物の怪侵入2
「こんなに多くいるとは・・・」
急ぎ結界を張り終え丘を降りてみれば異様な風景が広がっていた。村のいたるところを物の怪は我が物顔で闊歩している。
「か、神主様!」
畑に入らせまいと必死で物の怪を木の棒でたたき続ける青年が叫ぶ。神主は急いで祓幣を物の怪に向かって振り、祈りを込める。物の怪の体は溶け出し、見る見るうちにその体が消えていった。
「助かりました。ありがとうございます。ありがとうございます!」
青年は何度も礼を言う。
「こんなところにいないで早くお社に行きなさい。」
「でも、でも作物がみんなやられちまうよ」
退治できないまでも多少の足止めはできるのでここに留まっていたようだ。
「いいから行きなさい。ここは私に任せて」
「・・・わかりました」
青年はいやいやながらも指示に従い、お社の丘に向かって駆けていった。
神主は近くにいるものから順に片っ端から退治していく。
「ふぅ、あらかた済んだかな」
最後の一匹を退治したときにはもう息も上がり、精も根も尽き果てた状態であったが、退治し終えたことを知らせるため急ぎお社の丘へ向かった。
「あっ、神主様だ!おーい、神主様が帰ってきたぞー」
丘を登ってくる神主の姿を見るやお社の周りにいる村人たちに喜びの声を上げる。
「みなさん、もう大丈夫ですよ。でもちょっと今回は数が多くて畑がやられてしまいました」
「いいんだよそんなこたぁ。あなた様がいなけりゃ俺らは何にもできねぇんだから。作物なんかまたそだてりゃいいんだよ」
落ち込んだ口調で報告する神主を村人が励ましつつ礼を言う。
だが今回の物の怪はいつもとはかなり異なっていた。数が多いのもそうであるが、そもそもこんな収穫間際に来ることは少ない。ひと月ほど前に収穫に先立って作物を献上し、慰霊祭を行っているからだ。それによって村の周辺の物の怪は姿を消してしまうのだ。
「念のため強い結界をもう少し張っておきますから丘を下るのはしばらく待ってからにしてください」
「まだ下りれねぇって」
「臭くってたまんねぇや」
本当であればすぐにでも丘を下りて荒らされた畑の手入れをしたいところだが、物の怪も匂うが退治するとより異様なにおいが充満する。死の匂いというものだ。体に害こそないが、吐き気を催すその匂いを嗅ぎながら作業などできたものではない。幸い結界の張られた空間の中は浄化されているのか匂いはしない。だから匂いが風に流されるまでは誰も下りようとはしなかった。