第20話 迫り来る狩人達
第一章であるこの物語もついに後編に突入です。
時間が掛かってしまいますがゆっくり書いていきます。
時間と言うのはあっという間に過ぎてしまうもので、遂に聖霊狩りが襲撃するとされているトーナメント前日の夜となった。
迎え討つ準備は全部終えて後は明日に備えて寝るだけだったが、仇敵が来ると思うだけで眠れずに俺は部屋を抜け出してもはやお気に入りの場所と言っても過言では無い校舎の屋上に寝そべっていた。
「月が綺麗だね」
「……俺は死ぬつもりは無いぞ」
俺は寝そべりながらそう答えた。
「はぁ……まさかそう言う返答をするとは思わなかったわ……」
俺の返答に千歳は額に手を当てて苦笑いを浮かべた。
「今のはダメ、もう一度考えてから言って」
「何でだよ?」
「良いから、早く」
「ったく……分かったよ」
俺は起き上がってため息をついて千歳に向かい合う。
今は女体化して身長が少し縮んでいていつもと視線が違ってくる。
千歳は右耳にかかった髪を右手でかき上げながら微笑んだ。
「では改めて……月が綺麗だね」
女の子の仕草というのだろうか、いつもより千歳が可愛く見え、更には月から放たれる淡い光に照らされたその姿を一瞬、天女のように見えた。
俺は千歳が望みそうな言葉を考えながら返事をした。
「……月は等しくみんなを照らすけど、俺の月はお前だよ」
これなら良いんじゃ無いかと思って口にしたが、千歳は一気に顔を真っ赤にしてあたふたと慌て始めた。
「えっ、あっ、あうう……は、反則だよ……天音が女の子の体じゃなかったら襲いかかっていたよ……」
「発情するな、阿呆。明日は戦いになるんだから緊張感を持て」
阿呆な事を言う千歳にデコピンを喰らわせる。
「いてて……やっぱり、天音も緊張しているんだ?」
「……当たり前だろ?瑪瑙は俺の越えるべき壁だからな」
「壁?」
「ああ……」
俺は床に置いてある蓮煌を持ち、鞘を強く握りしめながら気持ちを打ち明ける。
「瑪瑙は俺にとって心に巣食う闇そのものだ。あいつのせいで師匠は左腕を失って十二代目を引退を余儀なくされた……今でも目を閉じれば思い出すんだ。あいつの姿を、あいつがどれだけ大きな存在なのか……」
三年近くも封印されていた記憶が蘇ったからこそ鮮明に映し出される瑪瑙の姿。
俺が今まであった人間の中で一番凶悪で一番恐ろしい存在だ。
「だからこそ、俺が蓮宮十三代目当主として、極東の守護者として……人と聖獣を守り、生き抜くための越えるべき壁なんだ」
もう二度と、目の前で大切な人を失いかけたく無い。
守護者として、友人を、仲間を、家族を守ってみせる。
「天音、意気込みは良いんだけど……あまり背負い過ぎないでね?」
「わかってるよ。俺は先代達に比べてまだまだ弱いからな」
「その為に私達がいるんだよ。白蓮ちゃんに銀羅、恭弥に悟空、雷花にトール。それに、璃音さんに花音さん。みんなで瑪瑙達から学園を守ろう」
「あ、ああ……」
千歳の言葉に俺は敵わないなと感じた。
十年も離れ離れになっていたけど、まるで千歳は今までずっと一緒にいてくれたように俺の事を理解して励ましてくれている。
この繋がりは決して解けないものだ。
必ず勝とう……みんなの力で。
『言わずもがな、私もいるからね、天音』
「空音……?」
最近静かだった空音の声が頭に響いた。
もしかしたらまた刀型の鳳凰剣零式を使う機会があるかもしれない。
よくわからない力をあまり多用するのはいけないかもしれないけど、考えられるあらゆる全ての手を使ってでも瑪瑙を倒す意気込みなのでこの際仕方ない。
「よし……そろそろ眠気も出てきたし、部屋に戻るか」
「うん、そうだね」
「ところで、千歳はどうやって屋上に来たんだ?」
「え?ああ、校舎の鍵をおじいちゃんから貰ってるから」
そう言って千歳はジャラッと音を鳴らしながらリングに纏められた沢山の鍵を取り出した。
「学園長……」
病弱だったたった一人の孫である千歳を可愛がりたい気持ちは理解出来るが、あまりにも学園長としての権力を使い過ぎだと思い、頭を抱えた。
☆
