第28話 天に仕える影の忍
新年あけましておめでとうございます。
第2章の幕開けです。
春の桜が散り、緑が木々を覆い、暖かい日々が続く六月の上旬。
星桜学園から遥か遠く、そして人里を離れた深い森の奥に小さな集落があった。
まるで昔に戻ったような時代錯誤な古い木の家が多くあり、その中でも一回り大きい家に一人の老人と二人の少年少女がいた。
老人は顎に見事な白い髭を生やし、それを指で梳かしながら二人の少年少女に話しかける。
「二人に来てもらったのは他でもない。いよいよお主達にも護衛の任を就く事になった」
「いよいよですか、お爺様!」
真っ先に反応したのは少女の方で待ち望んでいたかのように笑みを浮かべた。
「しかし、頭領。拙者達二人で護衛に就くのでござるか?」
後に遅れて反応したのは少年の方だった。
「左様。本来なら護衛の任は一人につき一人なのだが、そのお方はどうやら少々厄介な立場に置かれておるようじゃ」
「厄介な立場とは?」
老人は懐から一枚の写真を取り出して二人に見せる。
それは制服姿の千歳の証明写真だった。
「天堂千歳様。幼い頃からご病気で苦しまれ、アメリカに渡って治療を受けていたが今年になって日本に帰ってきた。そして、有名な大妖怪である九尾の妖狐と契約をしたそうじゃ」
「この方が私たちの主に……」
少女は千歳の写真をジッと見つめる。
「じゃが先月、千歳様は何と許婚様やかの有名な七星剣の者と共に聖霊狩りと戦ったそうなのじゃ」
「聖霊狩りと!?」
「それは本当でござるか!?」
人間と聖獣を引き裂く存在である聖霊狩りと戦った事に驚く二人。
「うむ。厳武殿は千歳様にこれから大きな災難が降りかかるかもしれないと危惧し、護衛を二人つかせることを望んだのじゃ。幸いにも既に他の天堂家の方の護衛は全て就いておるし、歳も同じである二人ならば良いと思い任に就かせる事にしたのじゃ」
「なるほど……分かりました、この命を賭して千歳様をお守りします!」
「拙者達、天影の者として千歳様の影となりてお仕えするでござる」
二人は千歳の護衛を引き受け、主従として仕えることを決める。
何故こんなにも簡単に承諾したのかというと、元々この二人は天堂家の誰かに仕えるために今日まで修行をしてきたのだ。
「では頼むぞ、神影麗奈!」
「はっ!」
「月影刹那!」
「承知!」
少女の名は神影麗奈、少年の名は月影刹那。
二人は一礼をしてその場から立ち去ると自分の家へ戻り、旅支度を整える。
この集落に住む者達は普通の人間ではなく特殊な使命を持つ一族である。
天を守りし影に生きる者達……その名は『天影一族』。
それは天堂家に仕える影の一族。
天堂の人間を守る盾となり、時に戦うための刃となる存在である。
そして、その一族の二人が千歳の護衛となるために星桜学園へと向かうのだった。
☆
side天音
入学から早二ヶ月が過ぎてようやく学園生活に慣れていき、先日オープンした喫茶店の『CAFE LOTUS』も少しずつであるがお客さんが来ている。
その第1号お客さんであり、既に常連さんとなっている方は本日のケーキであるショートケーキを食べて笑みを浮かべていた。
「美味しい……甘さ控えめのクリームに綿のように柔らかいスポンジ……最高ですわ」
「あの生徒会長さん……毎日来ていただいているのは嬉しいのですが、お茶してていいんですか?」
「え?何でですか?」
紅茶の入ったティーカップを持ち、俺の問いにキョトンとしたのはこの星桜学園の生徒達のトップである生徒会会長の雨月雫先輩である。
雨月生徒会長は成績優秀で星桜学園のアーティファクトバトルにおいてはランキング1位の正真正銘の学園最強の称号を持っているのだ。
しかも俺たちとは一歳しか違わないのに大人っぽくて少しウェーブがかかった水色の髪やスタイルのいい体も合わさって学園ではファンクラブも出来るほどだ。
そんな学園最強の生徒会長が喫茶店で呑気にお茶を楽しんでいるのである。
「生徒会の仕事……しなくていいんですか?」
「いいのですよ、優秀な生徒会メンバーが仕事をしてくれていますから」
「ぶっちゃけサボりですよね?」
「そうとも言います」
そうとしか言わないのでは?と思ったが口には出さずに洗った食器を拭いていく。
雨月先輩は喫茶店がオープンしたその日から頻繁に来てくれている。
しかもこの店のケーキが美味しいなどと同学年の二年生の先輩達にも宣伝してくれているので少しずつお客さんが増えてきている。
お店側としてはお客さんが来てくれるのは嬉しいのだがそんなに頻繁にきて大丈夫なのだろうか少し不安になる。
「何か悩みでもあるのですか?」
「分かるのですか……?」
「まあ仕事柄色々な人間を見ているので」
少々特殊な仕事である蓮宮神社の仕事の関係上、色々な人間を見ることとなる。
何となくだけど先輩が悩んでいる事に気づいた。
