第3話 運命の出会い
今回は天音の召喚です。
状況は前作とはかなり違いがあります。
「ただいま~!!」
恭弥や周りのみんなとは違い無事とは行かなかったが、千歳は九尾の妖狐・銀羅と絆を結んで共に戻ってきた。
先生は大妖怪である銀羅の威力に圧倒されて少し腰を抜かしていたが、千歳が無事で安心した様子だった。
「おかえり、千歳。それから……」
「ん?」
パサッ……。
「ふわっ!?」
「それを着ていろ」
俺は千歳に自分の制服の上着を被せた。
男子用で千歳にはかなり大きいが、狐火でボロボロになった制服よりはマシだろう。
「ありがとう、天音。えっと、よいしょっと!」
千歳は俺の制服を羽織り、ボタンをしめた。
予想通り俺の制服は千歳には大きく、裾の部分がかなり大きかった。
「うわぁ、ぶかぶか~」
「当たり前だろう? 俺と千歳じゃ体格が違うからな」
「でも……」
「でも?」
クンクンクンクン。
「天音のいい匂いがするよ~♪」
「ぶふっ!?」
裾のあたりを鼻で匂いを嗅ぐ千歳に吹き出してしまった。
あのお淑やかなちーちゃんがここまで変態に磨きが掛かっているなんて……ああもう、俺にはどうしたらいいかわからないよ!?
「今度はワイシャツを貸してね♪」
「何だよそのプレイ……?」
『……千歳よ。この男は何者だ?退魔の力を操っていたが……』
隣でこの光景を見ていた銀羅は俺を見ながらそう尋ねてきた。
「あ、銀羅。紹介するね。彼は蓮宮天音。私の旦那様だよ♪」
「ち、違うからな!?変な紹介をするな!!」
すると、銀羅は興味深そうに俺を見つめてくる。
『ほう。千歳の未来の旦那か……では、これから旦那と呼ばせてもらおうかな?』
「どうしてそうなるんだ!? 別に呼ばなくてもいいからな!普通に名前で、天音でいいから!」
『分かった。では天音と呼ばせてもらう……ん?』
銀羅は俺を見ると眉を寄せて近づく。
「どうした?」
『天音、お前は退魔の力を持っているが……それとは別に不思議な力を宿しているな』
「そうか……?」
銀羅は俺の中にある力を見据えているが、それが『どれ』なのか分からない。
まあ、時間はあるんだしゆっくりと教えていけばいいか。
「次は俺だな……」
恭弥は孫悟空、千歳は九尾の妖狐……流石に大物の仏と妖怪が次々と出てくると俺も緊張してくる。
召喚される聖獣は基本的に召喚者と相性の良いものが選ばれる。
千歳の銀羅のは少し危なかったが結果的に仲良くなっている。
相棒みたいな関係も良いけど、恭弥と孫悟空の兄弟みたいな関係も憧れる。
何にしても、どんな関係でも良いから共に仲良くなれる聖獣がいいと願う。
しばらくみんなで話をしていると……。
「次は蓮宮君です」
「はい!」
柊先生に名前を呼ばれた……遂にこの時が来たと心臓の鼓動が高まる。
「天音、頑張ってね~!」
「派手な聖獣を呼べよ!」
二人の声援を受けながら俺は魔法陣の上に立つ。
さあ、来てくれ!
一呼吸を置き、俺は何度も練習を重ねた呪文を詠唱する。
「我が名は蓮宮天音。人の世界と聖なる獣の世界、二つの世界を結ぶ架け橋をこの聖なる樹の下に繋ぐ。我は夢を追う者也」
魔法陣が輝き、聖獣を召喚するための階段を一段ずつ登る。
幸いにも昔から実家で古文を読んでいたから間違えずにスラスラと言えている。
緊張していたが正直なところ、俺はどんな聖獣でも構わない。
これからの未来……一緒に過ごして笑ったり、泣いたりできる最高の相棒が出来ればそれでいい。
「共に往かん、永遠の地へと。我が純粋なる魂と共鳴せし者よ。我の声、思いに応えよ!来たれ、我と共に契約を望むこの時を!!」
だから、来てくれ……俺と共に生きる事を望んでくれる存在よ!
