ショートストーリー 悲しみなんて飼いたくない
ぼくは中学二年生になったころお母さんに猫を飼いたいんだと言ったんだ。
するとお母さんはダメよ!
人間より寿命が短い動物を飼うと「悲しみ」を飼うようなものだから諦めなさい。
じゃ猫も犬も飼えないじゃないか?
そうよ。
猫も犬も二十年ほどで死んでしまでしょ。
だから飼うのは止めなさい。
猫や犬を飼っているとやさしい心にもなるしいつも癒やされレて
心が満タンに成って平和に暮らせるけれど
もしその犬とか猫が死んだとき
深―い。 暗―い。
悲しみに何日も堪えなけねばならないのよ。
君にはその悲しみに堪えることが出来るの。
犬や猫に愛情を注げばそそぐほど
より深―い悲しい日がつづくのよ。
それにね。
君が猫や犬を飼って癒やされた分と同じ分量の悲しみを
猫や犬が死んだとき味わうのよ!
君にはそれに堪えることが出来るかしら!
お父さんが亡くなったときの心境を思い出しなさい。
ぼくは考え込んでしまった。
実をいうとぼくの父が小学生六年生のとき亡くなったけれど
その時の深くて辛くて悲しくて何日も
真っ暗闇の海で小舟が揺れているように揺れていた。
そうか
犬や猫を飼うことは悲しみを飼うことなんだ。
犬や猫たちを可愛がれば可愛がるほど
悲しみも大きいんだ。
ぼくはそれ以降動物を飼うことはしなかった。
ぼくは弱虫で情けない人間だからペットを飼うことが出来ないと自覚した。
まだ少年のあどけなさが残っているころの決断だった。