翌日……トーナメントが行われるアーティファクト・アリーナは朝から満員だった。
アリーナには既に護符を貼っているのでいつでも俺の合図でこのアリーナ全体を包む聖域を展開出来る。
『まだ、来ないね……』
『そうだな……多分試合が始まってからだろう』
白蓮と銀羅はいつにも増して目を鋭くして周りを見渡していた。
聖獣にとって聖霊狩りは忌むべき存在であり敵だからある意味俺たちよりも警戒している。
「最初はデモンストレーションか」
「相手は生徒会長の雨月先輩と副会長の御剣先輩だね」
星桜学園生徒会長の雨月先輩は学園最強との呼び声があり、副会長の御剣先輩も同格と言われている。
確か名家のお嬢様と執事の主従関係らしいけど、恋人同士とも噂がある不思議な二人だ。
「さて、仕事の前に……千歳、これを持っていてくれ」
「何これ?飴玉……?」
俺が渡したのはビニールの小さな袋に入れた飴玉だ。
「俺が作った飴玉だ。ただの飴玉じゃなく弐式の治癒の力が込められている霊力入りの飴玉だよ。舐めるなり噛み砕いて飲み込めば多少の傷と体力を回復出来る。もちろん甘いから精神を安定させるのにも効果的だよ」
「凄い……こんな回復アイテムも作っちゃうなんて」
「二代目が残してくれたレシピを元に作ったんだ。二代目は病気や怪我、健康について勉強や研究をしていた人みたいだからね」
もし時代が時代なら二代目は医者か栄養士になっていたかもしれない。
料理が好きな俺は二代目が残したレシピを解読してノートに纏めている途中だ。
「恭弥と雷花さんにも渡してくる。それから……白蓮、銀羅、今食べてもいいけど食べすぎるなよ?」
ビクッ!?
この世界に来てから食いしん坊になった白蓮と銀羅は飴玉をジッと見ていて俺が指摘すると二人の体が一瞬震えた。
「一個だけだよ」
俺はそう言い残してもう一つの飴玉が入った袋を持って恭弥と雷花さんの元へ向かった。
☆
星桜学園から少し離れたビルで銃器や火器を整備している邪悪な一団が待機している。
「良いかぁ?よーく狙えよぉ〜。この一撃でアリーナにいるガキどもをパニックにして一気に獲物を頂こうぜ?」
その中でリーダー格の女は不気味な笑みを浮かべて部下の男たちに呼びかける。
女は両腕に黒い手袋を付けて顔には大きな一文字の傷跡があった。
「さぁ……ここにはあの小僧がいるんだよな?私の腕を奪い、顔に傷をつけた野郎がよぉおおおおおおっ!!」
女の怒りの叫びに反応するかのように背後の空間が黒く染まり、中からメキメキと不気味な音を立てながらゆっくりと現れた。
「さぁ……狩りの始まりだ……鬼那!!」
それは女の契約聖獣であまりにもおぞましい姿をした聖獣だった。
上半身が女の体で、下半身が蜘蛛の体……女郎蜘蛛と呼ばれる巨大な妖怪だった。
女郎蜘蛛は巨大な蜘蛛の妖怪で上半身が女の姿をしていて人を喰らうと言われている。
瑪瑙は黒い手袋を外すとそこには人間の手はなかった。
驚くことに手先から肘にかけて機械で作られた義手で繋がれていた。
精巧に作られた機械の義手は女の神経と脳に繋がっており、肉体の手と同じように動かしていた。
そして、手先から赤く塗られたワイヤーが出てきて女はそのワイヤーの赤いものを味わうように舐め、そして女は狂ったように笑い出した。
「こいつをあの小僧と聖獣のもので綺麗な真っ赤に染めてくれよ。くっくっくっ……あっははははは!!!!」
そのワイヤーは金属製で色は元々は金属特有の銀色だったが、あるもので色づけられている。
ワイヤーの赤い物の正体、それは……今まで女が狩ってきた数多の人間と聖獣の血だった。
「行くぜぇ……契約執行!鬼那!!」
女郎蜘蛛の体が粒子となり、義手とワイヤーに入り込んで一つとなる。
「アーティファクト、骸繰死糸!!!」
契約媒体の機械の義手たワイヤーがアーティファクトとなったことにより、その二つが一つになり、指先から無数のワイヤーが飛び出ていた。
しかも、ワイヤーの一本一本がまるで生き物のようにうねうねと動いていた。
「さあ……ハンティングゲームの幕開けだ!!!」
女の狩りの開幕宣言と共に復讐の時間が始まるのだった。
