第23話 絶望の深き闇
瑪瑙のオーバードライブにどう天音たちが対抗するのか見ものです。
神器超越……オーバードライブは人間と聖獣の絆の象徴であるアーティファクトによる戦術の奥義と呼ばれる力。
その奥義の力を発現したという事は契約者と契約聖獣との間で他者にも負けない強い絆で結ばれたことを意味する。
つまり、今の瑪瑙と女郎蜘蛛は俺たちよりも強い絆で結ばれているという事だ。
俺は超越者……オーバーロードとなった瑪瑙を恐ろしいと思うと同時に強い怒りを抱いていた。
恐ろしいのは強大な力であるオーバードライブを発現したことだが、それよりも怒りの感情の方が今の俺には強く出ていた。
何故なら今の瑪瑙は人間と聖獣の絆を奪う聖霊狩りであると同時に人間と聖獣の絆を昇華させた最高の力を手に入れたという矛盾を含んだ存在になっているからだ。
聖獣の絆を結んだ契約者として、人と聖獣を守る守護者として、何が何でも勝たなければと言う強い思いが出てくる。
「さあ、見せてやるぜ。骸王死弦の力を!」
瑪瑙は骸王死弦を使い、無数の糸を放つがそれは俺たちには向けられなかった。
無数の糸は周りにある樹木や壊れた地面の破片、そして千歳と雷花さんか倒して気絶させた聖霊狩り達に巻きついた。
「全てを我が操り人形と化せ!骸操演舞!」
糸は樹木を引き抜き、地面の破片を持ち上げ、更には聖獣狩り達を文字通り操り糸で吊るした人形のように立ち上がらせて武器のマシンガンを構えさせる。
「やれ」
瑪瑙は樹木と地面に破片を勢いよく投げとばし、聖獣狩り達は再びマシンガンで攻撃を仕掛けてきた。
聖霊狩り達の意識は未だに無い……つまり、瑪瑙のこの技は糸に巻き付けられたものは強制的に瑪瑙の意思で動く操り人形にされてしまう。
「みんな下がれ!!」
璃音兄ちゃんはみんなを下がるように叫び、みんなは一斉に瑪瑙の操り人形の攻撃から下がるが、千歳だけは同時に行動を移していた。
「妖銃変化!!弐之型、ストームガトリング!!!」
無幻九尾銃をストームガトリングに変化させて後ろに下がりながら妖炎弾を連射する。
重いであろうストームガトリングを持ちながら下がり、撃つのは相当な腕力が必要なはず……銀羅のサポートもあるとは言え、本当に強くなったなと実感した。
膨大な数の妖炎弾は樹木や地面の破片を細かく撃ち砕いて操っている聖霊狩りを狙うが……。
「嘘……?」
千歳はストームガトリングの引き金から手を離し、妖炎弾を撃つのを止めた。
何故なら妖炎弾で聖霊狩りを撃っても倒れず、足や腕を怪我をしても瑪瑙の糸で無理矢理動かされている。
部下であるはずの聖霊狩り達を瑪瑙は人形……否、消耗品の道具のように扱っている。
恐らくあの技の前では死体になっても、肉体が壊れるまで動かされるだろう。
幾ら聖霊狩りだとしてもこのまま殺すことは出来ない。
「どこまで外道な……!!」
「天音、援軍がお出ましだ」
「えっ!?」
「蓮宮流神霊術、聳弧天流破!!」
璃音兄ちゃんが何かに気付き、凜とした声が響くと空から雨のような矢が降り注いで聖霊狩りに纏う糸を打ち切り、糸が切れた人形のように倒れた。
「璃音!氷漬けよ!」
「蓮宮流、氷魔零結界!!」
璃音兄ちゃんは霊閃氷帝剣を振り下ろすと倒した聖霊狩り達が一瞬にして大きな氷塊となって氷漬けにした。
多分璃音兄ちゃんの事だからこれ以上聖霊狩り達を戦わせないために氷漬けにしたのだから後で解凍をするはずだ。
「みんな、大丈夫!?」
「花音姉ちゃん!」
そして、俺たちの前に現れたのは黄金に輝く大弓を持った花音姉ちゃんだった。
黄金の大弓は花音姉ちゃんのアーティファクトだろう、弦を指にかけて引くと大弓から発せられている黄金の粒子が集まって一本の矢が現れる。
「ところで……あれは瑪瑙なの?蜘蛛の化け物にしか見えないけど……」
「瑪瑙がオーバードライブをしたんだ」
「オーバードライブ?まさか聖霊狩りがオーバーロードだったなんてね……世も末ね。で、どうするの?氷帝様」
「そうだな、今の戦力と瑪瑙のオーバードライブの力を見て……よし、思いついた。全員集合!!」
璃音兄ちゃんは何かを思いついて俺たちを集合させる。
その間に遠距離攻撃が出来る千歳と花音姉ちゃんが瑪瑙に向けてガトリングと弓矢で攻撃し、時間を稼ぐ。
「いいか?まずは花音と千歳ちゃんでこのまま後方支援の攻撃を任せる。次に瑪瑙に近づくのは俺と天音と恭弥と雷花ちゃんだ。できるだけ固まって一気に進むんだ、下手にバラけると全滅の恐れがあるが、俺の氷と天音の結界である程度の攻撃は防げる。そして、最後に瑪瑙にダメージを与えるのは……」
