6:隠し事はミントの中に
「ごめんなさい、急に泣き出してしまって。」
鼻をすすりながら、そーっと様子をうかがう。
だけれども、なぜかうめちよさんとあんずちゃんが
クミトさんをじとーっと見つめていて…
「い、いえ…」
「クミ~?ちょっと、何したわけ~?」
「クミちゃんさすがにやりすぎよーっ!」
ただ、私は久しぶりの美味しいものに感動しただけのはず…
なのになぜクミトさんが責められているのかが謎である。
困りながらも様子をうかがっていると、双子君たちも
続いて抗議し始めて…
「クミト、魔法使ったのかよ!」
「何の魔法使ったのぉ?」
「い、いや!やっぱり、こうも緊張してるとリラックスできないかと
思いまして…!緊張がほぐれるように…!!」
クミトさんはあわあわと、落ち着きなく答える。
えっと…魔法って冗談かと思ってたんだけど。
困りながらにクミトさんをちらっと見ると
彼は、はっとしたように慌てて言いました。
「コ、コハクちゃんがびっくりしちゃってます!
魔法なんてやたらめったら言わないで下さい!!」
「クミが使うから悪いんじゃん~!」
「実はクミちゃん、はなっから私たちが
喋ることも隠す気なかったんじゃないの…?」
クミトさん、猫たちの猛烈な抗議には勝てず!!
しかも、私を盾に自分を守ろうとしましたね!クミトさん!
「クミトって変なとこでボロ出すからアホだよな。」
「わかるぅ。もう隠すも何もないよぉ。」
そんな双子君たちの一言でクミトさんは口ごもってしまい、
どうやらもう何も言えなくなってしまったらしい。
…さて、私はどうしたらよいのでしょう。
「まぁ、コハクちゃんがここに来たことも
信じがたいことなんだけれどね…」
ぽつり、とうめちよさんが言葉をこぼす。
そう、先ほどから気になっているそのこと。
それ以外にも驚いたのは、
こんなところにカフェがあったことはもちろん、
ここにいる猫たちはみんな喋れるということ。
あと、魔法は…さっきから聞いている限り冗談でも
コントでもないような口ぶりであった。
「あの、私、ここにいては、いけないんですよ、ね?」
恐る恐る、そう口にする。
誰とも目が合わせられず、マドレーヌの上に乗った
ミントを私はじっと見つめた。
するとその場にいた私以外の全員が、、
「「「「そんなことない!!!」」」
と、大声で言った。
驚きで、がたっと椅子を鳴らす。
私は思わずびくっと、顔を上に向かせる。
猫君こと、みたらし君もびっくりして
私の膝から転げ落ちてしまった。(だけど、見事に着地は成功!)
「ごめんなさいねっ、そんなつもりで言ったわけじゃないのよっ。」
うめちよさんは焦りながらも私に必死に伝える。
クミトさんも双子君も困りながらに、私を見つめる。
そんな中、再び口を開いたのはあんずちゃんだった。
「もう、全部教えちゃっても、彼女はなぁんにも、誰にも
言わないと思うなぁ~。それに…」
それに、と言いかけてあんずちゃんは一度口を閉じてしまった。
瞬きをゆっくりとして、私の目を見つめる。
その目はまるで、見つけた獲物を逃がさない、と
狙いを定めている目のようで、私はとらわれたように動けなくなる…
風は吹いていないし、暖房もついていないはずなのに、
私の頬に何か、優しい空気がふわっと触れた。
なぜか、ミントの爽やかな香りが少し香ったような気もした。
自然にクミトさんへと、私の視線が移った。
それから、クミトさんは静かに、ゆっくりと口を開いて…
「…私が、魔法を使えるって言ったら信じますか?
ここにいる全員、あなたとは住む世界と違う生物だと、
そう言ったら、あなたは…どうしますか…?」
クミトさんの深い、緑色の瞳が私を見つめた。
艶のある、誘うような小声でそんなことをいうもんだから…
「…はひっ……。」
なんて、緊迫した空気の中で
またおかしな返事をしてしまったのは、
そこに導かれてしまった寂しがりで、好奇心旺盛の女子高校生であった。