのだがこいつ、ストーカーかよ? あんなところ、あんな時間に普通いないぞ?


「はははっ、ま、そう言うことにしておくよ! おっと誰かさんが道草を食っていたおかげでもうホームルームの予鈴が鳴り出した。急がないと遅刻だ! ほら、響也、走るよ!」


 この距離からだと歩いて向かってもギリギリ間に合うと思うが……しかたない、走ってやるか。



 〜〜〜〜



 うちの高校は昔ながらの詰襟の学生服、いわゆるガクランだ。

 そして俺は自称ヤンキーと言うこともあり短ランを着ている。


 自分でも昭和のヤンキーのような絶滅危愚種的存在だと思うがまぁ、しょうがない。短ランを一度見てかっこいいと思ってしまったのだから。もちろん短ランの内側には刺繍を入れた。右京から読まされた異世界ファンタジーの影響もあって龍の刺繍だ。

 ベタだと思うがかっこいいのでこればっかりは譲れない。


 ~~~~


 授業はまともに受ける。


 俺に喧嘩を売ってくる奴には容赦はしないが、別に先生は授業をしているだけなので邪魔する理由がない。

 周りには女子の目もあるしな。じいさんから言われていることもあるし、女子には極力やさしく接しているつもりだ……つもりなのだが見た目を恐れて近寄ってこねえんだよなぁ。俺も普通に女子と会話をしたい……。


 寄ってくるのは右京か、昼飯を食べる屋上や校舎裏のベンチ等、行った先々で出くわすいつものアイツらくらいか。

 もちろん今日も昼飯を食べる時に襲われた。余裕で返り討ちにしてやったが。


 そうしていつも通りの一日が過ぎ、下校時間になった。



 ………………ーン


 下校中、ふいに何かが鳴ったような音がしたので気になり、辺りを見回してみるがこの道には俺以外の人はいないようだった。当然、音が鳴るものはどこにも見当たらない。何が鳴ったのか分からないが何故か無性に気になった。


「どこかの家から聞こえてきた……のか?」


 という考えもよぎったが今は個人住宅ではないビルとビルの隙間、裏道的なところを歩いているのだ。基本的に壁しかない。

 しかし周辺を捜索してまで音が発生した場所を探すのもどうかと思い、狭い道を再び自宅に向かってを歩き始める。


 狭かった裏道から抜け出した途端、数人が襲いかかってきた。

 抜け出したところは広めの閑静な駐車場。少々騒いだところで通報されることもない。正直なところこのルートで帰ると襲撃されるのが常だったので対応にも慣れたものである。

 さしたる苦労もなく、全員仲良く地面でねんねをプレゼントさせてやると、


「朝昼夕に三戦三勝とはさすがだね、響也。『人間凶器(フェイタルアームズ)』とか『伊空館の魔王』の呼び名は伊達じゃないね。しかし行く先々で騒動が起こるなんてまさか血の匂いでも嗅ぎつけてんの?」


 ぉい、またお前か、右京。

 俺と帰る方向が同じとは言え、マジもんのストーカーかよ。

 しかしついに俺に気配も感じさせず、登場することが出来るようになったのか……。


「俺は血に飢えた野獣かっ! つか、なんだよその物騒で恥ずかしい呼び名は? そんなもん誰が付けたんだよ!?」


「最近、響也の事をみんなそう呼んでいるよ? かっこよくない? ……ま、名付け親は俺なんだけど」


「お、ま、え、かぁぁぁ! あっさりと自供するとはいい度胸をしているじゃねぇか! 今から取り消して来い!」


「無理無理。もうSNSで拡散しているから回収は不可能だよ。これも強者の宿命と思って受け入れたまえ、あはははー」


 言い終わるや否や、右京はあっという間に走り去って行ってしまった。


 くっそ、昔っから足だけは速いんだよなぁ、右京って。行動する時の初動が見えないというか読みづらい動きしているから逃げに徹されると俺でも捕まえるのが難しい。ホントやっかいな奴だよ。



 〜〜〜〜


 その夜、寝る前に定番の筋トレメニューを終えて心地よい疲労感に包まれながらベッドで横になる。


 寝るのは得意と言うのも変な話だが、俺は地面だろうがイスだろうが木の上だろうが寝ようと思えば、どこでだってすぐ寝て身体を休めることが出来る。

 俺の特技の一つだ。


 ベッドで横になった途端、早々襲ってきた睡魔に任せてウトウトしていると、


 ……ン


 …………ーン


 また、か。


 そう思ったもののすでに部屋の電気も消して程よい眠気も来ている。幽霊だとかお化けだとかそんな非科学的なものは信じていない。今は眠気の方が重要なのでわざわざ起きて音の出所を探す気にはなれなかった。

 だからそのまま寝入ることに決めた。




 その夜は不思議な夢を見た。

 白い髪の女が肩口からかなりの出血を伴う怪我を負いつつ、地べたに這いつくばりながらも、必死に何かに縋る様に祈り、助けを求めているのだ。

 いったいどういう状況なのか? 何に対してそこまで必死に祈りを捧げているのか?

 そんなことを思いつつ、俺はその女を俯瞰するような位置でひどく冷静にその光景を眺めていた。


 そんな女の悲痛とも言える助けを呼ぶ声を聞いていると、ふいに目が醒めた。


「んー、もう朝か。あの夢はいったい何だったんだ? やけにリアルだったが……」


 ベッドの上で身体を起こし、頭に手をやって考えるもわかるわけもなく、考えても答えが出ないことを気にしてもしょうがないと支度を整え、登校する。


「……めずらしいな。今日はアイツら襲撃してこないのか」


 通学途中、いつも襲撃されるポイント数か所を過ぎて大きな交差点の信号にひっかかる。

 これまでほぼ毎日のように襲撃されていたのに無いなら無いでルーチンワークが無くなったようでちょっと寂しいかも、なんてことを俯きながら考えていた。

 信号が青になったと思い、顔を上げた次の瞬間。


「なっ!!!」


 俺の目の前には大型トラックが迫っていた。


 運転席にはいつもの『アイツ』。


 いつもアイツらに散々物足りないだの、もっと攻めて来いだの、刃物を持ってきてみろだの言っていたがまさか、まさかトラックで突っ込んでくるだなんて。


 マジかよ。

 全くの想定外。

 完全なる不意打ち。


 本来なら回避できたかもしれない貴重な一瞬があったのに俺は驚きのあまり身体が動かなかった。


 驚くと本当に身体って硬直するんだな。

 だが何故か不思議と気持ちは落ち着いている。

 これはもう助からないって本能が悟っているのか?


 そんなことが頭に浮かび、今まで体験したことのない全身が千切れ飛ぶかのような衝撃と共に吹き飛ばされる。


 ……吹き飛ばされながら俺が最後に目にしたものは、目が完全にイっている『アイツ』と


 『毎度お馴染み神居世界トラック運送㈱』


 という文字だった。


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