璃音兄ちゃんは真剣に話を聞いていた恭弥と雷花さんに目線を向けた。
「恭弥と雷花ちゃん。君達だ」
「お、俺!?」
「私……?」
真剣に話を聞いていた分、突然自分達の名前が呼ばれて虚をつかれたように驚いていた。
「二人のアーティファクトは最上級のランクを持つ闘戦勝仏の悟空と雷神のトール、戦いを司る戦神と軍神が宿っている。攻撃力でいったら俺や天音よりも大きい。だから、二人に任せたい」
確かに二人のアーティファクトの能力は高く、他に比べても攻撃力も格段に高い。
ここは二人に任せるのが良いだろうと俺も璃音兄ちゃんの意見に賛同する。
「俺が必ず二人を守る。だから、思いっきり瑪瑙に最高の攻撃をぶちかましてやれ」
「ちっ……天音にそう言われたんじゃ、やるしかないよな」
『おうよ!ここで期待に応えるのが男ってもんだぜ!!』
「トール、頑張ろう……」
『よし……ここはわしの全力の雷をみせてくれるぞ!それと天音、後で美味なる菓子を頼むぞ!!』
「はいはい。後で北欧のお菓子をたくさん作ってあげるよ」
トールの突然のお菓子の要望に思わず苦笑を浮かべ、数秒間だけ目を閉じ、瞼を開くと同時に気持ちを切り替えて鳳凰剣零式を担ぐ。
「よし、行こう」
「千歳、花音姉ちゃん。お願い」
「うん、任せて!」
「みんな、無茶はしないでね」
俺と璃音兄ちゃんと恭弥と雷花さんはすぐに走れるように準備をすると、千歳が意気揚々と先陣を切る。
「銀羅!とっておきの必殺技で行くよ!」
『おお、あれか。派手にやってやろう!』
再び無幻九尾銃を二丁拳銃にして構え、目を閉じて集中をすると無幻九尾銃が夕日のように赤く輝いて大きな熱を帯びる。
「妖炎弾!!九頭龍炎陣!!!」
無幻九尾銃の銃口から先ほどの二頭の炎龍とは比べ物にならないほどの巨大な九つの頭を持つ炎龍が現れた。
「やるわね、千歳ちゃん!なら私も!蓮宮流神霊術!!」
花音姉ちゃんの霊力が解放され、大弓に霊力が注がれて聖獣の力と一つになり大きな力となる。
「駆けよ、炎駒!!炎駒劫翔閃!!!」
黄金の大弓につがえた矢を放つと、矢から炎が現れると炎を纏った馬へと姿を変えて九つの龍と共に地を駆ける。
「炎の龍と炎の馬だとぉ!?ちっ、呑み込んでやるよぉっ!!」
瑪瑙は糸を操り、先ほど俺の静凛白蓮を打ち消した時と同じように千歳と花音姉ちゃんの技を呑み込もうとしていた。
しかし、二人が放った炎の龍と炎の馬は瑪瑙が放った糸を燃やし尽くしていく。
「何ぃっ!?」
「「今よ!!!」」
無数の糸が次々と灰となっていき、俺たちは再び瑪瑙に向かって走り出した。
俺と璃音兄ちゃんが先行して走り、恭弥と雷花さんはそれぞれのアーティファクトに力を込めながら走る。
「舐めるな!死弦は無限に作れるんだよぉっ!!」
背中の八本の足から更に大量の糸を作り出して襲いかかる。
「「蓮宮流、天凛蓮華!!!」」
俺と璃音兄ちゃんは鳳凰剣零式と霊閃氷帝剣を高速で振るい、大量の糸を切り裂いていく。
「天音、後は任せろ!!」
「準備……完了!!」
少しずつ、少しずつ近づいて瑪瑙との距離が近づいていく内に恭弥と雷花さんの準備が終わった。
「二人共、任せたぞ!」
「おう!如意金箍棒、部分変化!!」
恭弥は如意金箍棒を手の中で回すと、先端が鋭い刃の形となる。
恭弥が悟空のシンクロ率を上げたことによって如意金箍棒の秘めた能力を引き出したのだ。
そして、如意棒が巨大化していき、鞭のように柔らかくなりながら龍のように動いて瑪瑙に向かって特攻する。
「切り裂け、刃龍砕破!!!」
雷花さんは莫大な雷をチャージしたライトニング・トールハンマーを地面に向かって振り下ろし、全ての雷を解放する。
「爆雷撃神……ライトニング・ブレイカー!!!」
解き放たれた全ての雷が少しずつ形を成していき、巨大なトールの形となった。
雷のトールは右拳を強く握りしめ、如意棒と並行して攻撃する。
龍の如き如意棒の一撃と雷の巨神の拳が瑪瑙に向かって攻撃する。
武神と軍神の最高の一撃が同時に放たれ、これで瑪瑙を倒せる……そう思った次の瞬間、瑪瑙はニヤリと笑みを浮かべながら自分に糸を巻きつかせて繭のように包んだ。
そして、瑪瑙が今まで放った全ての糸が怪しく白い光を放った。
その時、俺は何か嫌な予感が頭に過ぎり、とっさに霊煌紋を輝かせる。
「煌めけ、水面に咲く蓮の花々よ!霊煌陸式結界!!百花繚乱!!!」
自分達の周りに蓮の結界を沢山重ねて半円形状に展開する。
結界・百花繚乱は全方位からの攻撃を防ぐ霊操術最高の防御技だが……瑪瑙は俺たちを絶望へと追い詰める技を使った。
「秘技……死弦爆砕陣!!!」
ドガァアアアアアアアアアアン!!!
