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2.トータスの街

「これがトータスの街か、でかいなー」


 目の前の城壁を見上げながら、俺は感嘆した。口はあんぐりと開いている。

 高さは何十メートルくらいだろうか、たぶん超大型の巨人とか来ない限り門が壊れないレベルの高さなのはわかる。

 女神に転生というか転移させられた俺は、開け放たれた城門の前にぼけーっと突っ立っていた。

 恐らく目の前の城門の向こう側が街なのだろう。最初にトータスの街に転移させると言っていたし。

 どうやら夢じゃなく現実だったようだ。ちゃんと大地を踏みしめる感覚がある。

 顔にあたる爽やかな風も、肺いっぱいに吸い込む清らかな空気も生前では経験したことはない。

 これから俺の異世界ライフが始まるのか!

 そんなことを思いながら、傍から見るとぼへーっとした感じで突っ立っていると、城門近くにいた門番が近寄り話しかけてきた。


「にいちゃん、見慣れない格好だな。旅人かい?」


 見慣れない格好と言われ自分の服装を確認する。

 おい、ブレザーじゃないか。なんで転生したのに生前の世界のままの服装なんだよ。

 普通、この世界の服装になってるべきだろ。これじゃ本当に転移しただけじゃないか

 蒼髪女神のいい加減さに、憤慨なのか呆れなのか分からない感情を抱いていると、目の前の門番は不審者を見るような目つきに徐々になっていっているのが分かった。

 おっと、いつまでもこうしているわけにはいかない。初日から躓くとか嫌だからな。

 今日から俺はこの世界で生きていくんだ。わくわくがとまらない。


「あ、はい。そうなんですよ。東の果てから色々と各地を巡って今日ここについたんですけど、いやあ、すごい高さですねー」


 とりあえず誤魔化した。

 見慣れない格好だと言っていたし、東の果てとか言っておけばこの門番が見たことない服装していてもおかしくはないだろう。


「お、やっぱりそうか。しかし東の果てからここまで来るのは大変だっただろう。その服装はあんたの故郷での服装なのか? 変わった格好しているな。まあとりあえず、城塞都市トータスへようこそ! 門のところに検問所があるからそこでチェックが通れば中に入っていいぜ!」


 俺の誤魔化しが効いたのか、門番の目つきは最初に見たころと同じ感じに戻っていき、ニカっとした表情で自分の後ろを、親指を立てて指差した。

 ていうか、城塞都市ってなんだ。説明と違うじゃないか。

 街って言ってたくせにいい加減な女神だな。


「それとこの城壁の高さはここらじゃここが一番だ。だからにいちゃんも安心してくれていいぜ。魔物の侵入とか絶対にないからな!」


 え、何それ怖い。

 やたら高いと思ってたけど魔物の侵入を防ぐためだったのか。

 逆を言えば外には魔物がいるってことだ。街、いや都市の外は危険地帯なのか。

 ていうか絶対とか言っていいんだろうか。フラグとかじゃないよな。

 安心安全な日本で育った俺としてはちょっと不安だ。

 

「へ、へー。魔物の侵入がないんですか。それなら安心ですね」


 と、思っていることとは逆のことを言いつつ、茶を濁す。

 とりあえず早く中に入りたい。ここにいて魔物の襲撃とかに出くわしたくない。


「ああ! 仮に侵入されても自衛騎士団がこの都市にはいるから、一匹や二匹なんて楽勝よ! それに外の魔物も定期的に狩ってるからここら周辺は安全だぜ。だからにいちゃんも安心しな!」


 俺の心情が分かってしまったのか、門番はそういった。

 は、恥ずかしい。 怖がってるのがばれてしまった。

 顔が少し熱くなるのを感じながら、門番との話を早々に切り上げ城門へと歩いていった。


 城門左側の検問所に近づくと何人か並んでいるのが分かった。どうやらここらしい。

 反対側の検問所を見ると、何台かの馬車が並んでいるのが見える。行商人などはあちらで検問を受けるようだ。

 旅人と行商人の類は別々か。まあ一緒のところだと面倒だろうしな。

 しかし広い城門だな。三十、いや四十メートルくらいあるか。こんだけ広いと門の開閉も楽じゃないだろう。人力なんだろうか。

 物珍しさにきょろきょろと見ていると、俺の番になったようで検問所の係の人に呼ばれた。

 呼ばれた人を見ると、少しくすんだ鉄色の鎧を着ていた。門番の人が言っていた自衛騎士団の一人だろうか。


 「城塞都市トータスにようこそ。見慣れない格好ですが、旅人の方ですか? 何か身分証はお持ちでしょうか?」


 え、身分証? そんなもの必要なの?

 予期していなかったことを言われ、狼狽してしまう。

 いや当然か、魔物の侵入を防ぐ城壁があるとはいえ、人の出入りは出来る。

 罪人が入り込む可能性を考えると、身分証の提示を求めるのも当然だろう。

 しかし身分証か。そんなもの持ってただろうか。蒼髪女神は特に何も言ってなかったんだが。

 

「えーっと、ちょっと待っててくださいね」


 そう言いながら、着ている高校指定のブレザーの制服やズボンのポケットをまさぐる。

 ハンカチやら財布やら携帯やら見つかったが、これが身分証になるとは思えない。健康保険証は家に置いてきてしまったし。

 そう思いながらブレザーの内ポケットをまさぐると、指に何やら薄く硬いものが当たるのが分かった。

 取り出してみると、それはプラスチック製の白い板で、俺の名前と俺の顔写真が載っていた。

 ――学生証じゃないか。

 指定の学生証入れに入れておいたはずなのだが、取り出したそれは剥き身だった。

 確かに身分証ではあるが、これが通用するんだろうか。書いてある文字も日本語だし。

 顔写真が添付されているからかろうじて俺の持ち物だと分かるくらいだろう。

 そうは思いつつも、これ以外身分を示すものはなく、駄目元で係の人へと学生証を提示した。

 

「えっと、……これでいいですか?」


 俺から学生証を受け取った係の人は、まじまじとそれを見ている。

 書いてあるのは日本語だが、大丈夫だろうか。意味不明な言語と判断されてあらぬ疑いとか掛けられたりしたら面倒だな。

 見慣れない服装、見たことない言語。疑う要素は満載だ。

 一人で怖々としている俺をよそに学生証を一通り見た鎧姿の男は、それを俺に返しつつ、


「はい、確認しました。カイト・タチバナさんですね。犯罪歴もないようですので、都市に入っていただいて結構です。では、改めまして、ようこそ城塞都市トータスへ!」


 晴れやかな顔で歓迎の言葉を俺に伝えたのだった。


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