魔物到来1
物の怪の匂いもようやく晴れてきてそろそろ下りようかなどと相談していたその時、一人の男がこの丘に向かって駆けてきた。
「大変だっ。また・・・また物の怪が襲ってきた!神主様は・・・神主様はどこですか!」
一目散にこの丘を登ってきたその男は息も切れ切れにそう叫んだ。男は腕から血を流している。
「何があったのですか。これはひどい、すぐに手当てをしないと」
男は傷口も深く、かなりの血を流している。すぐに治療しないと命にかかわるかもしれない。
「こんな傷なんてどうでもいいんだ・・・。早く助けに行かないと死んじまう!」
男は興奮しており、まくしたてるように言う。
「どういうことですか。とりあえず落ち着いて」
「神主様が丘に行ったあとにとりあえず門を閉めに行ったんだ。そしたら物の怪がまたやってきやがって。物の怪がいつもと違うんだ。いきなり襲い掛かってきやがって」
「物の怪に襲われた?その怪我はもしかして・・・」
物の怪が人を襲うこと今までなかったことだ。触れば精気こそは吸われるが、怪我を負うことはない。
神主の顔が曇る。
「そうだ。熊みてぇな物の怪に殴りかかられて腕をやられちまったんだ。でもそんなこたぁどうでもいいんだ。早く助けに行ってくれよ!」
「だれがいるのですか?」
「大工の熊吾郎だよ。門のところで一緒に襲われて・・・今、足止めしているとこなんだ。あいつは熊みてぇな奴だが物の怪になんかかないっこねぇ。早く助けにいってやってくれ!」
「なんで一緒に逃げてこないんですか!」
神主が叱責する。なにも足止めなんかせずともこの結界まで逃げ込んで来ればおそらく入ることはできない。
「門の近くにはあいつの家があるんだ。まだ小せぇ子がいて逃げ遅れちまってんだよ」
聞き終わるやいなや神主は門に向かって一直線に駆けだした。