☆
アリーナの別のエリアで待機している恭弥と雷花さんに飴玉を渡して千歳達の元へ戻ると白蓮と銀羅は美味しそうに飴玉を頬張っていた。
やれやれ、また菓子を作ってくれとおねだりされそうだな。
しばらくすると、放送部の神楽坂先輩がアナウンスが流れるとフィールドに雨月先輩と御剣先輩が入場した。
雨月先輩は髪の色と同じ水色のドレスを身に纏い、手には槍が握られていた。
対して御剣先輩は綺麗な装飾で飾られた執事服を身に纏い、手には雨月家の家紋と思われる雨の雫に三日月が描かれた円形の盾が握られていた。
普通武器型のアーティファクトなら俺や千歳のように戦いに適した物を契約媒体にするが、盾を契約媒体にするのはとても珍しかった。
二人の契約聖獣の姿が見えないなと思っていると、二人は懐からそれぞれ藍色と白色の気鳴楽器であるオカリナを取り出して息を送り込んで演奏する。
オカリナは簡単そうに見えて演奏するのが少し難しいと言われているが、二人が奏でる美しいオカリナの優しい音色がフィールドから天にまで響き渡る。
『『ヒヒーン!!』』
上空に二つの魔法陣が出現し、二つの鳴き声と共に、天を駆け抜ける二つの影がフィールドに舞い降り、それぞれ雨月先輩と御剣先輩の側に寄りそう。
それは馬の姿をした二体の聖獣だった。
雨月先輩の聖獣は水色の毛皮に額に見事な螺旋状の鋭い角を持った馬で、対する御剣先輩の聖獣は汚れが一切ない純白の毛皮に大きな翼が生えた馬だった。
「凄いでしょう?雨月先輩は一角獣・ユニコーンのソフィーで、御剣先輩は天馬・ペガサスのクラウドだよ」
千歳はこの学園に在籍する生徒の契約聖獣をある程度熟知しており、俺は美しい二つの聖獣に頷いた。
一角獣と天馬。
その二体は聖霊界に存在する馬型の聖獣の中でも特に有名で代表する二体と言っても過言ではない存在だった。
「さあ、行きますわよ。ソフィー」
「クラウド、行くぞ……」
二人はそれぞれの聖獣の体を優しく撫で、自身の契約媒体の獲物である槍と円形の盾を構える。
「「契約執行!」」
二人の契約執行の声が重なり、ソフィーとクラウドの体が粒子化する。
「一角獣、ソフィー!」
「天馬、クラウド!」
一角獣のソフィーは雨月先輩の槍に、天馬のクラウドは御剣先輩の盾に入り込みアーティファクトの姿へと変化する。
「アーティファクト、ユニコーン・ザ・グングニール!!」
ソフィーと槍を契約執行させたアーティファクトは、槍頭が一角獣の鋭い螺旋状の角と顔を模した形となり、柄の部分には水色の長い布が何重にも巻かれていて握りやすくなっていた。
「アーティファクト……イージス・オブ・ペガサス」
対して、クラウドと盾を契約執行させたアーティファクトは、巨大な盾に天馬の姿が描かれ、羽で作られた見事な装飾が施された強固な盾となった。
神話に出てくる伝説の神の槍と神の盾の名を持つその二つのアーティファクトは、学園最強の二人に相応しいものだった。
そして、二人はシールドリングを起動させてシールドを身に纏い、アーティファクト・バトルの準備が完了した。
武器を構えて神楽坂先輩と観客のカウントダウンでバトルが始まろうとしたその時。
Prrrr……!!
「璃音兄ちゃん?」
右手に持っていた携帯電話が鳴り、着信音が鳴るとすぐに出た。
「もしもし?」
『天音!今近くのビルからアリーナに向けて遠距離攻撃で発射された!』
「何!?」
『幾つかは俺と花音で相殺させるが数発はそっちに向かう、頼んだ!』
璃音兄さんの連絡を切ると同時に護符を取り出して上に向けて掲げ、今までアリーナに眠っていた全ての護符の力を解き放つ。
「今こそ眠りし力を解き放て!霊操二十番『解放』!!」
掲げた護符が空に向かって打ち上がると無数の霊力の光となってアリーナ全体に降り注いだ。
そして、このアリーナに前から仕込んでいた力を解き放つ。
「暗き災いから守りたまえ!霊操十九番『聖域』!!」
アリーナを包む蓮の花の絵柄が刻まれた半円形の結界が展開される。
会場にいるみんなが何だと困惑したその数秒後……。
ドォオオオオオン!!
