魔物到来3
ズバッ
肉を切り裂く音が耳に響いた。が、しかし痛みは感じない。死ぬときとはこんなものかもしれない。目を固く閉じ意識が遠のくその時を待った。
「ぐぎゃ、ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ・・・・」
化け物の苦しげな叫びが聞こえる。死ぬときは自分が望む音が聞こえるのであろう。
おそらくこの声が静かに聞こえなくなっていく時が天に召される時なのだろう。
ズババッ
「ぐぎゃーー!」
また化け物の叫ぶ声が聞こえた。しかも肉を切り裂く音も同時にだ。
おかしい、さっきより大きくなっている気がする。痛みも感じない。さすがにこれはおかしいと思った。
そっと目を開ける。
なんとそこには化け物の腕が転がっているではないか。
さらに顔をあげると化け物と対峙している細いながらも力強さを感じさせる男が見える。男は仄白く長い刀のようなものを両手で持ち、化け物とにらみ合っている。
先に化け物が動いた。
勢いよく男に近づき片腕となった手を大きく振り上げる。
叩きつけてくる腕をさっとかわし、刀の男は化け物の背中に刀を振りおろした。
「ぐうぉぉぉぉ・・・」
一瞬だった。正直なところ目の前で起こっているはずのこの状況がまったく呑みこめなかった。
化け物は断末魔とともに倒れ微動だにしなくなった。
「この村に神官は?」
男が言った。
口を動かすが声にならない。先ほどまで夫がいた家を指さす。
家には玄関の扉に捕まるようにして立つ神主がいた。やっと意識を取り戻したようで這うようにして出てきたようであるがオロオロしており女と同様、今の状況を把握することができないようだ。
刀の男は神主に駆け寄っていった。
「あなたは神官ですか。物の魔物を鎮めることはできますか?」
刀の男は矢継ぎ早に神主に質問する。
「ええ・・・はい。・・・いや、できません。さっきやりましたがあの化け物にはどうしても効かないようで・・・やはり魔物ですか・・・と言いますより今、貴方様が倒されたのでは?」
「いえ、私の力では魔物は弱らせることはできても退治することはできません。今は動きませんがいずれ復活するでしょう。先ほど効かなかったのはあなたの力が魔物の力に及ばなかったからです。今ならあなたの力で十分にできるはずです。さあ、早く」
刀の男の肩を借りヨロヨロと魔物の近くまで行く。
確かにまだ生きているようだ。
「さあ」
刀の男に促され力を込めて祈る。