帰還1
「おせぇな・・・」
お社では村人たちが神主の帰りを今か今かと待ちわびている。
神主が丘をおりていってから一刻ほどたった。いつもなら半刻もしないうちに戻ってくるはずだがどうにも様子がおかしい。
「もしかして物の怪にやられちまったのかも・・・」
村人の頭の中に不安がよぎる。
神主がやられてしまったら守るすべがない。物の怪を退治できるのはこの村で神主だけなのだ。
「いや、そんなことはあるめぇって」
「そうだといいんだがな」
「でも、もしもってことも・・・」
口々に不安を言うがどうすることもできない。
「よしっ。こんなところで話してても埒があかねぇや。とりあえず見に行ってみんべ」
「よしなよ。邪魔んなるだけだろうに」
「そしたらなにかい。なにもしねぇで待っていろってかい?冗談じゃねぇや。仮にも世話んなってる神主様があぶねぇかもって時に待ってるだけなんてできるかいな」
と威勢よくしゃべるのはこの村の鳶頭の半吉だ。頭と言っても一人しかいないからであるが。
「まぁまぁ落ち着いて。半吉の言っているのも一理あるか。あんたなら足が速いし襲われそうになっても逃げきれるじゃろ。悪いが見てきてくれんか」
話に割って入ったのは村長だ。浅黒く焼けた肌に白い髭がトレードマークの初老の男性だ。
「さすが村長。話がわかるねぇ。そんじゃちょっくら行ってきまっさ」
言うが早いか丘の下めがけて走り出す。
「おいこらっ、ちょっと待たんか!」
とっさに呼び止める。
「なんだい。まだなにかあるんかいな。早く行かんと神官様がやられちまうよ」
苛立ちながら答える。
「お前は丸腰でなにしに行くつもりじゃい。ほれっ、これをもってけ」
懐から短刀を取り出し投げ渡す。
「へー、こんないいもん持ってたんですか」
短刀を鞘から抜きしげしげと眺める。こしらえはそれほど上等ではないもののその刀身は冴えており、安物でないことは一目でわかる。
「わしも一応は村長じゃからの。使わんとは思うがないよりマシじゃろ。気を付けて行ってくるんじゃぞ」
「まかしてけって!」
半吉は一目散にかけだした。