「キャッ!?この音……ミサイル!?」
「流石は軍人さんから教えを受けた人だな。後数秒遅れたらアリーナは危なかったな……」
一先ず、アリーナはこれで無事だ。
しばらくの間、外からの攻撃には耐えられる。
いよいよこの時が来たか……。
「行くぞ、白蓮」
『うんっ!行こう!』
「銀羅、準備は良い?」
『ああ……聖霊狩りを殲滅してくれるわ!』
三人とも準備は万端ですぐにアリーナの出口へ向かう。
出口への通路を走っているとそこに見慣れた人がいた。
「蓮宮さん!天堂さん!」
「柊先生……」
「先生……」
柊先生はこの騒動に教師一同で対応しようとしていたその時に俺たちと鉢合わせとなった。
「何処に、行くのですか……?」
今は時間が惜しいがこのまま無視するわけにはいかない。
「簡潔に答えます。今、聖霊狩りがこの学園に来ています。俺たちはみんなを守るために戦います。先生は……みんなをお願いします」
「聖霊狩りが……!?危険です!幾らあなたが蓮宮の御当主でも……」
「これは蓮宮の当主として避けられない戦いです。邪魔しないでください」
「ですが……!大切な生徒をそんな危険な目に……」
あくまで止めようとする柊先生に俺は師匠から教えられた言葉を口にする。
「戦いの時……人には、それぞれ自分の成すべき役割がある……」
「はっ!?その言葉……詩音先生の……?」
柊先生は師匠の名前を口にして驚いていた。
そう言えば昔、師匠は蓮宮の当主になる前に教師をしていた時期があったと言っていた。
不思議な縁だが、柊先生は師匠の生徒だったのか。
しかもこの言葉を知っているのなら話は早い。
「その役割を果たした時、戦いを勝利へと導く……俺には俺の、先生には先生の役割があります。だから、行かせてください」
人には役割がある。
それは日常生活に関わらず様々な時でもそうだ。
特に戦いの時は皆が一致団結し、自分の成すべきことをしないと勝てる戦いも勝てなくなる。
それを師匠からそう教えられた。
俺は人と聖獣の命と未来を奪う聖霊狩りを……そして、瑪瑙を必ず倒す。
それが、今の俺の成すべきことだ。
その言葉を耳にした柊先生は軽く拳を握って決意を固めた表情をして口を開いた。
「来週も……」
「来週?」
「来週も授業があるんですから、必ず受けてくださいね!」
柊先生の指示に俺と千歳は笑みを浮かべて強く頷いた。
「「はい!!」」
それと同時に柊先生の横を通り過ぎ、アリーナを後にした。
「天音!千歳!」
「恭弥!雷花さん!」
アリーナを出ると恭弥と雷花さん、悟空とトールと合流する。
「複数の電磁波……来ます!」
生物は体から微弱な電磁波を放っており、雷を自由自在に操る雷花さんはその電磁波を感知することができる。
つまり、聖霊狩り達がこちらに向かっているということだ。
「さぁて……派手に暴れるわよ!」
千歳はホルスターからフォーチュン&ディスティニーを引き抜いて手の中でクルクルと回した。
恭弥と雷花さんは既に金剛棒とピコピコハンマーを持っており、俺は静かに蓮煌の柄に手を添え、鞘から刃を解き放つ。
蓮煌の刃はいつもと変わらない炎のような緋色の輝きを放っていた。
「よし……白蓮、契約執行!」
『うんっ!!』
「銀羅、契約執行!」
『ああ!!』
「孫悟空、契約執行!」
『応よ!!』
「トール、契約執行!」
『うむっ!』
俺たちはそれぞれの契約媒体を掲げ、契約聖獣達の気合のこもった返事と共に契約を執行する。
聖獣達の体が光の粒子となり、それぞれの契約媒体と一つとなって俺たち人間との絆の神器が姿を現わす。
「アーティファクト、鳳凰剣零式!」
「アーティファクト、無幻九尾銃!」
「アーティファクト、如意金箍棒!」
「アーティファクト、ライトニング・トールハンマー!」
鳳凰の大剣、九尾の銃、戦神の棍棒、そして雷神の鎚が俺たちの手に握られる。
俺は鳳凰剣零式を肩に担ぎ、大きく深呼吸をし、みんなの顔を見てから大きく叫んだ。
「さあ、イッツショータイムだ!!!」
それが俺たちの戦闘開始の合図となった。
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次回、聖霊狩りとの対決です。




