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番匠一代記  作者: まさき
序章
11/38

帰還4

その晩、村長は甚五郎を労うべく宴会を開いた。宴会とはいっても村長と甚五郎と神主と熊吾郎、そして半吉の5人だけだ。

本当はもっと大規模に祭りでも催すかとも思ったが、今回の物の怪騒ぎは思いのほか被害が大きかった。村人への負担も大きかろうということで特に関わりの大きかったものだけで行うこととなった。

半吉は呼んだつもりはなかったそうだが、なぜかそこにいた。

囲炉裏を囲み、全員が着座すると村長がまず礼を言った。


「甚五郎さん、このたびは村をお救いいただきありがとうございました。村人を代表してお礼申し上げます」


甚五郎はちょっと照れくさそうにしていたが宴会が始まった。

ひとしきりお礼と自己紹介が終わったところで村長は尋ねた。


「ところで今回の騒ぎ、魔物の仕業と聞き及んでおりますが初めて聞く言葉です。そのあたりを詳しくお伺いしたいのですが」


甚五郎は「あまり口外はしてほしくないのですが・・・」と前置きをした上で魔物とは何かを説明した。

魔物は物の怪と同じく怨念が具現化したものであるが、物の怪と違い生前の実態を持つということ。退治するには物の怪と同じく神官による祈りが必要であること。神官の力が魔物より強ければ退治できるが、弱い場合は攻撃を加え、力をそぎ落とさなければならないこと。攻撃には物理攻撃も有効だが、光の刀による攻撃がもっとも有効であること。

甚五郎は淡々と話していった。話し終えるとじっと何かを考えるように黙ってしまった。

だが、この村がまた魔物に襲われることがあるのか聞くと、その可能性は限りなく低いと答えた。

その言葉を聞くと安心したように村長は息をついた。

ただ、その理由を聞いても「これ以上は・・・」と口をつぐんだ。

半吉はその甚五郎の態度を見て食ってかかろうとしたが熊吾郎が静止した。

しばらく沈黙が続いたが熊吾郎が話を変えた


「甚五郎さん。あなた先ほどお社を見てましたが、何か気になることでもありましたか」

「ああ、それを私も聞きたかったのですが、あの建物はもしかして移築されてきたものではないですか」

「そうなんですよ。まだ俺が年季明けして間もないころに隣町の知り合いから譲りうけたものなんですよ。聞けば有名な大工がこしらえたものらしいのですが、いくさが起きた時にバラしたらしく流れてきたものらしいんです。ちょうど前のお社がもうご苦労様のころだったんで、そっくり俺が建てちまったんですよ」


甚五郎がうなずきながら聞く。


「棟札や墨書きはなかったのですか」


棟札とは棟が上がったときの祈願札のようなもので建物が建てられた経緯が書いてある場合が多いものだ。墨書きはその名の通り、木材に墨で書いた文字で落書きのような場合もあるが、だからこそ建てられた時の様子が手に取るようにわかることもある。


「いや、特にそんなものは・・・。ただ板図が残ってまして番付がきっちり書いてありましたんで元通りにできました」


板図とは大工が書く間取り図のようなもので建物のさまざまなことが書かれている。番付もその一つだ。柱の位置などを「いろは・・・」と「一二三・・・」の組み合わせによる座標軸によってあらわす。

甚五郎は考え込むようにうなずく。

熊吾郎が続ける。


「ただ、俺なんざ田舎の大工でしょ。いわば井の中の蛙ってもんですよ。あの建物は凄い。あんな組み方をしたのは初めてでしたよ。ほんとに勉強になりました。曲がりなりにもいっぱしに大工名乗って仕事してられるのもあの建物のおかげですよ」

「あの建物には惹かれるものがありますな。均整なたたずまいといい、納まりも実にいい。できれば中も見せていただきたいのですが・・・」


甚五郎は神主に目配せする。


「もちろん。もし熊吾郎さんが手を抜いたところがあれば教えてほしいですな」


神主はにやりと笑う。


「冗談じゃない。誰に見せても恥ずかしくない仕事をしてますよ。・・・俺もご一緒してよろしいですか?」


「熊吾郎よ。己の仕事に自信がないのかな」


村長が茶化す。


「明日俺が足場組んでやるよ。近くでよーっく見てもらうんだな」


熊吾郎が半吉をにらみつける。


「おっかねぇ顔すんなって。おめぇだっていろいろ教えてもらいてぇんだろ」


熊吾郎はふてくされつつも甚五郎にご教示願った。

甚五郎は苦笑しつつも快諾した。

夜も更けてきたが話は尽きず、宴会は続いた。

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