「聖獣、召喚!!!」
想いを込めた詠唱により大きな爆発が起き、煙が舞う……。
俺は目を凝らして聖獣の姿を見ようとした。
しかし……。
「あれ?」
そこには聖獣の姿が見えなかった。
代わりに小さな影が魔法陣の中心に見え、煙がゆっくりと止み、その姿が明かされる。
『ピー?』
「白い……小鳥?」
そこにいたのはその辺によくいるスズメのような小さな鳥だった。
思わず目をぱちくりとさせて凝視をしてしまったが、その体を覆う羽毛はとても白くて美しく、まるで雪のようだった。
小鳥は俺を見て嘴を開くと……。
『……お前、誰ですか?』
「……喋った?」
人語を喋って耳を疑いそうになった。
『喋ったらダメですか……?』
「いや、ダメじゃないけど……って、そうじゃない。俺は蓮宮天音。君を召喚したんだ」
『召喚……?ああ、なるほど。人獣契約ですね……今情報をいただきました』
小鳥は納得したように頷く。
魔法陣には召喚の力だけではなく、特殊な魔法の力が刻まれていて、召喚された聖獣が大きく混乱しないように召喚された瞬間に人獣契約についての情報を送るのだ。
「君は……ただの鳥じゃないよな?それに……その姿、本当の姿じゃないみたいだし……」
『ふーん……なるほど……君は色々な力を宿しているね』
「え?あ、ああ……」
小鳥は小さく羽ばたいて俺の頭に乗る。
『紹介が遅れたね。僕は鳳凰だよ』
「へぇー、鳳凰……えっ!?鳳凰だって!?」
鳳凰……それは日本や中国で有名な聖獣の一つでもある存在だった。
古来より縁起のよい鳥であることから、多くの美術品や建築物にもその意匠が使われているほどである。
また、一説によれば、天下泰平や皇帝の吉事の前に姿を現すともいわれている。
俺は頭に乗っている小鳥を下ろして手に乗せる。
「お前が……鳳凰だって……?」
『この姿じゃ信じられない?じゃあ……』
小鳥は手から飛んで俺から少し離れるとその身を白く輝かせた。
そして、少しずつ姿を変えて大きくなっていき、小鳥から鷲のような姿となっていく。
「わぁお……」
光が晴れるとそこにいたのは白銀に輝く大きな鳥だった。
目は紅玉のように真紅に輝き、白銀の中に五色の光が宿り、一瞬にしてその美しさに目を奪われた。
『どうですか?参りました?』
「ああ……参ったよ。とっても綺麗だよ」
『ふふん♪ところで、君は僕と契約をしたいんだよね?』
「そうだよ。俺としては君を気に入った。できれば、俺の相棒になって欲しい」
『んー、僕としても君を気に入ったから良いんだけど……一つ条件がある』
「条件?」
『うん。僕に……沢山美味しいものを食べさせて』
鳳凰から出されたまさかの条件に俺は目を点にした。
「美味しいもの???あれ……?そう言えば鳳凰って竹の実と霊水しか食さないんじゃ……?」
前に小学生の時、学校の辞書で見たことがあって鳳凰は竹の実と呼ばれる百年に一度しか咲かないと言われる珍しい竹が作り出す実と霊力の込められた綺麗な水しか食さないはずだけど……。
『竹の実?霊水?何それ美味しいの?』
「おう……」
まさかの知らない発言……まさかこの鳳凰は本来とは違う生き方をしているんじゃ……。
雑食性になってしまった鳳凰ってどうなんだと思ったが、まあそれでこんなにも綺麗な姿になっているんだから良いのかもしれない。
「うーん、美味しいものか……あっ!」
そうだ……鳳凰の口に合うかどうか分からないけど、今食べさせられる物ならある。
「千歳ー!上着の右ポケットの物を出してくれ!」
「え?右ポケット?えっと……」
千歳に貸している上着の中にそれがあり、羽織っている千歳にそれを出してもらう。
「何これ……?この匂い……クッキー?」
それは小さな袋に入ったクッキーだった。
「それを投げてくれー」
「わかったー!えいっ!」
「ナイスキャッチ。さてと……はい」
袋から丸い小さなクッキーを取り出す。
『これは……?』
「クッキー、焼き菓子だよ。俺が作ったんだ」
『作った?君が?』
「ああ。お菓子作りは好きだからね。今日のおやつにでも食べようと思っていたけど、あげるよ」
クッキーを半分に割り、まずは自分で食べて警戒心を無くしてからもう半分を差し出す。
『うーん……ぱくっ』
鳳凰は恐る恐るクッキーを口にして味わい、呑み込んだ。
すると……。
『お、美味しい!!』
「喜んでくれて良かった」
『ねえねえ!僕もっと食べたい!』
鳳凰はクッキーが好きになったようだ。
これならもっと攻めれば……いけるか?