次の瞬間、瑪瑙の糸がダイナマイトのように一気に爆発し、衝撃波と爆炎と爆音が辺りを包み込んだ。
数秒にも満たない時間が何時間にも感じられ、爆発の威力が高すぎて頭がフラフラになって立ってるのがやっとだった。
周りにいるみんなは結界で何とか守れたが、爆発の威力に膝をついていた。
「みんな……大丈夫か……?」
みんなの命を守った蓮の結界が粉々となって崩れ落ち、塵となっていく。
「天音、助かったぜ……」
「まさか糸が爆発するなんて……」
「私と恭弥の攻撃が爆発で吹き飛んじゃった……」
璃音兄ちゃんが考えた作戦だがオーバードライブで能力がパワーアップした瑪瑙のアーティファクトに俺たちは危うく全滅寸前だった。
そして、煙が止むと同時に無数の糸が俺のすぐ近くまで迫っていた。
「死ねぇっ!!!小僧!!!」
瑪瑙は糸を繭のように包んでいたために無傷で、糸を束ねて鋭い刃となって迫っていた。
ダメだ、強化で動いて避けたら璃音兄ちゃんと恭弥と雷花さんが危ない!
俺は鳳凰剣零式を握りしめ、全ての糸を叩き切ろうとしたその時だった。
ザクッ!!
「うぐっ!?」
突然、両足に強い激痛が走り、足元を見ると細い糸が俺の足を貫いていた。
それは俺が三年前に受けた時と同じだった。
瑪瑙は糸で足を貫いて地面に括り付けて動けなくしていた。
更に両腕も糸で貫かれ、激痛と共に動けなくなった。
「あっ、がっ!?うぁあああああっ!!?」
あまりの激痛に手の力が無くなり、鳳凰剣零式が手から落ちてしまう。
「天音ぇっ!!!」
少し遠くにいる千歳の声が響いた。
ああ、ダメだ……このままだと体が糸に貫かれる……。
霊操術を使おうとしても間に合わず、俺は目を強く閉じてこれから来る痛みを覚悟した。
グサッ!!!
何かを貫く音が響いたが、俺の体に両手両足以外の痛みが無かった。
俺はゆっくり目を開くとそこには信じられない光景があった。
「えっ……?」
そこには自分が幼き日から追い続けてきた大きな背中があった。
剣士として尊敬し、自分を可愛がってくれていた大好きな兄としていつも慕っている見慣れたその背中が今、目の前にあることに目を疑った。
「うっ、ぐぅっ……天、音……無事か……?」
「璃音兄ちゃん……?」
璃音兄ちゃんの体には幾つものの鋭い刃と化した糸で貫かれていた。
まさか、俺を……俺を守るために……?
「な、何で、俺を……?」
声を震わせながら尋ねると大きな右手でくしゃっと俺の髪の毛を軽く掴みながら頭を撫でる。
「天音……お前は、俺の大事な弟で……俺の……誇りだ……」
そして、璃音兄ちゃんは淡い笑みを浮かべながら静かに倒れた。
貫かれた傷口から大量の血が流れ、地面が赤く染まった。
その瞬間、俺は三年前に師匠の左腕が奪われた時の光景が一気に頭の中に埋め尽くされた。
俺の所為で……俺の所為でまた、大切な家族が傷付いてしまった……。
みんなを守ると決めたのに、守れなかった……。
「あっ、あっ……うぁああああああああああああああああああああああーーっ!!!」
俺は目の前が真っ暗になり、自分の持つ何もかもが深き闇へと堕ちていった。
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天音のトラウマが刺激されて闇堕ちしていきます……。
師匠の叔父に続いて兄貴が傷ついたら精神がおかしくなっても仕方ありませんよね。
次回は天音の暴走です。