「実は……」
「実は?」
先輩はすぐに俺に悩みを打ち明ける為に口を開き、俺は食器を片付けて喫茶店のマスターとして先輩の言葉に耳を傾けた。
「迅が私の気持ちに応えようとしてくれないのです……」
大きなため息をつく雨月先輩。
まさかの恋愛関係の悩みに俺は一瞬思考が停止した。
「えっ……?迅って……副会長の御剣先輩ですか?」
しかもその相手は俺の憧れている先輩の御剣先輩だ。
あれ?でも御剣先輩って確か……。
「ええ、そうです。私の専属執事で副会長の御剣迅です」
あ、やっぱりそうだ。
御剣先輩は雨月先輩の家に仕えていて執事をやっているって前に千歳が言っていたな。
でもそうなると同い年とは言え主人と執事の関係なんだよな。
ある意味禁断の関係だが、うちにも禁断の関係をしそうな兄と姉がいるからあまり驚かない自分がいる……。
とりあえず自分の考えを雨月先輩に伝える。
「そうですね……俺個人の意見ですが、やっぱり言葉と行動だと思います」
「言葉と行動?」
「ええ。長年付き添っている夫婦ならともかく、まだ愛を知らないお互いならちゃんと言葉にして伝えてから行動に移した方が一番効果的だと思います」
自分で言って少し恥ずかしいが恋愛には言葉と行動がやっぱり必要だと思う。
よくある恋愛ものの話だと主人公またはヒロインが鈍感な場合がある。
鈍感な人ほど言葉と行動がとても重要なのがよく分かる。
「随分と詳しいのですね」
「お恥ずかしながら、うちの両親と叔父と叔母の両夫婦が世間でいうバカップル夫婦なので……」
蓮宮神社にいる俺の両親と師匠夫婦はとても仲が良く、歳もそれなりにいっているのにまるで新婚のように言葉と行動で表してイチャイチャしている。
ただ、両夫婦とも見た目が若々しいから見てて玉に頭が痛くなるんだけどね。
すると雨月先輩の顔が笑顔になっていく。
「そうなのですか?言葉と行動か……よし、早速実践してみますわ!天音さん、ありがとうございます!お金、ここに置いておきますね!」
「はい、頑張ってください。それとありがとうございます」
雨月先輩はケーキセットのお金をテーブルに置き、思い立ったが吉日と言わんばかりに喫茶店を後にした。
「結構行動派なんだな、雨月先輩は……」
まあそうじゃなくちゃ生徒会長も務まらないだろう。
御剣先輩、俺のアドバイスを聞いた雨月先輩どう解釈したか分かりませんが頑張ってください。
さて、そろそろみんなも帰ってくると思うしそろそろお茶の準備をしてやるか。
みんなはそれぞれ先生に呼ばれたり日直などの色々な用事があり、今日は俺一人で動いていた。
みんなの分の食器を用意し、拭き掃除をしようと業務用のキッチンダスターとアルコールスプレーを両手に持ち、窓側の席から取り掛かろうとしたその時。
「ん……?」
窓から見える木々が風も無いのに僅かに動いているように見えた。
何かの気配を感じたように思えたが鳥や森の動物の姿も見えない。
「気のせいかな……?」
特に気にすることも無いと自分の中で何でも無いと思い、アルコールスプレーを吹き掛けてキッチンダスターで拭き掃除を始めた。
☆
side刹那
故郷の天影の里から数日かけてようやく星桜学園に到着し、始めてみる学校に拙者と麗奈は気配を消して物陰から生徒達の日常を見ていたでござる。
生徒達は聖獣と共に楽しい日々を過ごしていたでござる。
そんな中、学園にぽつりと一つの西洋風の喫茶店があり、森の影からそっと中の様子を覗くと中にいた主人と思われる少年がこちらを向いていたでござる。
慌ててその場から瞬時に立ち去り、木の枝を足場にして飛びながら麗奈と話をするでござる。
「麗奈……あの喫茶店の主人……」
「ええ……気配を消していた私達に気づいていましたね……」
綺麗な顔立ちをしていたが、只ならぬ気配を感じたでござる。
だが一つ気になる事があるでござる。
「あのお方……只者ではござらぬな。しかし、何処かで見た事があるような……」
「そんなはずはありませんよ。我々は任務を任されまで里の『外』には出られませんから……」
天影一族は任務を命じられるまでは里から出ることを許されず、日々修行に励んでいるのでござる。
「そうで、ござるな……」
麗奈には内緒にしている事が一つあり、口を濁すとそのまま校舎の方へ向かうでござる。
「ではそろそろ厳武様のところへ参りましょう。いよいよ私達の任務が始まりますから」
「承知したでござる」
千歳様の祖父の天堂厳武様に挨拶に向かい、本格的な任務の開始は明日からになる……さあ、拙者と麗奈の人生の全てをかける任務が始まるでござるよ!
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せっちゃんとれいちゃんの登場です。
AOでは天堂家に仕える忍びの一族という設定です。