「良いよ。それと……もし俺の相棒になったらクッキー以外のお菓子も作ってあげるよ」
『本当に!?こんな美味しい物をたべさせてくれるの!?』
「ああ。沢山作ってあげるよ。その代わり……」
俺は鳳凰の頭を撫で、俺が望んでいる願いを言う。
「俺の家族になってくれるか?」
『家族……?』
「ああ、一緒にいて色々な時を一緒に過ごして、共に笑いあったりする存在だよ」
『ふーん……家族か……』
鳳凰は空を見上げて少し考えると目を閉じると再びその体を白く輝かせた。
体が小さくなり、小鳥の姿に戻ると俺の頭の上に乗った。
『うん!いいよ!』
「本当か……?」
『僕もそろそろ一つの場所に落ち着きいたいからね……それと……』
「それと?」
鳳凰の声に耳を傾けると穏やかな声が響いた。
『君と……天音と一緒にいると楽しそうだからね』
鳳凰が俺の事を天音と名前で呼んでくれた。
俺はそれだけで嬉しくなり、鳳凰を手に乗せて笑みを浮かべる。
「これからよろしくな、鳳凰」
『鳳凰は止めてよ。あ、そうだ。僕に名前は無いから天音が名前をつけてよ』
「俺が名前を?」
『うん!僕に合った綺麗な名前をよろしくね!』
「うーん……純白の鳳凰の名前か……」
いきなり名前を付けろと言われても困るが、せっかく俺の家族になってくれるんだ。
この美しい鳳凰に一番合った綺麗な名前を付けてあげたい。
「そうだ……お前は綺麗な白い羽毛に体を包んでいて、俺の一番大好きな花を連想させるから……」
少し考えてふと思い出したのは実家の蓮宮神社の池に咲く大輪の蓮の花……。
「今からお前の名前は……穢れのない白い蓮、『白蓮』だ」
白蓮。
この名前の由来の蓮の花は、実家の蓮宮神社で毎年の夏に池を埋め尽くすほどの大量の蓮が白とピンク色の美しい花を咲かせている。
そして、白色の花の蓮……つまり白蓮は俺が特に一番好む花だ。
蓮には『神聖』や『清らかな心』と言う花言葉が込められている。
だから白蓮の名前はこの鳳凰によく合っていると思う。
『白蓮か……うん、良いね!今から僕の名前は白蓮だ!』
鳳凰……白蓮は俺が名付けたその名前を気に入ってくれて、嬉しそうに俺の周りを可愛らしく飛ぶ。
「よろしくな、白蓮」
『うん、よろしくー!』
こうして俺は少々不釣り合いだと思うが、鳳凰の白蓮と絆を結び、家族となった。
神社の神子が鳳凰を召喚するとは思わなかったが、白蓮は可愛いし素直だし申し分のない聖獣だ。
こいつとなら末長く仲良く暮らせると確信を持っていた。
そして、この時から既に始まっていた。
千歳との再会、白蓮との出会い。
平穏を望む俺が波乱と闘争に満ちた慌ただしい物語が始まっていたのだった……。
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今回の鳳凰・白蓮は最初から成長している設定になっています。
雛の姿になるのは変わりませんが。
次回は天音の驚くべき秘密に迫ります。