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番匠一代記  作者: まさき
序章
15/38

彫刻4

僕はずっと見ていた。来る日も来る日もお社の足場の上で虹梁を見つめる甚五郎さんの姿を。

2日ほどは父さんに連れられてお社の丘を登ってきて一緒に眺めていたが、何も変わらないその様子からもう行かないと言い始めた。

何度も連れて行ってほしいといってみると、一人で行ってこいと言われた。

僕は家の近くで遊ぶことが多く、遠くに一人で行ったことなどない。ましてやお社など家から歩いて半刻以上かかる。

ただ道は一本道。迷うことなどない。僕は勇気を出していくこととした。

父さんは驚いたように「一緒にいくか」などと今更のように言うが一人で行ってくると断った。せっかくの僕の大冒険。水を差さないでほしい。

毎日父さんと一緒に歩いた道。不安などない。甚五郎さんの彫刻している姿を見たい。その気持ちの方が何倍も勝っていた。

お社に行くのが日課のようになったころ、突然ノミを打つ音が響き渡った。

カンッカンッカカン。

軽快な音だ。

下書きも何もない木の上をノミが滑るように形を刻んでいく。丁寧かつ大胆に。

僕は食い入るように見つめる。あれよあれよという間に彫刻が虹梁に刻まれた。

丁寧に仕上げをしたところで甚五郎は手を合わせた。

するとなんということか、彫っていた虹梁が仄白く光り始めるではないか。

その光は祈りを続ける甚五郎を包み込む。手を合わせたまま、ゆっくりと頭をたれる。

するとその光は甚五郎の体の中に消えていった。

夢でも見ているようだった。

甚五郎は最後にもう一度頭を下げてから足場をおりた。


「驚いたかな」


僕は言葉が出なかった。急いで頭を縦に何回も振る。

甚五郎はおもむろに短い棒を取り出した。


「ふんっ」


棒を握る手に力を込める。

すると棒の先から仄白い光が伸びてきた。先ほど虹梁を包んでいた光だ。

光は刀のようになった。

見覚えがある。忘れもしない魔物から助けてもらった時に使っていた刀だ。

僕は母さんに抱きしめられてブルブル震えていたが肩越しにはっきりと見た。

その時の刀だ。

甚五郎は優しく語り掛ける。


「木の声に耳を傾け、木に内包されている真の形を掘り出すことができたとき、その気に宿る力を分けていただくことができる。この力こそ唯一魔物の力を弱らせることができるものなのですよ。じっと見続けていたから聞こえていたんじゃないですか。木の声が」


ハッとした。確かに何かが聞こえてきた気がしていた。小鳥のさえずりよりも風で木の枝が振れる音よりもずっと小さい音。意味は分からないが何か引き寄せられるささやきのようの声。思えばその声に引き寄せられていたのだと思う。

僕はこくりと頷いた。

甚五郎は微笑みを浮かべる。


「そうですか。ならばいずれあなたにもできるようになるはずです。それまでじっくりと腕を磨いてください。焦らずに少しずつ」

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