見習い7
「朝から大声を上げて何をしてるんですかな」
神主様がニコニコしながらやってきた。
「あっ、神主様。おはようございます。いえね、このバカ息子が地鎮祭を知らねぇっていうんですよ」
「自分の子供のことをバカなんて言ってはいけませんよ。親の背を見て子は育つっていいますからね。知らないことを素直に知らないなんて言えるのは子供のうちだけですよ。教えてあげればいいじゃないですか」
「ほらっ、熊吾郎。教えてやんなきゃダメだろ」
突然話を振られた父さんはハトが豆鉄砲食らったような顔をしている。
「いやいや半吉さん、あなたもですよ。もしかして説明できないってわけじゃないでしょうねぇ・・・」
神主様はいたずらっ子のような笑みを浮かべ半吉を見る。
「あー、いや・・・そういうわけじゃ・・・」
半吉おじさんはしどろもどろになりながら黙ってしまう。
「まあいいでしょう。祭典なんてものは気持ちのものが多くて最初のころは深い意味があったものも何年もたって習慣になってしまうと形骸化してしまうことが多いですからね。正直なところ私も聞き伝えですから絶対に正しいとは思っていないのですよ。だから本当に詳しい人に出会ったら詳しく教えてもらい、できれば私にも教えてほしいものです。前置きが長くなりましたが、私が伝えられた地鎮祭という儀式はこれから建物を建てるにあたって、土地の神様にご報告とお願いをするための儀式であると聞き及んでおります。建物を建てるとそこにも建物の神様が宿ります。その建物の神様と土地の神様がいがみ合わないように事前にご報告差し上げるものです。神様の逆鱗に触れるようなことがあると工事中、災悪に見舞われたり、建てられた後に、住まわれる方に災難が降りかかったりするようなことがありますからね。そういったことが起きないよう事前に供物を供え、お祈り差し上げるのが地鎮祭ですよ」
「へー、なるほど。そうだったんですか。景気づけに酒まいて、いい匂いの中で仕事しようって祭じゃなかったんですねぇ」
半吉おじさんが大きくうなずきながら話す横で神主様はあきれたように肩を落とす。
俺でもわかる。そんな儀式は間違いなく存在しない。
ため息をつきながら父さんを見上げると、口をあんぐりとあけ驚きを隠せない表情を浮かべていた。
「・・・父さん」
マジか・・・俺はこの人の息子なのか・・・。この先、気が思いやられる。
これから常識的なことはこの二人に聞いてはいけない。必要なら神主様に相談しよう。
そう心に決めた瞬間であった。